日本全国のラブホテルは3万件と言われている。ちなみにコンビニが5万件、歯医者が6万件、神社が15万件である。コロナ前の全盛期には、ラブホ業種全体で売上が7兆円を超え、当時の日本の国防費4兆円を上回ったこともあった。

「と言われている」と記載したのは、ビジネスホテルやシティホテルとして営業している「偽装ラブホテル」も多数存在するからである。詳しくは後述するが、その実態はあまり知られていない。

 筆者(綾部まと)は新卒でメガバンクに入行し、8年間にわたって中部地方と東京の某支社の営業、丸の内本部でのトレーニーを経験した。今回はラブホを含むホテル業界を担当してきた経験から、意外と知られていない、ラブホの3つの秘密をご紹介する。

ラブホの秘密①多くのラブホは、“シティホテル”として届け出ている

 新風営法により、従来のラブホテルでも「ある要件を満たせば、ビジネスホテル・シティホテルとして届出をして良い」と、法律が変更された。ある要件とは、食堂やフロントの有無、鏡や回転ベッドなど性具の有無、部屋の面積等である。

 これらを見て、首をかしげた方も多いのではないだろうか。食堂があるラブホなんてまれだし、フロントでなくタッチパネル式も多い。これらには裏事情がある。ホテルはパーテーションを作っておいて、監査の時にだけ対処するのだ。

◆監査に対処する方法は「飲食店と同じ」

 この手法は、飲食業界でも使われている。「対面型キッチンでは申請が下りないから、監査が来る時だけ仕切りを立てて、独立型キッチンに見せかけるんですよ」と、都内の有名飲食店オーナーは語る。

 どうしてここまでして、ビジネスホテル・シティホテルとして届け出をしたいのだろうか?それは近隣の住民の反発を防げるだけでなく、銀行との取引もしやすいからだ。

ラブホの秘密②じつはドル箱!銀行も狙うラブホ業界との取引

 地銀や信金はともかく、メガバンクでは「水商売」にあたる先とは決して取引をしない。しかしビジネスホテルやシティホテルとなると、話は別である。土地を持っていれば、それを担保に融資をすることができる。

 ホテル業界は、約10年単位で改装が必要な業界である。そのため改装費用のための資金需要が発生し、銀行にとって融資の材料となる。特に派遣型風俗店と提携しているラブホは回転率が高く、劣化が早い。そのため、約6年単位で改装が必要と言われている。

◆高い回転率は「休憩」のお陰

 超高級ラインを除き、ビジネスホテルやシティホテルなど、ホテル業界の売上を決めるキモは「回転率」だ。ラブホテルの回転率は高い。1日で2.5回転、多いところでは8回転するホテルもある。これは「宿泊」だけでなく「休憩」というシステムを取り入れているからである。

 1部屋あたりの面積も狭いため、部屋数も多い。1日で4000万円の売上を計上したホテルも存在する。その売上金で金融商品を購入してくれれば、銀行にとって超優良顧客を意味する「大口先」となるのだ。

ラブホの秘密③外国人から絶大な人気

 日本ではどこか後ろ暗さを感じるラブホテルだが、実は海外から注目が集まっている。「外国人が日本に来る際に、調べておくべきことベスト3」に入っていたり、外国人向け観光サイトでも頻繁に取り上げられている。

 通常のホテルに比べて料金が安いし、タッチパネルでことが足りるため、日本語を話さなくて済むし、過剰なサービスもない。都心の便利な場所にあれば、田舎にもある。そのうえアメニティが豊富に揃っているため、長期間日本にやってきて、全国各地を旅するバックパッカーにも好評なのだ。

ラブホテルは「日本の文化。恥ずかしいことではない」

 彼らはラブホテルに入ることを、日本人と違って恥ずかしいことと思ってはいない。「日本の文化」として受け入れている。例えば海外の雑誌で、ラブホテルはこう紹介されている。

「日本はかつて3世代で住んでいた。そのため家の中で性愛行為をできる場所がなく、夫婦が外で愛を育むために作られた、ユニークな建築物がある」と。

 香港ではブルース・リーが晩年を過ごした家が、ラブホテルになっている。売り出された住居が、時間貸しのシステムを用いたホテルになるパターンは、海外ではよく見られる。

 ラブホテル業界で有名な「目黒エンペラー」には、ドイツフランスのホテル業者が視察に来たこともある。ヨーロッパにラブホテルを建てるためではなく、デザインやサービスなどの仕掛けを、リゾートホテルに取り入れるためである。

 ラブホテルを設計した事務所や、日本の有名なラブホテルには、諸外国からの取材の申し込みも多くあるという。どれも「日本の文化」という切り口で、海外のテレビや雑誌で紹介されている。

◆男と女がいる限り、ラブホテルは消滅しない

 ラブホテルへの締め付けは、年々厳しくなっている。PTAをはじめとした住民運動が起こり、千葉県市川市のケースのように、撤退を余儀なくされるケースも多い。しかし、業界には新たな風も吹き始めている。

 巣鴨のラブホテルは年金受給日の翌日、高齢者の夫婦で満室になるという。そこではアメニティもヘアアイロンなど若者向けのものではなく、入れ歯の洗浄剤など高齢者用のアイテムを取り入れている。好評であったため、他にも続々と高齢者用のアメニティを充実させているらしい。

 とあるラブホ業界のオーナーは、次のような名言を残している。

「男と女がいる限り、ラブホテルは消滅しない」

 最近ではサウナ付き、女子会コース、推し活プラン等、新しいサービスが次々と打ち出されている。まだまだ進化を遂げる業界の今後に期待したい。

<文/綾部まと>

【綾部まと】
ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother

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