め組の大吾 救国のオレンジ
め組の大吾 救国のオレンジ』(曽田正人、冨山玖呂/講談社

 特定の季節が来ると思い出す。風の匂いや湿度、温度といった空気感がトリガーとなって強烈な記憶が呼び起こされる。そんな経験はないだろうか。嬉しかった、感動したことより、なぜか思い出すのは恐怖や不安に苛まれた記憶たち。それなのにいざ起こるかもと言われている災害も「自分の身に起こることはない」とリスクは軽く見がちだ。

め組の大吾 救国のオレンジ』(曽田正人、冨山玖呂/講談社)は、災害といつも隣り合わせの日本で、救助という究極の戦場へ臨む、若き3人の消防士の成長物語を描いた作品だ。

 2023年9月にTVアニメ化もした本作は、1995~1999年週刊少年サンデーで連載されていた過去作品のその後を描いている。前作の濃く熱くぶっ飛んだキャラクターも陰ながら健在で、今作ではストーリー全体を秘密裏に動かすキーパーソンとして登場している。前作終了から20年、満を持して令和の時代の災害が描かれている。

 いつか来ると言われている大震災は、自分が生きているうちに、どうやらかなりの確率で経験しないといけないらしい。地震に限らず、洪水や土砂崩れなど、毎年どこかで起こる自然災害。そして、小さなほころびが大きくなった結果、何十人もの人を巻き込む不慮の事故になる。

 どれも正確には予測できそうでできないが、“いつか”来るかもしれない災害に備えて日々、訓練を積み、人知れず人命救助に奮闘する人たちがいるのだ。

##救助に全てを懸ける!3人の非凡なルーキー

 作中に登場する3人の新米消防士は、とにもかくにも優秀だ。3人とも高卒で消防士になり、消防士としての勤務を経て競争率約9倍の救助選抜試験を一発突破した。地獄のような訓練をこなし、ようやく特別救助(レスキュー)隊に配属されたのは、十朱大吾(とあけだいご)と、斧田駿(おのだしゅん)。そして、特別救助隊とは別の秘密組織「め組」のメンバーとなった中村雪(なかむらゆき)。彼らは周囲のベテランをあっと言わせる才能と判断力、そしてただならぬ覚悟を持ち合わせている。

“死んだ人は帰らないけれど これから死ぬかもしれない人を 救うことは出来るだろ”4巻 第13話より引用

 消せない過去と向き合うために消防士になった大吾と、消せない過去をバネに消防士になった雪。そして、カッコイイ自分が大好きだった駿。人命救助の戦場を自分の生きる道と決めた3人は、救助の現場を一緒に乗り越えることで、経験や場数と共に人間的にも精神的にもすごいスピードで成長していく。彼らが成長した先に、どんな苦難が待ち構えているのか、想像するだけで今から肝が冷える思いだ。そのくらいドラマチックな救出劇の裏には不気味な陰が見え隠れしている。

##秘密裏に仕込まれた特殊部隊結成の目的とは

 秘密裏に結成された「め組」を仕切るのは、かつてのヒーローたち。前作の主人公朝比奈大吾(あさひなだいご)とその相棒、甘粕士郎(あまかすしろう)。2人のヒーローが、今後の鍵を握ることは明らかだ。

 決定的に違うのは、前作の主人公朝比奈のスタンドプレーは封印されているということ。しかし、「救助が成功すればその場の無茶な判断はお咎めなし」という闇ルールは本作でも健在だ。

 朝比奈がかつて牽引した「め組」では合理性は隅っこに追いやられていた。しかし甘粕が作ろうとしている「め組」は、歴史や条理、多角的な情報をベースにし、準備に準備を重ねた正攻法で救助の現場を回すことを目的としているように見える。そうまでして、秘密の救助部隊「め組」の準備をしている理由は今後、明かされていくだろう。

 救助現場でのオペレーションは、現代においてはネットで一人一人にリーチしやすくなった一方で、他者とのリアルな関わりが少なくなって隣に住む人の顔すらよく分からない、といった難しさがある。リアルな人間関係が希薄な今、誰も体験したことがない災害が起こった時、私たちはどうなるのだろうか。この作品の続きはある意味とても怖い。

 キーワードは“2年後の7月”。ちりばめられた伏線がどのように回収されていくのかも見逃せない。どこを注視しても新たな発見と興味が生まれる『め組の大吾 救国のオレンジ』。是非前作にも触れて、似て非なる作品の奥深さを味わってほしい。

文=ネゴト / そふえ

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『め組の大吾』の続編は、“災害大国日本”を救う若き消防士たちの成長譚。前作の未来、令和の災害とヒーローたちを描く一作