コロナ禍によって多くのデジタル革命が起こり、医療分野では『オンライン診療』の実施要件が緩和されました。オンラインでの診療・服薬指導には、多くのメリットがあるにも拘らず、普及が進んでいないのが実情です。一体なぜなのでしょうか、詳しくみていきます。

新型コロナウイルスがもたらした医療革命

新型コロナウイルス感染拡大が社会問題となった2020年。テレワークの普及やオンライン授業の試みなど、多くのデジタル革命が起こりました。それは医療現場においても同様で、コロナ禍をきっかけに、大きな変革がもたらされました。

あくまでコロナ収束までの一時的な特例ではありましたが、初診患者と対面することなく電話やオンラインでの診療と服薬指導が行えるよう実施要件が緩和されたのです。

2020年4月10日厚生労働省から発出されたことから「0410対応(0410通知)」と呼ばれるこの特例措置と、そのあとに続いた2022年4月の改正薬機法の施行は、医療のデジタル化の呼び水となりました。

さらに、2022年度からは初診からのオンライン診療が恒久的に認められ、いよいよオンライン診療・服薬指導が日本の一般的な医療のかたちとなりつつあります。

とはいえ、順風満帆なスタートを切れたとはいいきれない状況です。たとえば、デロイトトーマツの2021年の調査によると、オンライン診療の認知度は70.2%と高いものの、利用率は6.8%でした。つまり普及には程遠いのです。

オンライン服薬指導の利用率も6.1%と苦戦しています。ではどんな課題があるのでしょうか。オンライン診療の現状をメリット・デメリットとともに解説します。

オンライン診療・服薬指導の現状

オンライン診療・服薬指導は、ともに「多くの人が存在を知っているが、あまり使われていない」という残念な状況です。しかし一方で「またオンラインを利用したい」と考える人は多いのです。前述のデロイトトーマツの2021年の調査では、オンライン診療・服薬指導の再度利用意向は76%でした。つまりポテンシャルは高いと考えられます。

さらにコロナ対応以外の観点からも、国はオンライン診療を後押ししています。2024年1月に厚生労働省は「特例的に医師が常駐しないオンライン診療のための診療所の開設について」を発表しました。これにより、特例で認められた場合は、へき地などに限らず、デイサービスや学校などでのオンライン診療が可能になりました。

また、オンライン診療・服薬指導を行うには、厚生労働省が指定するオンライン研修が必須です。

なぜオンライン診療・服薬指導は広まらないのか?

オンライン診療・服薬指導が普及しない現状を掘り下げてみましょう。

医療機関や薬局にとって、オンライン診療・服薬指導に二の足を踏む最初の原因となっているのが「診療報酬点数が低い」ことです。オンライン診療・服薬指導は、対面に比べると診療報酬が1割ほど低く設定されています。

診療報酬の点数は、医療行為1つひとつに厚生労働大臣が細かく定めています。医療行為に対する価格は、医療行為ごとに決められた点数をもとに「1点=10円」として計算されます。医療スタッフに係る人件費のほか、医薬品・医療材料の購入費、医療機器・機材に係る費用、施設維持・管理費用は主に「診療報酬」から賄っているため、診療報酬点数が低いことが、病院・薬局経営へ悪影響をおよぼすことは容易に想像できるでしょう。

そして、ITリテラシーの高い人材が医療機関と薬局に不足していることも足かせとなっています。医療システムのベンダーやIT人材が支える必要がありそうです。

また、オンライン診療では触診は行えず視覚と聴覚に頼ることもあり、厚生労働省はオンライン診療に適さない疾患・病態をガイドラインで示しています。

さらに、オンライン服薬指導では、医療機関と薬局との連携にいくつか手間が発生します。たとえば患者が「薬はオンラインで受け取りたい」と希望したとしましょう。

すると医療機関は患者が希望する薬局へ「オンライン服薬指導は可能か」と電話などで確認する必要があります。もし対応可能なら、次は処方箋を薬局へ送付します。おまけに送付費用は医療機関が負担します。

ならば「全部システム化したらいいじゃないか」とお考えになるかもしれません。しかしそれはそれで多額の費用がかかるのです。

オンライン診療・服薬指導システムはいくつか存在しますが、どれも導入費用や利用料がかかります。システムによっては医療機関・薬局の導入費用が高額であったり、患者に利用料を請求するものもあるため、慎重に選定する必要があります。

オンライン診療・服薬指導に期待されること

なにかと課題が山積みのオンライン診療・服薬指導ではありますが、日本の医療を支える重要な役目を担っています。

たとえば、すでに実証が始まっているへき地や離島などでのオンライン診療の活用です。

さらに、地域医療でも重要な役割を果たします。超高齢化社会に突入し、医療ニーズは増大する一方です。そこに輪を掛けて人口減による人手不足が起こります。

特に過疎地では医療施設そのものが減っていくでしょう。病院へのアクセスが難しい状況では、オンライン診療による遠隔医療は有効な手段です。医療従事者の負担軽減や業務効率化、そしてコロナ禍での実績のとおり、感染防止への寄与も期待されています。

このように大きな期待を背負ったオンライン診療・服薬指導の成功には、マイナ保険証によるオンライン資格確認と電子処方箋の普及が鍵となるはずです。

電子処方箋システムを利用すれば、引換番号によって薬局で電子処方箋が発行できます。さらに、医療機関と薬局の間で患者情報が共有でき、現在の手間が解消されるでしょう。

加えて、厚生労働省はドラッグストアなどで販売されている一般用医薬品(処方箋なしで買える要指導医薬品)の販売でもオンライン服薬指導を活用するよう準備を進めています。現状では、ちょうど薬剤師・登録販売員が不在のタイミングでは購入できません。

そもそも薬剤師がいない地域もあります。そんなとき患者がどこへ向かうかというと、救急医療であったり、救急車を呼ぶ場合もあります。ですからオンライン服薬指導で一般用医薬品を販売できれば、医療コスト削減につながります。

患者・医師・薬剤師、それぞれのメリット

オンライン診療・服薬指導のメリットを整理します。

まず、患者・医師・薬剤師すべてに共通するメリットは「感染症リスクの軽減」です。

さらに患者にはコスト削減の恩恵もあります。通院時間や交通費もなく、待ち時間も不要です。とくに社会的弱者とされる高齢者・障がい者・児童・女性にとってこのメリットは非常に大きいです。さらに、医師が少ない地域にお住まいの方も、自宅から質の高い治療を受けられます。

医師は、オンライン診療で患者管理が効率化されるでしょう。ビデオ通話で患者の状況をつぶさに確認できれば、対面診療では見逃されるような症状を把握しやすくなります。

全国に専門医療を提供できることも利点です。

薬剤師は、在宅医療における訪問負担が軽減されます。そして患者の状況に合わせた丁寧なアドバイスが可能となります。また、薬局外でのオンライン服薬指導が解禁されたため、育児や介護などの事情で退職した薬剤師も在宅で柔軟に働けるようになるはずです。

一方で、医療提供者側には課題が残されています。

一部の医療提供者には新しい技術に懐疑的かつ伝統的な診療方法を好む方もいらっしゃいます。対面診療よりも人間関係が希薄になる恐れもありますし、特定の症状をオンラインで確認・診断するのが難しいことも事実です。そして情報漏えい不正アクセスといったサイバー犯罪のリスクとも戦わなければいけません。

そのような状況で医師や薬剤師が及び腰になると患者も消極的になります。

課題を乗り越え、医療提供者から患者に対してオンライン診療・服薬指導の情報を提供し、推奨しない限り、利用率は上がらず、医療革命は進まないでしょう。

<参照>

デロイト トーマツ調査、オンライン診療・オンライン服薬指導 利用率は伸び悩むも、経験者の76%は再度利用意向

特例的に医師が常駐しないオンライン診療のための診療所の開設について

オンライン診療の適切な実施に関する指針

新上 幸二

株式会社アクシス

取締役

(※写真はイメージです/PIXTA)