忙しいと、普段の食事をコンビニなどで済ませることが多い人もいるのではないでしょうか。そのような生活を長く続けていると、どうしても塩分の摂取量が多くなり血圧が上がってしまうため身体によくありません。血圧を下げる必要があった60代の独身男性に、『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』(KADOKAWA)著者、医師の舛森悠氏がすすめたものをみていきましょう。

血圧の薬から卒業するために患者さんが利用したもの

僕の外来へ通院しているNさんは、酢を上手に利用して、見事に血圧の薬から卒業しました。

Nさんは60代後半の男性ですが、現役バリバリで現在も市役所で働いています。体形は中肉中背ですが、数年前から体重が徐々に増えてきて、血圧も最高血圧150mmHg、最低血圧90mmHgと高い値が続いていました(診察室血圧の正常値は、最高血圧が140mmHg未満、最低血圧が90mmHg未満)。

独身で忙しいNさんには、手の込んだ料理を作る時間はありません。食事はコンビニで調達したものですませてしまうことが多いようでした。そんな食生活をしていると、どうしても塩分摂取量が多くなります。

体質的に、塩分を過剰摂取すると血圧が上がりやすい人がいます。Nさんの場合も塩分が気になったので、まずは減塩をがんばってもらうことにしました。

塩分を抑えるコツは、塩の代わりに酸味や辛味・旨味を活用することです。

そこで、鶏肉を塩コショウで炒めるのが好きだと話していたNさんに、酢豚ならぬ「酢鶏」を勧めてみました。炒めた鶏肉と野菜に、酢、ケチャップみりん、砂糖、片栗粉の合わせ調味料からめるだけの酢鶏ならそれほど手間はかかりません。

それ以外の料理でも、塩の代わりの調味料として酢を用いることを勧めると、それでスイッチが入ったのか、Nさんは食事全体の塩分を減らすよう意識するようになりました。例えば、以前はおひたしには醤油をドバッとかけていたのが、小皿の醤油にちょこっとつけて食べるようになったと、得意気に話してくれたことも。減塩のおかげで、Nさんの血圧は平均して5mmHgほど低下しました。

Nさんに効いた減塩術 塩味の代わりに、酸味・辛味・旨味(酢、ケチャップみりん、砂糖、片栗粉の合わせ調味料での肉野菜炒めは、特に気に入っていただけました!)

さまざまな健康効果がある酢とは

酢には血圧を下げる効果が期待されていますが、大規模な研究はありません。

玄米酢を1日15ml(大さじ1杯)飲んだ場合に、血圧が約8%低下したという日本の研究はありますが、研究規模は少々小さく、むしろ食塩を減らすために酢の力を利用する影響のほうが大きいのではないかと考えています。

ところで最近では、リンゴ酢の健康効果が世界的に注目されています。

リンゴを数年発酵させて作るリンゴ酢には、カリウムという血圧を下げる効果のあるミネラルが豊富に含まれています。また、ペクチンという水に溶ける食物繊維が含まれているので、その作用で血糖の上昇を緩やかにしたり、悪玉コレステロールを減らし、善玉コレステロールを増やしたりといった効果も期待できます。

実際、ある海外の研究なのですが、リンゴ酢の摂取が総コレステロールを低下させ、血糖値を改善したとの報告もあります。

リンゴ酢そのものはやや苦くて飲みづらいため、砂糖が加えられている商品が多いようです。リンゴ酢を選ぶ際には、原材料に砂糖などの糖分が添加されていないかを確認しましょう。また、発酵期間を短縮するために、製造過程でアルコールを添加している商品もあるのですが、こうしたものも避けたほうが無難でしょう。リンゴ酢を手に取る際には、裏面の成分表示で添加物が追加されていないかを確認してみてください。

おすすめのリンゴ酢の飲み方

1日に摂取するリンゴ酢の適量は15ml(大さじ1杯)です。酢は酸性ですから、決してそのまま飲んではいけません。空腹時に飲むと胃の粘膜がダメージを受けます。胸やけやむかつきが起きる可能性もあるのでご注意ください。僕は、リンゴ酢大さじ1杯を炭酸水で割って、蜂蜜を少し加えています。蜂蜜の自然な甘みと炭酸の爽快感がとてもおいしいです。

なお前述のNさんですが、最初は調理に酢を使う程度だったのが、徐々に酢にはまり出し、そのうち毎朝リンゴ酢を飲むようになりました。Nさんの血圧はさらに改善し、最終的には、血圧の薬を卒業することができました。

舛森 悠

医師

(※写真はイメージです/PIXTA)