脳科学者の茂木健一郎がパーソナリティをつとめ、日本や世界を舞台に活躍しているゲストの“挑戦”に迫るTOKYO FMのラジオ番組「Dream HEART」(毎週土曜 22:00~22:30)。
TOKYO FMJFN系列38局の音声配信プラットフォーム「AuDee(オーディー)」では、当番組のスピンオフ番組「茂木健一郎のポジティブ脳教室」を配信中です。この番組では、リスナーの皆様から寄せられたお悩みに茂木が脳科学的視点から回答して「ポジティブな考え方」を伝授していきます。
今回の配信では、「ガッカリする心理」について脳科学的視点で解説しました。


パーソナリティの茂木健一郎



<リスナーからの相談>
先日、ガラガラ抽選に行ってきました。いつも末等の白い玉しか出たことがないのですが、なんと金色が出てビックリ! 係の人も「うわ~出た!」と言ったので、さぞかし素敵な賞品だろうと期待していたら「犬用のおやつ」を渡されました。犬を飼っていない私はガッカリ……。これだったら、末等の「うまい棒」のほうがマシだったわと思ってしまいました。茂木さんは、最近何かガッカリされたことはありますか?

<茂木の回答>
おもしろいメッセージですね。文才を感じます。ガラガラをやって金色が出たら、「なんだろう~!」って期待しちゃいますよね。最新機器とか、温泉1泊旅行とか、ひょっとしたらハワイ旅行かな? とか。

ちなみに僕のガラガラにまつわるエピソードは、ガッカリしたことではなくて、その“逆”のことがありました。子どもの頃、正月に母親と浅草の浅草寺に行っておみくじを引いたら、母親が凶を引きまして。そうしたらうちの母親が「もう1回引くわ」と言って引いたら、また凶が出たんです。その後も3回引いて、また凶だったので「これは大変だ……」と思って、おみくじを引くのをやめました。

その後、近くの商店街で福引をやっていたので母親がくじを引いたら、なんと自転車が当たったんです。僕がまだ小学校低学年ぐらいの出来事だったのですが、いまでも不思議な経験として記憶に残っています。なにがラッキーで、なにがハズレなのか、まさに「禍福は糾える縄の如し」(注:幸福と不幸は、より合わせた縄のように交互にやってくるということ)というか、わからないですよね。なので、そんなにいちいち喜んだり、ガッカリしたりしながら生きないほうが良いのかもしれないですよね。

脳科学などでは「ドーパミン」という神経伝達物質が注目されていますが、このドーパミンは、うれしいことがあると出て、うれしくないと減ると考えられてきたのですが、最近の京都大学の研究で、実は、“期待外れ”なときもドーパミンが増えていることがわかっているんです。

ですから今回の相談者さんのケースでいうと、「金色が出た! うれしい」という感情で、まずドーパミンが出ていますよね。そのあとに、「景品はワンちゃん用のおやつか……」っていう、ちょっと期待外れなときにもドーパミンが出ていると。

これはどういうことかというと、実は、ドーパミンはうれしいことを表しているだけではなくて、自分の期待と実際に起こったことの差、脳科学的に少し難しい言葉で言うと「誤差信号」といって、自分の期待と現実がどうずれているか。この誤差を表すことで、実は脳が学習しているんです。

福引が当たった・外れた、おみくじが大吉だった・凶だった……など、いろいろありますが、自分の期待していることと、実際に起こったことの違いの“差”が、脳にとっては学習に関わるすごく重要なシグナルなんです。

そういう意味でいうと、今回相談者さんがガッカリした出来事は、実はよく考えるとガッカリするようなことではなくて、むしろいろんなことを学べるという意味においては、良いことにつながっているのかもしれません。

そして、このような話を初めて聞いた人などにとっては、新たなことを学ぶ1つのきっかけになったのかなと思います。このようなメッセージを送ってくれてありがとうございました。

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音声版「茂木健一郎のポジティブ脳教室」
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<番組情報>
番組名:茂木健一郎のポジティブ脳教室
配信日時:毎週土曜 22:30配信(予定)
パーソナリティ:茂木健一郎
茂木健一郎「いちいち喜んだり、ガッカリしたりしながら生きないほうが良いのかもしれない」その深意は? 脳科学的視点で解説