不動産業者でもない銀行員が、なぜ不動産の購入を勧めるのか? 急に融資審査が厳しくなった理由は? 経営者が知りたい「銀行員の真意」をベテランのコンサルタントが解説します。※本連載は、川北英貴氏の著書『社長、この1冊で融資交渉が強くなります! 銀行員のそのひとことには理由がある』(すばる舎)より一部を抜粋・再編集したものです。

不動産屋でもない銀行員が、なぜ…!?

「不動産を買いませんか?」

銀行員が「不動産を買いませんか?」と勧めてくることがあります。不動産屋ではない銀行員が、なぜ不動産を勧めてくるのでしょうか。

よくあるのは、その銀行の別の融資先で、担保に入れている不動産を売却したいケースです。

以下は実際にあったケースです。

A信用金庫はB社に5000万円の融資があり、その会社の店舗(土地・建物)に根抵当権5000万円を設定していました。しかし、その融資は長い間、返済がストップしている状態でした。

そこで、A信用金庫は別の融資先であったC社の社長に「この不動産を買わないか?」と言ってきました。売却金額は5000万円。製造業で作業場・倉庫として使える場所を探していたC社はA信用金庫から融資を受け、購入しました。しかし後日、C社の社長は知人の不動産業者から教えてもらいました。その不動産はC社が購入する3カ月前に3500万円で売られていたことを…。

B社の社長がA信用金庫に断りなく独自で売却しようとしていたようです。2カ月経っても購入者が見つからず、その時点でこの不動産が売却中であることを知ったA信用金庫はB社の社長に売却をやめさせました。3500万円で売却しても、A信用金庫がB社に出している融資5000万円は全額返済できないからです。そしてA信用金庫は完済できる5000万円で売却しようとC社に持ちかけたのです。

それを知ったC社の社長は怒り、A信用金庫からこの不動産の購入資金として借りた5000万円をD銀行で借り換えしました。しかし、A信用金庫の勧めで、3500万円でも売れなかった不動産を5000万円で買わされたことはどうにもできません。

A信用金庫としては、返済がストップし不良債権化していた融資を満額回収でき、また借り換えはされたもののC社への融資を行うことができ、一石二鳥でした。一方、C社は不動産を高値で買わされて大損です。

銀行員が「不動産を買いませんか」と勧めてくる場合、その不動産は融資先のものであることが多いです。

売却する不動産がその銀行への担保となっている場合、担保の対象である融資が返済ストップしているなど不良債権化していれば、売却により銀行は融資を回収できます。売却する不動産が担保となっていない場合でも、銀行は売主に恩を売れるので今後の取引につながっていくことでしょう。また、銀行の関係会社に不動産会社があれば、その会社に仲介させることで仲介手数料をもたらすこともできます。

一方、買主に対しても、その不動産を購入する資金を融資することができます。このように不動産の売買を手伝うことで銀行が得られるメリットは大きいのです。

しかし、紹介した事例のように銀行は買主に損をさせてでも、高い金額で売却し、不良債権の回収を図ろうとすることがあります。

銀行員が「不動産を買いませんか?」と言ってきても、なぜ銀行員が不動産を売ろうとするのか真のねらいを探るようにしましょう。また、購入を考える場合も、提示された売却価格は適正か、高い金額で買わせようとしていないか、しっかり調べるようにしてください。

《ポイント》

銀行員が不動産を売ろうとする真のねらいは何かを探る。購入を考える場合は提示された売却価格が適正か調べる。

今までは融資を問題なく受けられていたのに?

「支店長が代わってから審査が厳しくなったんですよ」

前に比べ、融資の審査が厳しくなった。自社の業績や財務内容に特段、変化がなければ、これは支店長が代わったことが原因である可能性があります。実際に銀行員から「新しい支店長になってから審査が厳しくなったんですよ」と言われることもあります。

支店長はどのようなタイプか、日ごろから担当者に聞いておくとよいでしょう。「営業畑」なのか、「融資畑」なのか。

営業畑とは営業を重視するタイプです。支店長となるまでに行ってきた業務が営業中心であった人はこのタイプとなりやすいです。支店の業績を向上させる意欲が強く、積極的に融資を行っていきたいと考えています。

一方の融資畑とは、いかに貸し倒れを出さないかを重視するタイプ。支店長となるまでに行ってきた業務が融資係中心であった人は、このタイプとなりやすいです。このタイプの支店長だと、融資の審査は慎重になる傾向が強いです。

今までは融資を問題なく受けられていたのに、支店長が代わってから融資が出なくなった。これはよくあることです。自社の業績や財務内容が悪化したのならまだしも、そうでないのに支店長の交代によって融資が出なくなったのであれば、たまったものではありません。

企業としては次の2つの対策に取り組んでおきましょう。

1.新しい支店長と早く会い、自社のことを深く知ってもらう

前の支店長はあなたの会社のことを深く知っていても、新しい支店長はそうではありません。新しい支店長と早く会い、自社のことをアピールしたいところです。自社のことを深く知ってもらい、好印象を持ってもらえれば、審査に良い影響があるものです。

支店長交代時に自社にあいさつに来たら、支店長と次の面談を約束します。自社に来てもらい、店舗や工場などを見学してもらいながら、自社の行っている事業内容、商品やサービス、経営計画などを説明しましょう。

支店長交代時に自社にあいさつに来ていないのであれば、担当者に対し、支店長に一度あいさつしたいと頼んでみます。「店舗や工場などを見学してほしいから、自社に来てもらいたい」と、だめでもともとで言ってみるのもよいでしょう。

新しい決算書ができたときも良い機会です。「決算説明をしたい」と担当者に伝え、支店長との面談の機会をもらうようにします。その機会に決算書だけでなく、自社の事業内容や商品・サービス、経営計画などを説明するのです。

2.多くの銀行とつきあっておく

一つの銀行のみから融資を受けている状態は、選択肢がないので、支店長の交代で今まで出ていた融資が出なくなるという事態になりかねません。ふだんから多くの銀行から融資を受けておけば、一つの銀行で融資が出なくなっても他の銀行から融資を受けられる可能性があります。

銀行は、融資を出したことのない新規の会社よりも、今まで融資を行い問題なく返済されてきた会社のほうが、新たな融資を出しやすいもの。ふだんから多くの銀行で融資を受けて、返済実績をつけておきましょう。

《ポイント》

今まで融資を出してくれていた銀行も、支店長の交代により融資が出なくなることがある。新しい支店長に自社を深く知ってもらう、ふだんから多くの銀行で融資を受けておく、などが企業でとれる対策である。

川北 英貴 株式会社グラティチュード・トゥーユー 代表取締役