年齢を重ねるにつれて衰えていくと思われている記憶力ですが、大人になっても記憶力は衰えることはありません。変わるのは、記憶するための脳のシステムだと加藤俊徳氏はいいます。いったいどういうことか、詳しく見ていきましょう。著書『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)より、 加藤俊徳氏が解説します。

大人になると丸暗記はできなくなる

年齢とともに、「最近、記憶力がめっきり落ちて」「物覚えが本当に悪くなった」なんていう愚痴を言ったり聞いたりする機会は多いでしょう。

何度も言いますが、これこそが間違いのもと。

大人になっても記憶力が衰えることはありません。

変わったのは、記憶するための脳のシステムです。

そのことに気づいて大人の脳のシステムに沿った勉強法に変えていけば、これからの人生で記憶力について愚痴ることはなくなりますし、勉強の効率は何倍にも跳ね上がります。

脳の成人式は30歳です。

聞いたものをそのまま吸収できる学校での勉強に適した「学生脳」は18歳頃から徐々に衰え始め、それ以降、10年ほどかけて対応力や創造力など、より高度な機能を備えた「大人脳」へと脳のシステムが切り替わっていきます。

子ども時代にとても勉強ができた。これを脳科学的に翻訳すると「耳から聞いた情報を素直に記憶する力が強かった」ということになります。

聴覚系から記憶系へとつながる脳番地のルートがいちばん強くて使いやすいのが子どもの脳の特性で、学生時代の勉強は暗記が主体なので、このルートがしっかりしている子どもほど勉強がよくできるという評価になりやすいのです。

しかし、年齢を重ねてさまざまな経験や情報に触れるなかで、他のルートも開通していき、学生脳ルートは徐々に使われなくなっていきます。

「無意味記憶」といいますが、子どもは知らない言葉でも記憶することができます。

たとえば、子どもの頃は、読み聞かせの絵本で初めて聞く「親孝行」という言葉を、音の響きでそのまま覚えられます。そして、だいぶ時間が経ってから「おやこうこうってどういう意味?」などと聞いて親を驚かせます。 最初に聞いて覚え(聴覚系→記憶系)、覚えてから理解する(記憶系→理解系)という順番で脳を働かせているのです。 語彙力の少ない子どもの脳細胞にとっては、言葉の新しい響きさえも新鮮で興味の対象となり、意味のわからない言葉でもスッと受け入れられます。

大人と子ども脳の働き方の違い

これが大人になると、子どもの頃より思考系や理解系が発達しているので、「忖度? それってどういう意味だろう?」と、記憶するよりも前に疑問が湧いてきて、意味を理解してから記憶するという「意味記憶」が優勢となります。

大人の場合、単純に「記憶しよう」と思っても、悲しいことに記憶系脳番地は思ったように働いてくれません。 「忖度という言葉があるんだ。そうか、僕も上司に忖度して意見を呑み込むことがあるな」と自分だったらどう使えるか理解してはじめて、記憶できるという仕組みになっています。

つまり、何かを覚えたいときは、「覚えよう」と思うより「理解しよう」と頭を働かせるのが正解。

脳番地で言えば、理解系脳番地を働かせることがポイントです。

学生時代の脳には体力がありました。

大人は学生時代に比べて体力では劣ります。

でも、前述したように、高校野球でいちばん球速が出るわけでもなく、プロになってから新記録を生み出せるもの。

大人には大人なりの脳の使い方があり、それができれば学生時代よりも記憶力を高められるのです。

この脳のメカニズムを無視して、ひたすら丸暗記をしようと思ってもうまくいかないのは当然で、記憶力が落ちたように感じてしまうのは必然なのです。

加藤 俊徳

加藤プラチナクリニック院長/株式会社脳の学校代表

脳内科医/医学博士

(※写真はイメージです/PIXTA)