ぬくぬくのお布団の中で「あとちょっと」惰眠をむさぼることは、人生の楽しみの一つですよね。

どうやら、その「あとちょっと」の睡眠時間の延長は、私たちの健康と幸せに、プラスの影響を与えているようです。

睡眠時間を1時間ほど延ばすだけで、眠気が減るだけでなく、血圧や血糖値の安定、そして体内の水分レベル維持にも良い効果があるとわかりました。

研究の詳細は、2023年11月22日付の『Sleep Health』誌に掲載されています。

目次

  • 忙しい若者の睡眠時間を「あとちょっと」延ばす試み
  • 「あとちょっと」寝るのは健康への第一歩かも!

忙しい若者の睡眠時間を「あとちょっと」延ばす試み

研究を紹介する前に、まず「睡眠不足」の定義を明確にし、その影響について整理をしておきましょう。

ここでいう睡眠不足とは、「米国睡眠医学会が推奨する最低7時間の睡眠時間に満たない状態」のことです。

先行研究により睡眠不足は、体にさまざまな悪影響を及ぼすことがわかっています。血糖値の調整能力低下、血圧や心拍数の上昇、ホルモンバランスの乱れなどが含まれます。

先行研究では睡眠不足により身体活動レベルの低下可能性が示されている。
先行研究では睡眠不足により身体活動レベルの低下可能性が示されている。 / Credit: Canva

20歳以上の成人では、睡眠不足が体内の水分バランスに影響することも示されています。これは、睡眠不足によって腎臓などの機能が低下し、体内の水分や電解質のバランスに影響が及ぶためです。

体内の水分レベルの低下、すなわち脱水症状は、身体の疲労感を増加させると同時に、集中力、記憶力、判断力の低下を引き起こします。疲労感や頭痛を引き起こすこともありますよね。

イライラやストレス感、そして時にはうつ症状を引き起こすこともあります。

したがって、健康を保つためには十分な睡眠は大切ですが、忙しい若者にとっては睡眠時間を確保するのは簡単ではありません。

睡眠と幸福を専門とする、米国ストーニーブルック医療センター(Stony Brook Medicine)のマシュー博士は、「忙しい人でも、計画的な介入により、いまより長く睡眠をとることができるか」という問いに興味を持ちました。

さらに、そのような睡眠時間の延長が、身体の健康にどの程度の改善をもたらすのかにも関心を抱きました。

これらを検証するために研究者らは、授業や社交で忙しく、不規則な睡眠パターンになりがちな大学生を対象に、小規模な実験を行ったのです。

結果、1時間ほど睡眠時間が伸びることで、身体の健康指標、心の状態、および体の水分レベルに良い影響を与えることがわかりました。

「あとちょっと」寝るのは健康への第一歩かも!

研究者らは、心身ともに健康な12名の大学生(主に女性、年齢は18~23歳、平均BMIは24.5)を対象に、2週間にわたる睡眠実験を行いました。

この期間、参加者は、睡眠パターンと身体活動レベルを測定するためにモニタリング装置(腕時計型と加速度計)を装着しています。また、日中の眠気レベルは参加者自身による自己申告で評価されました。

加えて、血圧や心拍数の測定、標準化された食事に対する代謝反応の記録が行われ、水分レベルを測るために尿サンプルが採取されています。

最初の1週間は、参加者は通常の睡眠習慣を維持し、身体数値の測定のみを実施。次の1週間は、参加者に「毎晩1時間ずつ睡眠時間を延ばす」よう、研究者らが介入しました。

この介入により参加者の睡眠時間は、一晩あたり平均約43分増加しました。そしてこの、1時間にも満たないわずかな睡眠延長は、以下のような結果につながったのです。

    • 自己申告で「眠い」と答えた人が顕著に減少した
    • 血圧が低下した
    • 食後の血糖値の急上昇が抑えられた
    • 血糖値が基準値に戻るまでの時間が短くなった
    • じっと座っている時間が平均44.3分短くなった

とくに興味深いのは、睡眠時間の延長が体の水分レベルにも良い影響を及ぼしたことです。

具体的には、尿の浸透圧低下として確認されました。尿の浸透圧は、体内の水分状態を反映しており、尿中の物質濃度が高い(浸透圧が低い)ほど、脱水状態であると考えられます。

「健康に良いことをしよう!」というと、早起きして走ったり、ウォーキングしたりと、少々面倒なことが思い浮かびます。

しかし、そのような努力をしなくとも、「1時間余計に寝る」という贅沢が、健康への道を拓いてくれるのかもしれないというのです。

若者の「あとちょっと寝かせて」という願いは、聞いてあげた方が良いのかかもしれない。
若者の「あとちょっと寝かせて」という願いは、聞いてあげた方が良いのかかもしれない。 / Credit: Canva

とはいえ、本研究の対象はわずか12人。なおかつ睡眠介入をしたのは1週間と非常に小規模な研究です。対象は大学生に限定されているため、一般化には少々無理があります。

これらの知見の妥当性を確認するためには、より大規模かつ多様な集団での再現が必要です。とはいえ、この研究の主張は既存の睡眠研究の報告と矛盾するものではなく、また睡眠時間を1時間追加する努力に大きな悪影響があるとは思えないので、健康のために実践してみる価値はあるでしょう。

研究者らは、「高齢者や慢性疾患患者など、さまざまな集団に本研究の結果が適用できるか」が今後の課題であると述べています。

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参考文献

An extra hour of sleep brings multiple health benefits for college students, study finds
https://www.psypost.org/2024/01/an-extra-hour-of-sleep-brings-multiple-health-benefits-for-college-students-study-finds-220886

元論文

Effects of a 1-hour per night week-long sleep extension in college students on cardiometabolic parameters, hydration status, and physical activity: A pilot study – Sleep Health: Journal of the National Sleep Foundation
https://www.sleephealthjournal.org/article/S2352-7218%2823%2900241-3/fulltext

ライター

鶴屋蛙芽: (つるやかめ)大学院では組織行動論を専攻しました。心理学、動物、脳科学、そして生活に関することを科学的に解き明かしていく学問に、広く興味を持っています。情報を楽しく、わかりやすく、正確に伝えます。趣味は外国語学習、編み物、ヨガ、お散歩。犬が好き。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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