元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。



撮影/中村和孝



 そんな宇垣さんが映画『梟-フクロウ-』についての思いを綴ります。



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●作品あらすじ:17世紀・朝鮮王朝時代の実録に記された、王の子の“怪奇の死”の謎を題材に、主人公の盲目の目撃者が真相を暴く姿を描き、韓国で年間最長No.1記録を樹立した大ヒット作です。


『王の男』の助監督をつとめ本作が長編デビューであるアン・テジン監督が「現代的なスリラーを作ろうと意図」し、2023年に韓国国内映画賞を25冠受賞した話題作を宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)


◆一瞬たりとも目が離せない、謎多き史実を元にした歴史サスペンス



正しいと信じることのできる道を進むこと。それは時に途方もない勇気を必要とする。正しさよりも権力者の思惑が優先されるような世界や、まして力ない一市民であれば、なおのこと。


1645年の朝鮮王朝時代、盲目のギョンスは病気の弟の医療費を稼ぐため、とある秘密を隠しながら宮廷で鍼医(はりい)として働いていた。人質になっていた清から8年ぶりに帰郷した国王の息子・ソヒョンにその秘密を気づかれてしまうものの、彼はギョンスに優しい言葉をかける。


ところがある夜、ソヒョンは突然、意識不明の状態になり、顔が黒ずみ、七つの穴から血を流すような惨い状態で亡くなってしまう。その死の真実を“目撃”してしまったギョンスは、宮中の陰謀に飲み込まれ、追われる身となりながらも隠された真相を暴くため、闇に身をひそめる。



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世子毒殺事件という謎多き史実を元にした歴史サスペンスである本作。裏切りに策略、敵味方が入り交じり、息つく暇もなく二転三転する状況はあまりにスリリングで一瞬たりとも目が離せない。


◆信じた道をひた走る、そんな人間でありたい
作品に圧倒的なリアリティをもたらしているのがリュ・ジョンヨルの“見えない”演技。無表情でありながら視力の明暗が一目で伝わるその演技力は圧巻。



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一方、強い印象を残すのはユ・ヘジン演じる国王。自業自得ながらどんどん人を信じられなくなり、ひとりぼっちになっていくその様はただただ哀れで、権力にとり憑かれてしまった者の悲哀と狂気を感じさせられた。



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卑しい者と己を蔑(さげず)み、全てを見ないふりして生きてきたギョンス。力なき者が自分の命や家族の人生を思って真実から目を背け、口を閉ざしてしまったとしても、誰が責めることなどできようか。


でも、そんな自分をどうしても許せなくて、愚かだと分かっていても、そうすべきだと感じた道を行くために涙目になって引き返す姿にぐっと胸を掴まれる。


市民にできることなど、権力を前にしたらとてもちっぽけ。それでも怯(おび)えながら、泣きべそをかきながら信じた道をひた走る、そんな人間でありたいと思えた。
梟-フクロウ-
監督:アン・テジン 出演:リュ・ジュンヨル、ユ・ヘジン 配給:ショウゲート 製作:2022年/韓国/118分 日本語字幕:根本理恵/G
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<文/宇垣美里


宇垣美里】’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。



撮影/中村和孝