いまや「サンライズ瀬戸・出雲」だけになってしまった定期寝台特急ですが、かつては多種多様な寝台列車が存在していました。なかでも、「最も面積が広い」「個室の」寝台は何でしょうか。ランキング形式で上位10選を紹介します。

クルーズトレインは除外

寝台車が日本の鉄道で初めて登場したのは1899(明治32)年のこと。私鉄の山陽鉄道でした。この時は開放形寝台車でしたが、1917(大正6)年に官営鉄道が4人用個室寝台を初採用します。5035形寝台車です。

それ以降、現在に至るまで日本の鉄道には個室寝台車が存在してきました。特に戦前は皇室用客車や要人用の個室付き客車など、特別な設備の車両も製造されたため、戦後より豪華な車両も見られました。

例えば京都鉄道博物館に保存されたマロネフ59形は、製造時はマイロネフ37290形でしたが、同型車は後に14号御料車になったほどです。14号御料車には豪華な特別個室がありました。大型ソファ3脚を備えた居室部分と、寝台幅1.06mの寝台を2つ備えた寝室、さらに洗面室とシャワー室がそれぞれ独立して設置されていました。個室幅は1.862m、個室長さは居室・寝室が6.225m、シャワー室と洗面所を含めると8.77mあり、個室の床面積は16.3平方メートルにもなりました。

ただし戦後にこのような豪華車両は長く製造されませんでした。「走るホテル」といわれた20系客車でも、1人用個室「ルーメット」が床面積1.98平方メートル、「2人用個室」でも2.7平方メートルです。14・24系寝台車では、1人用A個室寝台のオロネ25形が2.23平方メートル、2人用B個室寝台「デュエット」が約3.7平方メートル、4人用B個室寝台「カルテット」は3.73平方メートルでした。

それでもJRが発足すると、豪華寝台特急北斗星」「トワイライトエクスプレス」が運行開始し、個室寝台の面積は大きく広がります。では最も広い列車は何か。歴代の寝台特急において、ランキング形式で比較していきましょう。

なお「トワイライトエクスプレス瑞風」などクルーズトレインについては、室内広さを正確に算出できないこともあり、除外します。

24系とE26系が拮抗

■10位:E26系客車 2人用A個室寝台「カシオペアツイン」/5.3平方メートル
寝台特急カシオペア」(現・団体列車「カシオペア紀行」)で最も多い個室です。平屋・2階・階下の3タイプがありますが、床面積はほぼ同じです。

寝台はL字型に配置され、レール方向と枕木方向の好きな方で寝られます。個室内には洗面所とトイレを備えた区画があります。平屋タイプの一部は3人利用に対応しています。

■9位:24系客車 1人用A個室寝台「ロイヤル」/約5.7平方メートル(シャワー室含む。以下同)
寝台特急北斗星」「トワイライトエクスプレス」などに連結されていました。シャワー室を備えた個室寝台として、登場時から最終運行までプラチナチケットでした。

ソファとテーブル、寝台と座席を兼ねた居室部分は2.03m、シャワー・トイレ室は0.9mの室内長さがあり、寝台は補助ベッドを展開することで2人用としても使えました。

■8位:E26系客車 2人用A個室寝台「カシオペアコンパート」/5.8平方メートル
カシオペアツイン」の車いす対応型です。この個室は2段寝台で、床も車いすを展開することに配慮して、やや広くなっています。

■7位:24系客車 2人用A個室寝台「スーペリアツイン」/8.9平方メートル
究極の豪華車両「夢空間」の個室です。寝台幅80cmのシングルベッドが2つ、ソファ、クローゼット、テレビ、電話を備えた居室部分(長さ3.25m)と、バスタブ、シャワー、トイレを備えた浴室部分(1.23m)に分かれていました。

■6位:E26系客車 2人用A個室寝台「カシオペアデラックス」/9.9平方メートル
寝台特急カシオペア」に1室だけ存在します。個室長さはシャワー室を含むと5mあります。L字型の寝台に加え向い合せのソファもあり、シャワー室もあるので、設備としては「カシオペアスイート」と大差ありません。

上位には「スイート」が

■5位:24系客車 2人用A個室寝台「スイート」(方窓タイプ)/11.26平方メートル
寝台特急トワイライトエクスプレス」最上級個室の中間車タイプです。居室長さは4.5mもあり、寝台幅82cmのシングルベッドが2つと、寝台にもできる向かい合わせソファがありました。テレビと冷蔵庫も設置されていました。

シャワー室はトイレとシャワー室が分離され、両方を含めた個室長さは5.79m。乗り心地は後述する展望室タイプより上でした。

■4位:E26系客車 2人用A個室寝台「カシオペアスイート」(メゾネット)/13.57平方メートル
寝台特急カシオペア」の最上級個室で、個室内が2階のリビングと、階下の寝室に分かれています。上下とも個室長さは2.83m(階段を含めると3.48m)、個室幅は1.99mです。個室内にはシャワー、トイレが設置された区画も用意されています。リビングのソファを寝台に転換することで3人利用も可能でした。

■3位:E26系客車 2人用A個室寝台「カシオペアスイート」(展望室)/13.66平方メートル
同じく「カシオペア」の最上級個室で、編成端に連結されているため、展望を独占できます。個室長さはシャワー室を含むと5.18m、含まないと4.21mです。居室部分は寝台幅85cmのシングルベッド2つと2人用ソファがあり、ソファの部分はカーテンで仕切れます。

車体幅2.88mが個室幅になります。壁の厚さを引くと2.44mという資料もありますが、乗車した実感としては、もう少し広く感じられました。

■2位:24系客車 2人用A個室寝台「スイート」(展望室)/14.29平方メートル
寝台特急トワイライトエクスプレス」の最上級個室です。列車の端に連結され、展望を独占できました。個室長さはシャワー室を含むと4.93m、含まないと4.25m。個室幅は2.75mです。

居室内には寝台幅82cmのシングルベッドが2つと、向かい合わせソファがあり、ソファを転換すれば3人利用もできました。このソファは自由に動かせるので、後方に向けて展望を楽しむこともできました。

テレビや冷蔵庫も備わるため、定期運行の寝台特急としては最高の設備でした。

1位は?

■1位:24系客車 2人用A個室寝台「エクセレンスイート」/14.6平方メートル
臨時寝台特急「夢空間北斗星」などの目玉だった、超豪華個室です。居室部分は6.1mあり、寝室とリビングが別々に区切られていました。リビングと寝室にそれぞれテレビもありました。バスタブを備えた浴室は「スーペリアツイン」と同じですが、配色がやや異なりました。

寝室は寝台がL字型に配置されていましたが、寝台幅は125cmあり、1人あたりの幅では寝台特急で最長。寝台料金は2人分で6万7280円と「スイート」「スーペリアツイン」「カシオペアスイート」の5万980円を上回り、こちらも最高でした。

設備としてはクルーズトレインに匹敵し、寝台の寝心地も素晴らしい車両でしたが、車端部の個室なので揺れがありました。

ちなみに「カシオペア」以外の現役車両は、寝台特急サンライズ瀬戸・出雲」の1人用A個室寝台「シングルデラックス」が4.8平方メートル、2人用B個室寝台「サンライズツイン」が3.8平方メートル。夜行特急「WEST EXPRESS 銀河」の2人用グリーン個室が3.9平方メートル、3~4人用簡易個室「ファミリーキャビン」が床面積4.8平方メートルです。

かつて上野~札幌間を結んだ寝台特急「北斗星」(2014年4月、安藤昌季撮影)。