119番通報を受ける日本各地にある緊急通報の指令室に密着するノンフィクション『エマージェンシーコール 〜緊急通報指令室〜』(NHK総合)。通報を受けるオペレーターと緊急事態に直面した通報者の緊迫した会話だけで構成された本作は、指令室の現場にいるような没入感で、あっという間で濃密な30分を届ける。エピソード7「夜のハイウェイ」(2月11日17時30分放送)、エピソード8「つかの間の静寂」(2月12日21時30分放送)を前に、制作陣に番組に込めた思いを聞いた。

【写真】さまざまな経験を積んだオペレーターが信念を持って従事

◆緊急通報の内容に感じた地域差

――2022年1月に第1弾が放送された『エマージェンシーコール 〜緊急通報指令室〜』ですが、制作に至った経緯を教えてください。

石川敬子チーフ・プロデューサー:この番組は、ベルギーで開発され、現地では2016年に始まった番組が基になっています。現在は10以上の国と地域で作られており、NHKでもフォーマット権を購入し、日本版の制作にあたっています。

私たちの部署では『ドキュメント72時間』も制作しているのですが、そのリメイク権を海外に販売する際にアドバイスをもらっているオランダの配給会社があり、「『ドキュメント72時間を大事に思っている皆さんなら、『エマージェンシーコール』も面白く思うのでは』と薦められたのが始まりです。実際に番組を見せてもらい、これは日本版を作れたらいいなと制作がスタートしました。

ご協力いただけるところとの調整や、なによりコロナ禍でしたので、撮影を始められるようになるまでに、少し時間がかかりました。

――エピソード4からは、それまでの1つの都市の緊急指令室に密着する形から、複数都市の指令室の様子で構成する形になりました。仙台、横浜、大阪、福岡といった都市間での違いを感じられることはありますか?

岡田歩ディレクター:ご協力いただいたところは都市部の消防局でしたので、過去に放送した横浜市東京都さいたま市同様、独居の高齢者が多いなど、日本社会を映し出している通報が多いと今回も感じました。そのような中で、取材実感として、仙台市福岡市では、3世代で暮らしている家庭からの通報が多い印象を受けました。お孫さんがおばあちゃんおじいちゃんを、おじいちゃんおばあちゃんが孫を看ていて、その状況下での通報が印象的でした。

町田誠チーフ・プロデューサー:大阪では、通りがかりの人が助けてあげたいと通報されることも多いというお話もありましたね。

岡田:これは通行人通報というのですが、特に大阪市内では親切心から見知らぬ人でも通報するという方が多かった印象があります。通報中のやりとりでは現場状況が目に浮かぶような描写で伝えてくれる人が多く、オペレーターとのやりとりも知人と話しているように進んでいくのも大阪の通報では印象的でした。

◆通報者のその後は番組で伝えず その意図とは?


――制作にあたり、一番気を配られている点はどんなことになりますか?

石川:やはり、プライバシーの侵害がないようにということは、かなり丁寧に確認しながら進めております。一番はオリジナルのフォーマットもそうですけども、(通報者や搬送者が)特定がされないようにということ、そこは最大限注意して制作しております。

――番組を拝見していると、通報者がその後どうなったかについては触れない構成になっていますが、そこはなぜでしょうか。

岡田:たくさん通報が来て、切ったらすぐ次の通報が来るので、オペレーターもその後どうなったかっていうのは基本的には知らされないのですよね。ですので、制作する上でも、視聴者もオペレーターのように指令室でリアルに進行していることを感じてほしいと思っています。一本の電話が繋がっている「今この瞬間」に全集中して命を救おうとしているオペレーターの姿勢を大切に編集しています。

――実際に制作されている中で、改めて感じたこと、気づいたことなどはありますか?

岡田:いろいろな気づきはあるのですが、緊急回線(通報)の緊急度の考え方って本当に人それぞれだなと思いました。その人にとっては、緊急だけれども、受け手にとっては緊急度低いなといったものや、いたずらとか…。あとはいわゆる不要不急の通報の多さと、それに割かれる時間がすごく多いなと思いました。番組の中でそうした通報のコーナーというものを作り、不要不急の通報を控えなくてはと感じてもらえたらなという思いがあります。

――子育て中の方が、この状態は緊急なのか子どもにはよくあることなのか判断がつかず不安の中、救急車をお願いしていいのかわからないのですが…といった感じで通報されてきている方もいらっしゃいましたね。

岡田:やはりお子さんに関する通報では、特に1人で育児をされている、自宅で子どもとふたりきりの時に、様子がおかしい、怪我をしたという通報がどの都市でもありました。不安になって電話をかけてこられて、オペレーターの方の声掛けですごく安堵されて涙ぐまれる方も多かったです。

――通報を受けるオペレーターの皆さんにはどんな印象を受けましたか?

岡田:基本的には、新人の消防職員は配属されない部署と聞いています。現場の経験がそれなりにあって現場のことが想像できることが大切なので、ものすごく過酷な現場経験を積んだ方が多く来られています。その中でも各々信念をお持ちで、それが声掛けのトーンなどに出ていて、優しい口調で寄り添う方もいれば、一見、きつく言っているように見える方もいるんですけど、その話し方にはそれぞれ理由があるんです。いろんな質問を投げかけたり、必要最低限のやりとりで電話を切ったりとそれぞれスタイルがありますが、その裏には必ず現場経験や指令センターでの経験に基づいた信念があるので、それをインタビューで聞くようにしています。

――通報者の方もいろいろな方がいました。中には高圧的な印象の方も…。

岡田:通報者にとっては非日常・緊急事態なので、焦るがあまり声を荒げるっていう方もいて、でもオペレーターはそれに引きずられないということをものすごく大事にしています。よく言われるのが通報者が声を荒げている時こそ、オペレーターゆっくり言葉を掛けるのが大切ということです。また、電話を切ったら一回リセットというか、気持ちを切りかえる。そうしないと次の人を助けられないので。そこのメンタルの強靭さというのはものすごくて、そこは皆さん訓練されてますね。

石川:私もこの番組を通して確かにそうだなと、改めて思ったのは、指令室で電話を受けた人がそのまま救急車に乗って行くわけではないということです。そこはチームで動いているんですけど、通報する人にとっては、一生に何回あるかないかのことなので、そのことはよく分からない。オペレーターから「救急車は、もう向かっていますよ」って何度も言われても、通報者は状況がよく分からなくて、緊急度が高い中で緊張して、「早く来て!」と声を荒げるような感じになってしまうこともあるのかなと思いました。

岡田:消防の当たり前と一般市民の当たり前が違う時もやはりあるので、そこのすれ違いを少しでも埋められればと思い、番組のホームページでブログを始めました。通報を聞きながらもう向かっているよっていう情報ですとか、救急車の向かう住所をいち早く伝えることが大事ですとか、番組では伝えきれないところをブログでお伝えできればと思っています。

特に住所を伝える重要性については消防側と一般の通報者で認識に違いがあるように思います。消防は何度も何度も確認して住所の位置を確定させるまで丁重にやっているんですよね。そこでイライラされる通報者も多いんですけど、それは違う家に行ったらその分時間がかかってしまう結果になるので、どうしても必要なプロセスであったりします。詳しくは番組のホームページに公開しているブログを読んでいただけたらと思います。

◆「ありがとうと言われることはないんです」オペレーターの言葉の中に感じた志


――毎回SNSなどでも大きな反響が寄せられています。

石川:番組の制作チームの中でも、高齢の親がいるとか、子育てをしているとか、年代や立場で、共感する通報がそれぞれ違うんです。(制作)チームの中ですら感じることが違うので、たぶん視聴者の皆さんもそれぞれ観てくださってるお立場で、共感してくださったり、はっとされたり、気づきがあったりするのではと思います。

こんなふうにして市民の安全安心をずっと支えてくれている人たちがいるというのを知らなかったという声や、指令室の現場で働いている方々に対して、本当にありがとうという感謝の声をたくさん頂いていますし、救命現場に出ていくところはなんとなく知っていても、通報のところから救命は始まっているというのは知らなかった、ありがとうという現場の方への感謝の声というのはとてもたくさん頂いています。

岡田:オペレーターの方たちが「私たちはありがとうと言われることはないんです」ってよくおっしゃっていました。私も子どものことで119番通報したことがあるんですけど、その時のオペレーターの方の声とかはあまり印象に残っておらず、来てくださった救急隊の印象が強く残ります。ですが彼らはそれも分かっている中で、「自分は現場に向かう救急隊・消防隊にバトンをいち早く渡すというのが使命なんだ」っていう志でやっている。そんな彼らのプロ意識は本当にすごいなって感じます。

――エピソード7のタイトルは「夜のハイウェイ」。どんな内容になりますか?

町田:今回は大阪と仙台の指令室に密着するのですが、今までにないタイプの通報を紹介しています。

――最後に視聴者へのメッセージをお願いします。

石川:『エマージェンシーコール』という番組そのもののメッセージとしては、どんな時もあなたのために動いてくれる、助けてくれる人がどこかにいるよというメッセージがあります。これは、オリジナルのベルギーのチームも同じ思いで作っているというのを一番初めに聞いたのですが、私たちもそれを大切にして作っています。

 『エマージェンシーコール~緊急通報指令室~』エピソード7「夜のハイウェイ」は、NHK総合にて2月11日17時30分放送。エピソード8「つかの間の静寂」は、2月12日21時30分放送。

『エマージェンシーコール~緊急通報指令室~』エピソード8「つかの間の静寂」より (C)NHK