―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―


◆意外にも凄い値動きをした腕時計3選

腕時計投資家の斉藤由貴生です。

“腕時計が値動きする”ということは、だいぶ認知されたといえます。が、「高くなるのは人気のロレックスやパテックフィリップぐらい」と思われている方が多いようです。しかし実際、高くなる腕時計はロレックスに限りません。数多くのモデルが値動きするのです。

ということで、今回は人気とは程遠いような“マニアックモデル”でありながら、結構高くなったという事例を3つ紹介したいと思います。

◆エントリー1 オメガデビル4853.61 (5.3倍!)

最初にご紹介するのは、オメガの「デビル」。その4853.61という型番でありますオメガといえば、「スピードマスター」や「シーマスター」といったスポーツモデルが人気である一方、「デビル」といったドレス系モデルの人気はそれらほど高くないといえます。

まして、この4853.61というモデルは、2000年頃に現行品だった存在。今では、この存在を知っているという人はあまりいないでしょう。

知名度が低いモデルであるため、この4853.61は、2020年頃まで約13万円という価格で中古品が販売されていたのです。

4853.61は、デビルの中でも「ジャンピングアワー」という仕掛けを採用したモデル。何時何分の“時”は、文字盤内の小窓で表示し、“分”は針で示す。そのため、針は1本しかありません。

ジャンピングアワーは、雲上と呼ばれるような、高級腕時計の中でも「特に高価格帯」のブランドでラインナップされる傾向がありますが、オメガの4853.61は中古10万円台といった安価な価格帯で入手可能だったのです。

私は、連載している腕時計投資新聞の記事にて、この4853.61を何度か紹介していますが、2017年7月時点で13万8000円、2020年1月時点でも13万4400円と、長きに渡って相場が変わらない様子がありました。

しかし今、そんな4853.61の中古相場が激変。現在では、なんと69万円以上になっているのです。

なお、私は相場を見る際、「ABランク以上」としているのですが、そうした場合、4853.61の現在水準は71万2800円となります。

4853.61は2020年頃まで約13万円といった価格だったわけですから、現在相場は、実に5倍以上といった状態。

この4853.61は、多くの人に知られていない、かなりマニアックな存在だといえますが、これを買っていたならば、5倍といった値上がり体験ができたのです。

まして、4853.61の過去相場である約13万円は、高級腕時計の価格としてはかなり安価。多くの人にとっても、手が出しやすかったといえます。値上がりする時計なんて、100万円以上が当たり前かと思いきや、実は13万円で買ったら5倍になるという事例もあるのです。

タンクアメリカンW2604351 (7.4倍!)

次に紹介するのは、カルティエの「タンクアメリカン」。かつてアメリカンは、タンクシリーズ全体のフラッグシップという存在でした。ラインナップされるモデルは、K18かプラチナ素材が基本となっており、ロレックスでいうデイデイトのような存在感だったといえます。

そんなタンクアメリカンでありますが、その最高峰といえるのがプラチナモデルです。

ちなみに、カルティエ1998年から2008年頃まで「コレクション プリヴェ カルティエパリ(通称CPCP)」という最高級ラインを展開。タンクやパンテールといった各シリーズの一部モデルがこのCPCPに該当したのですが、タンクアメリカンのプラチナモデル、W2604351もCPCPであります

◆7年間で7倍以上に

CPCPの特徴としては、文字盤上に「PARIS」という表記が入る点。レギュラーモデルの場合、「CARTIER」とだけ表記されているのですが、その下に「PARIS」と記載されています。

そんな最高級のCPCPでありますが、これもまた2020年頃まで全体的に安値となっていました。

このタンクアメリカンW2604351の場合、プラチナモデル、男性用サイズ、機械式という内容でありながら、2017年時点では約61万円で購入することができたのです。

しかし今、そんなW2604351の中古価格はなんと459万0600円という状態。2017年時点相場の7倍以上となっているのです。

ちなみに、CPCPは他のモデルでも上昇事例が多く、例えばタンクアビスのW1534251は、2017年4月時点で約100万円だったのが、2023年8月時点では約316万円となっています。

ゴールデンエリプス3848J (2.5倍!)

最後にお伝えするのが、パテックフィリップの「ゴールデンエリプス」であります。これは、パテックフィリップという人気ブランドでありながら、かつては最も不人気だといえた存在。“値動きする”とは思えないようなモデルだったといえます。

2017年時点では、パテックフィリップの中古を「安い順」に並べると、そこにズラーッと並んでいたのが、まさにゴールデンエリプス。当時、メンズサイズ&機械式という条件のパテックフィリップは、安いものでも90万円程度といった印象でしたが、ゴールデンエリプスは、50万円台で購入可能だったのです。

実は私、当時からこのゴールデンエリプスに目をつけており、2017年11月に実際に購入。その時点でも、3848Jは約59万円で購入可能となっていました。

そんな3848Jでありますが、現在相場は150万円以上に変化。昨年12月時点で約151万円で売り出されていた個体は、早い段階で売り切れとなってしまっています。

2017年時点では「誰からも見向きもされない」といった存在感のゴールデンエリプスでありましたが、今では「欲しい人がいる」という状態に変わったわけです。

2017年から現在にかけての上昇幅は約2.5倍と、先に出した事例よりも弱めでありますが、かつて「不人気パテックフィリップ」といった存在だったのが、こういった上昇をしたというのはなかなか凄いと思います。

以上、かつての常識では『値動きしなさそう』というように思われていたにも関わらず、何倍といった価格変化をしたモデルを紹介しましたが、いずれも「多くの人に知られていない」という点が共通しているといえます。

しかし、どのモデルにも「グッと来る」魅力があるといえるわけで、それが“あるタイミング”で評価されるように変化したのだと思います。

腕時計を買う場合、マニアックなモデルは値下がりするかもしれないと心配されるかもしれませんが、本当に良いモデルはいつか評価される日が来ても不思議ではないのです。

斉藤由貴生】
1986年生まれ。日本初の腕時計投資家として、「腕時計投資新聞」で執筆。母方の祖父はチャコット創業者、父は医者という裕福な家庭に生まれるが幼少期に両親が離婚。中学1年生の頃より、企業のホームページ作成業務を個人で請負い収入を得る。それを元手に高級腕時計を購入。その頃、買った値段より高く売る腕時計投資を考案し、時計の売買で資金を増やしていく。高校卒業後は就職、5年間の社会人経験を経てから筑波大学情報学群情報メディア創成学類に入学。お金を使わず贅沢する「ドケチ快適」のプロ。腕時計は買った値段より高く売却、ロールスロイスは実質10万円で購入。著書に『腕時計投資のすすめ』(イカロス出版)と『もう新品は買うな!』がある

―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―


タンクアメリカンW2604351