「もうそこまで計算しているんだ」そんな風に私が意表を突かれていたのは金曜日、ジローナとのリーガ首位決戦を控えたアンチェロッティ監督の記者会見を聞いた時のことでした。いやあ、彼が言うには、「QUIEN GANA MAÑANA TOMA VENTAJA, PERO LA LIGA ES MUY LARGA/キエン・ガナ・マニャーナ・トマ・ベンタハ、ペロ・ラ・リーガ・エス・ムイ・ラルガ(明日勝った方はアドバンテージを得るが、リーガはとても長い)。どちらのチームも勝ち点80に到達して、優勝することができるだろう」そうなんですけどね。ただそこは若干、ミチェル監督とズレがあって、あちらは「PARA LUCHAR LA LIGA HACEN FALTA 90 PUNTOS/パラ・ルチャール・ラ・リーガ・アセン・ファルタ・ノベンタ・プントス(リーガ優勝を争うには勝ち点90が必要)」という意見。

まあ、確かに2021年のアトレティコ、翌年のレアル・マドリーは勝ち点86、昨季のバルサは88まで行って優勝したため、数字的には90に近い80台といったところに今季も落ち着くんじゃないかと思いますが、現在、首位のマドリーは58、2位のジローナは56ポイントを保有。シーズン残り15試合中、どちらも80を越えるには8試合、90越えには11試合程、白星を重ねないといけないですからね。もちろん、ここまで両チーム共、1敗しかしていないことを考えると、それもありなんでしょうが、え?4位のアトレティコには本当に、もう望みはないのかって?

いやだって、首位と勝ち点10差の彼らがその域に達するには14勝、残り試合ほぼ全部勝つぐらいじゃないと到達できないんですよ。とてもじゃないですが、アウェイゲームが大の苦手で、先日にはとうとう、1年以上続いたメトロポリターノ不敗神話も終わりを告げた彼らにはせいぜい、まさしくその元凶。リーガでも2差と詰められている5位のアスレティックに追いつかれないようにして、3差のバルサと3位争いを地道に繰り広げるぐらいしか、期待できないんですが、とりあえず、先に土曜午後6時30分(日本時間翌午前2時30分)からのマドリーVSジローナ戦の情報をお伝えしておくと。

先週末の元祖マドリーダービーに続いて、サンティアゴ・ベルナベウ2連戦となるマドリーですが、実はまだ、後半ロスタイム3分にジョレンテに同点ヘッドを決められる原因となったCBクライシスは継続中。というのも太ももの打撲でアトレティコ戦を欠場したリュディガーは金曜から、チーム練習に戻ったものの、スタメンに入るかは試合当日の感触次第といった按配なのはともかく、今度はナチョが筋肉痛でお休みに。何せ、このミッドウィークこそ、ゆっくりできたものの、来週火曜にはCL16強対決ラプツィヒ戦1STレグが控えている彼らですからね。

アンチェロッティ監督としてもリュディガーにはムリはさせたくないところでしょうが、その場合、出場停止が終わって戻って来るチュアメニと高さ不足が土壇場の失点に直結したカルバハルという、どちらも本職ではないCBコンビでジローナの強力前線に立ち向かうという恐ろしいことに。だってえ、ウクライナ人エースのドブビクはベリンガム、ボルハ・マジョラルと並んで、リーガ最多の14ゴールを挙げているんですよ。おまけに未だに健在のウルグアイ人FW、37才のストゥアーニなんて、丁度、今季から復帰したポルトゥと一緒にベルナベウで得点し、2019年には1-2でジローナに勝利を呼び込んでいる立役者で、どちらもヘッドが得意となれば…。

一応、今回は念のため、アンチェロッティ監督もフベニルA(RMカスティージャの2つ下のユースチーム)から、19才のCBハコボを招集リストに含めているんですけどね。最近は17才のクバルシがトップチームでスタメンを務め、世間の注目を集めるなど、カンテラーノの抜擢が多いバルサとは違い、マドリーにはそういう前例がほとんどなし。実際のところ、カルバハルでなくともメンディ、カマビンガ辺りに臨時でCBのお鉢が回ることになるのでは?

一方のジローナはレアル・ソシエダ戦で退席処分となったミチェル監督が2試合のベンチ入り禁止となり、更にブリント、ヤンヘル・エレーラも出場停止。シーズン前半のモンテリビでの対戦では0-3とあっさり負けていたものの、そのリベンジを果たして、「NUESTRO SUEÑO ES IR A EUROPA/ヌエストロ・スエニョ・エス・イル・ア・エウロッパ(夢はヨーロッパの大会に出ること)」(ミチェル監督)に更に一歩、近づくことはできるのでしょうか。

そして今週末のリーガでは日曜にマドリッド勢、残り3チームがプレー。ようやく中2日地獄から解放されたヘタフェはエネス・ウナル(ボーンマスに移籍)、ダミアン(同ボダフォゴ)の喪失を乗り越え、アフリカ・ネーションズカップのギネア代表から戻り、今週、晴れて入団プレゼンの運びとなったイリアス・モリバ(ライプツィヒからレンタル)も加わって、午後2時にコリセウムにセルタを迎えることに。ベティス戦で負傷交代したジェネは回復したようで、ガストンが累積警告で出場停止になるのだけが逆境ですが、その先は2試合アウェイが続きますからね。ボルダラス監督も貴重なホームゲームで勝ち点を貯めて、あと10に迫った残留ラインに今季は早めに到達しておきたいところかと。

続く時間帯でプレーするラージョはマジョルカとのアウェイゲームなんですが、何せ今年になって、リーガで1勝しかできていないフランシスコ監督のチームですからね。相手が火曜のコパ・デル・レイ準決勝1STレグを0-0で凌ぎ、レアル・ソシエダには来週水曜にCL16強対決PSG戦1STレグのパリ遠征も控えているのを計算に入れて、2月27日のコパ準決勝2NDレグではワンチャンあるんじゃないかと夢見ている間を利用できればいいんですが…とにかくゴールが決まらないことにはねえ。まだ降格圏とは勝ち点7差あるものの、あまり切羽つまらないうちにFW陣が奮起してくれることを祈るばかりでしょうか。

そしてその後、日曜午後6時30分にアトレティコの番が回ってきて、サンチェス・ピスファンでのセビージャ戦となるんですが、え?それより、彼らは水曜にコパ準決勝アスレティック戦1STレグがあったんじゃないかって?その通りで、その試合がどうだったか、先にお話ししていくことにすると。今年になって、もう5回目となる午後9時過ぎ開催の試合を私もメトロポリターノに見に行ったんですが、さすが9年ぶりのコパ準決勝の舞台とあって、スタンドはほぼ満員に。コパ16強対決マドリーダービーから恒例となった大勢のファンのお出迎えを受け、BENGALA(ベンガラ/発煙筒)の煙で赤く染まった沿道をチームバスで通ってスタジアム入りした選手たちもベルナベウでのリーガダービーから、たった中2日ながら、まったく疲れを見せず、省エネモードの多かったこの連戦地獄中にしては珍しく、序盤から活発だったんですが…。

いやあ、まさか前節のマドリー戦で温存され、この日、イニャキ・ウィリアムス抑止兵器として投入されたレイニウドがやってくれるとは。前半21分、自陣エリア前でボールを奪われて、頭に血が昇っちゃったんでしょうか、プラドスに真正面から突っ込んで、それがぎりぎりラインの内側だったため、主審は躊躇いなくペナルティを宣告。前節マジョルカ戦での負傷で外れたニコ・ウィリアムスの代わりに入っていたベレンゲルがPKを決め、あっさりアスレティックに先制されているのですから、困ったもんじゃないですか。

前日練習でふくらはぎに違和感のあったというモラタに代わり、先発したメンフィス・デパイもチャンスに決められず、そのまま前半は0-1で終了。イエローカードももらっていたレイニウドは後半頭から、エルモーソと交代になったんですが、何せ昨年1月にバルサに負けて以来、ホーム28試合でヘタフェと2分けした以外、全勝しているアトレティコですからね。たった1点ぐらい返さずおくものかとばかり、積極的に攻めていったものの、最悪のタイミングで「撃っても撃っても入らない病」が発症しちゃったから、さあ大変!

それはもう、13分にはデパイと代わって入ったモラタも同じで、いつものようにジョレンテ、コレア、リケルメとシメオネ監督もどんどんアタッカーをリフレッシュしていったんですが、計20本(うち枠内5本)もシュートを放とうと、10回もCKを蹴ろうと、GKアギレサバラを破れないのではどうしようもありませんって。幸い、たまにカウンターをかけるぐらいだったアスレティックもビジャリブレが絶好機に決められず。点差は広がらなかったため、ファンは絶望することなく、ずっと熱い応援を絶やさなかったんですが、うーん、後半ロスタイム1分、モラタがエリア内でジェライに倒されたプレーで当人のオフサイドがバレなければねえ。

そう、ベルナベウでも93分に同点に追いついて、お隣さんのお株を奪っていたアトレティコだったたけに皆、グリーズマンがPKを蹴るのを今か、今かと待っていたんですが、VAR(ビデオ審判)注進を受けた主審はそのファールそのものをないことに。結局、アトレティコは0-1で負けてしまい、得意のホームで大差をつけて、29日の2NDレグでサン・マメスに乗り込むという目論見がパーになってしまったんですが、いえ、確かに「NO PODEMOS GANAR ETERNAMENTE/ノー・ポデモス・ガナールエテルナメンテ(永遠に勝ち続けることはできない)」(コケ)というのはその通りですけどね。

ただ、たった1点差とて、今季は内弁慶ぶりに拍車がかかり、リーガのアウェイ戦なんて、ちょっと前まで4連敗という体たらく。いくらシメオネ監督が、「EL FÚTBOL ES FÚTBOL Y SIEMPRE PUEDE PASAR DE TODO/エル・フトボル・エス・フトボル・イ・シエンプレ・プエデ・パサール・デ・トードー(サッカーサッカーだ。常に何でも起こりうる)」というお題目を唱えても正直、私には不安しか沸かないんですが…いえ、今はとにかく「PARTIDO A PARTIDO/パルティードー・ア・パルティードー(1試合1試合)」。また中3日でセビージャ戦に挑まないといけないアトレティコはそんな先のこと、考えている暇なんてないんです。

何せ、私も月曜のエスタディオ・バジェカスでラージョに引導を渡したセビージャのニュー前線コンビ、アフリカ・ネーションズカップ帰りのエン・ネシリと1月にトップチーム登録された23才のカンテラーノ、イサークの爆発力を目の当たりにしてきたばかりですからね。彼らのおかげで降格圏からの距離を広げることができたキケ・サンチェス・フローレス監督も「MUCHA ACCIÓN, MUCHA ENERGÍA/ムーチャ・アクシオン、ムーチャ・エネルヒア(動き、エネルギーが豊富で)、あのレベルを保てれば、敵DFを大いに困らせられる」と絶賛していましたし、またしても苦手なアウェイゲームとなれば、ここ3週間続いた週2ペースの試合の最後をアトレティコが白星で飾って終われるかは微妙。

そこさえ越えれば、ええ、CL16強対決インテル戦1STレグがマドリーより1週間遅い彼らは来週のミッドウィークにはようやく休めますからね。負傷者がヒメネス、アスピリクエタ、レマルとそう多くないとはいえ、試合があまりに続いて、こうも疲労が溜まると、グリーズマンなど、出ずっぱりの選手のたちのパフォーマンスが落ちて来ないか心配ですし、3月になっていきなり、今季の目標がリーガ4位以内だけにならないためにも、何とか無事にこの2月を乗り切ってほしいものです。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。