―[貧困東大生・布施川天馬]―


◆東大は課金ゲームの成れの果てか?

 東京大学といえば、国内最高峰の国立大学。私は、実際に東京大学に通うまで、「東大生には苦学生が多い」と思い込んでいました。東京大学は、学費が安く、ネームバリューも十分すぎるほどあり、卒業生の進路も輝かしいものばかり。貧困から身を立てたい学生たちにとって、これほど都合のいい進学先候補はありません。

 ですが、実際にいくと、そんな現実は存在しないことがわかります。新入生の1/3近くを占めているのは、首都圏近郊の一部有名私立中高一貫校の卒業生たち。私立中学、私立高校を経て既に熟成された交友網には、新参者の取って付け入る隙はありません。東京大学は、入った時点で、すでに通っていた高校、塾、予備校などで形成されたネットワークが完成されているのです。

 私立校や塾予備校に通う余裕のある家庭出身者ばかりの学校ですから、その暮らしぶりも聞くだけで豊かであるとわかります。「小学校から塾通いしていた」「中高在学時に海外留学プログラムに参加した」などのエピソードは事欠きません。もちろん、大学に入ってからもそれは変わらず、「あーあ、留学行きたいな~」といった次の日には、日本を発っている同級生もしばしば。彼らにとって、勉強にかかる費用は初めから問題ではありません。

 私は、独自に現役東大生、東大卒業生100人を対象として、幼少からの学びの環境についてアンケートを実施しました。そして、今年の2月20日に、そのアンケート結果を分析し、そこから考察できる内容をまとめた『東大合格はいくらで買えるか?』を上梓します。今回は、本の発売に先駆けて、少しだけアンケートの内容をご紹介します。

◆東大生の世帯年収は?

 まず、私は東大生の世帯年収について尋ねました。結果は以下の通り。

(n=100人)
200万~400万円:3人
400万~600万円:11人
600万~800万円:17人
800万~1,000万円:16人
1,000万~1,500万円:28人
1,500万~2,000万円:5人
2,000万~3,000万円:6人
3,000万~4,000万円:1人
4,000万~5,000万円:2人
5,000万~6,000万円:2人
1億~:1人
わからない:8人

 世帯年収1,000万円以上の家庭に絞れば、45/92なので、およそ50%近くがそのような家庭出身であることがわかります。今回「わからない」とした方の中にも、ご両親の職業を記入いただけた方がいらっしゃいましたが、その様子を見る限りでは、世帯で1,000万円を超えていそうでした。実際は「わからない」としている中でも相当数が世帯年収1,000万円以上の家庭出身であるとみられるでしょう。

 ちなみに、全国の平均年収である545.7万円(2022年発表 厚生労働省『国民生活基礎調査の概況』より)よりも多くの年収を得ている家庭出身者は、92人中の77名でした。ここまでは、わかりやすさを優先して「世帯年収1,000万円」を目安にしてきましたが、全国の世帯年収の平均値から考えると、大分裕福な家庭が多いとみられます。

 ちなみに、このデータはサンプル数が少ないですが、ある程度信頼がおけると考えています。その理由は、東京大学が行っている学生生活実態調査と、ある程度値が近似するためです。2021年度に実施された学生生活実態調査の世帯年収の欄によれば、1,510名の回答者のうち、世帯年収950万円以上と回答した家庭の割合は、約53%でした(「わからない」と回答した方を除く)。

 多少の誤差は出ていますが、ある程度似通った値が出ていることからも、この値には十分信頼がおけると考えていいかと考えます。

◆「進学塾に通うのは当たり前」に違和感

 ちなみに、私は「世帯年収1,000万円は都内では普通」とする意見を聞くことも多いのですが、それは大きな間違いでしょう。総務省が2019年に行った「全国家計構造調査」によれば、47都道府県のうちで一番世帯年収の平均が高いのは、東京都でその金額は629.7万円です。都内平均の1.5倍以上もの収入を得ていて、「普通の収入」とはいえないでしょう。

 もちろん、このような方の言い分はわかっています。それは、「子どもをSAPIXに通わせるとギリギリになる」とするものです。中学受験熱が白熱する都心地域では、もはや子どもを進学塾に通わせなければいけないとする異様な空気が漂っています。それは誰のための受験なのか、今一度、問い直したい。

 今回のアンケート内では、東大生の出身地域についても尋ねています。この結果によると、東京と神奈川の出身者が全体の40%を占めていました。

 これは由々しき数字でしょう。東京出身者と神奈川出身者、すなわち関東の首都圏出身者が全体の40%を占めています。前の世帯年収のデータと合わせて考えると、次のような結論が見えてきます。

 それは、「東京大学は、首都圏地域に住んでいる、一部の富裕層だけの大学になっている」ことです。確かに、受験機会という面では東京大学日本国内外を問わず広く門戸が開かれています。とはいえ、それは建前上のこと。首都圏地域の異常な受験熱に浮かされた一部の業界と、その信奉者のせいで、もはや東大は「重課金をしないと手が届かない大学」に成り下がりました。

 もちろん、東大に合格する人はみな等しく努力をしています。資本主義をとった国として、大金を積んだほうが良いサービスを得られるのも正しいかもしれません。とはいえ、お金を積んだもの勝ちのゲームになるのは、本当に正しいことでしょうか。

<文/布施川天馬>

【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Twitterアカウント:@Temma_Fusegawa

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