2月2日に2話が放送されたドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系、金曜よる10時~)。1986年で暮らす中学校の体育教師・小川市郎(阿部サダヲ)が2024年にタイムスリップし、“昭和の常識”をふりまきながら、昭和と令和それぞれの偏った価値観を浮き彫りにしていくコメディドラマ。



画像:TBSテレビ『不適切にもほどがある!』公式サイトより



 2話は、2019年から推進されている“働き方改革”を考え直したくなる内容だった。


◆夫が育休を取ったら子どもが保育園に入れない
 冒頭、市郎がタイムスリップした先で仲を深めているシングルマザー・犬島渚(仲里依紗)が、仕事を辞めた理由を市郎と秋津真彦(磯村勇斗)に説明するシーンがある。


 テレビ局・EBSテレビに勤務していた渚は、念願だったバラエティ番組制作に携わる機会を得たが、そのタイミングで元夫・龍介(柿澤勇人)との間に子どもを授かったことが判明。出産後にはすぐに働こうとするが、龍介が育休を取得したことを理由に保育園の審査が全く通らない


 そんな中で会社の別館に託児室が新設されることとなり、そこへ子どもを預けてどうにか無事に職場復帰する。


◆「1人で抱え込まないで」は暴力?
 渚は新人2人を指導したり、子どもに関する呼び出しを受けてちょくちょく別館の託児所に足を運んだりしながらも自身の仕事をこなしていく。ただ、上司の瓜生(板倉俊之)から「1人で抱え込まないで、俺にできることがあったら」とフォローされたが、この“優しさ”が特に癪に障った様子の渚。




 その日を思い出しながら「『俺にできること』っておっしゃいますけど、お前に何ができるか、私お前じゃないからわかんないし」「お前さんができることをお前さんに頼んで、嫌な顔された時のむなしさを考えたら」など、酒で勢いのついたマシンガントークを真彦らに披露する。


 瓜生のこの発言にイライラした渚は社内のカウンセリングルームに駆け込んだが、カウンセラーの池谷(中村靖日)から「あなた、何事も1人で抱え込む傾向がありますね」と言われて余計にストレスを積み上げる結果となり、いろいろ爆発してしまい退職することを決めたと語る。


◆新人たちは退職し、カウンセラーまでも休職
 退職を告げた渚が後日会社へ荷物を取りに行くと、「今、君に抜けられるのは辛い」と上司・瓜生からの引き止めにあう。その時「コピーとか弁当の手配とか雑用するために入社したんじゃない」という理由から新人APは2人とも辞めたこと、さらには カウンセラーの池谷も精神を病んで休職したことを聞かされた。




 瓜生を前に困惑している渚の前に夫の龍介が現れ、子どもの親権は渚でなく自分が持つと主張。渚はますます追いつめられる中、思わず市郎に電話をかける。


◆正論しか言わない“夫GPT”には心がない
 市郎が登場して「働き方ってなんだい? 働き方ってガムシャラと馬車馬以外にあるのかね?」と働き方改革に対する違和感を例のごとく歌いながら口にする。これに龍介は「一部の社員に負荷がかからないようシフトを組んで、サービス残業やオーバーワークを防ぐ、それが働き方改革」と正論を振りかざすと、市郎はすかさず「その改革、少なくとも彼女の助けになってないよね? だったら1人でやったほうがマシだって」と反論。




 そこから歌に乗せながら議論が過熱する中、これまで沈黙を保っていた渚は退職を撤回。やはり急に歌い出して瓜生に昇給や託児所の本館移動、さらには「多少残業になっても部下の企画書を読む時間ぐらい作ってください」と要求。ここで龍介が「そうやって例外を認めたらいず過労死が出るんだよ」「『限られた時間と予算の中で最大限の努力をしろ』と言ってる」と指摘すると、渚は「あんたは正しいだけで心がない」「あんたAIっすか? 夫GPTなんすか?」と声を荒げる。渚は鬼気迫る表情を見せて龍介を圧倒して親権を獲得。理想的な働き方を実現するための第一歩を踏み出した。


◆働き方改革の“現実”を皮肉る痛快な内容
 渚が務めるEBSテレビでは、労働時間に徹底的に配慮したりなど手厚く新人AP2人を育てたものの早々に退職。カウンセリングルームを設置したが、カウンセラー自身が精神の不調を訴えて休職。結局は渚の指導は無駄に終わりただ単に時間を浪費しただけ。加えて、メンタルヘルスの改善は一向に図られず、余計に不安定になるばかり。表面的には“働き方改革の優等生”と言える同社だが、渚を見ていると働きやすい職場とは言い難い。そもそも、EBSテレビにとっても好影響につながっているようには見えず、働き方改革の現実を皮肉る痛快な内容だった。



出典:株式会社ワーク・ライフバランス「企業の働き方改革に関する実態調査2022年版」



 実際、働き方改革コンサルティングをおこなう株式会社ワーク・ライフバランスが2023年3月に発表した調査結果*によると、「働き方改革が思うように進まない原因」として「働き方改革=残業削減と認識し、残業削減以外の施策をしていないから」(26.2%)と答えた人が最多。次いで「とりあえず思いついた施策をやってみたにとどまっているから」「社内調査や分析で終わっているから」(24.5%)だった。(*調査期間:2022年12月13日~2023年1月28日、調査対象:全国の20歳~70歳男女、有効回答数:事前調査 2,201件、本調査330件)


 渚のように“何となくの残業削減・施策導入”などに困惑している人は珍しくない。働き方改革が労働者の助けになっておらず、むしろ負担になっている職場は決して少なくなさそうだ。


◆正論で押さえつけず、対話を重ねることの大切さ
 とはいえ、働き方改革が悪いわけではない。馬車馬のように働きたい従業員もいれば、定時で帰りたい従業員も、その中間の従業員もいることを理解したうえで、議論を重ねて少しでもより良い働き方を模索するしかない。議論なき働き方改革は既存の負担を違う誰かに押し付けることに他ならない。それはとりわけ優秀で優しい人にしわ寄せが行きやすい。


『不適切にもほどがある!』を見ていると、正論で押さえつけるのではなく、対話を重ねていくことが現代社会で働く人の役目のように感じた。衝突しながらも自分の意見をさらけ出して戦う『不適切にもほどがある!』の登場人物たちの奮闘に今後も期待したい。


<文/望月悠木>


【望月悠木】フリーライター。主に政治経済社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki



画像:TBSテレビ『不適切にもほどがある!』公式サイトより