『M3GAN/ミーガン』(22)、『ブラック・フォン(21)など近年のヒットホラーを量産しているブラムハウスが、人気ゲームを映画化した『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』が現在公開中。廃墟となったレストランを舞台に不気味なマスコットキャラクターが襲いかかる様子を描く本作で、恐怖の肝となるマスコットのアニマトロニクスを担当しているのが、ジム・ヘンソン・クリーチャーショップだ。

【写真を見る】「マペット・ショー」などで知られるジム・ヘンソン・クリーチャーショップが携わった意外な作品とは?

「セサミ・ストリート」や「マペット・ショー」の生みの親であるジム・ヘンソンが設立し、子ども向け人形番組のイメージが強い同社だが、『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』をはじめ、多彩な作品で手腕を発揮しているので、ここでは映画における同社の仕事の数々を紹介していきたい。

■『ハングオーバー』のトラも!リアルな動物ならお手のもの

人形劇にルーツを持つ会社ということで、『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』然り、数々のアニマトロニクスを手掛けてきたジム・ヘンソン・クリーチャーショップ。デフォルメされたかわいらしいキャラクターはもちろん、ロサンゼルス自然史博物館に展示されているスミロドン(サーベルタイガーの一種)の人形制作とアニマトロニクスを担当するなど造形力にも定評がある。

その高い技術力を生かし、映画に登場するリアルな動物も数多く作りだしてきた。例えば『ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(09)には、酔っ払った男たちがマイク・タイソンから盗んだトラが登場するが、これは同社によるアニマトロニクス。車の運転中に麻酔から目覚めて咆哮を上げる様子は迫力満点で本物と見まごうクオリティだ。

また、ウェス・アンダーソン監督の『ダージリン急行』(07)でも人喰いトラのエピソードが語られるが、このトラもジム・ヘンソン・クリーチャーショップによるもの。森のなかに身を潜めるトラが暗い画面にうっすらと浮かび上がる様子からは、どこかウェス作品らしいかすかな作りものっぽさも感じられ、作品の雰囲気を捉える造形力はさすがだ。

2016年版の『ジャングル・ブック』はCGで描かれた動物たちがあまりにリアルと話題になったが、実はモーグリ役のニール・セディが演じやすいよう、主要動物キャラクターたちは一度実物大の人形が作られており、その人形を同社が制作。スタジオの人形使いが演じるなど、スクリーンに映らない部分でも作品のリアリティに貢献しているのだ。

このほかにもブレンダン・フレイザー主演の『ジャングルジョージ』(97)、動物の言葉がわかる医者をコミカルに描いた『ドクター・ドリトル』(98)、動物たちが本当に会話しているかのように見えるアニマトロニクス技術が評価されアカデミー賞視覚効果賞を受賞した『ベイブ』(95)など、リアルな動物が登場するアニマルムービーを裏側から支えてきた。

■『ハリー・ポッター』『バットマン』…名作映画を支える多彩な仕事ぶり

作品によっては部分的にクリーチャー・エフェクトを手掛けることもあり、ジム・ヘンソンが遣わした盟友フランク・オズがヨーダの声とパペット操作を担当した「スター・ウォーズ」シリーズなど、多くの名作にも関わっている。

例えば『ハリー・ポッターと賢者の石』(01)でハーマイオニー(エマ・ワトソン)を襲うトロールや動物たちのクリーチャー・エフェクトは、ジム・ヘンソン・クリーチャーショップによるもの。鼻に杖を突っ込まれた際の苦悶の顔など、どこか間抜けなトロールの絶妙な表情を作り上げている。なお、トロールに関しては声も同社のパペット使いであるナイジェル・プラスキットが担当した。

さらにクリストファー・ノーランによる『ダークナイト』三部作のはじまりとなった『バットマン ビギンズ』(05)では、ポスト・プロダクションで多くのビジュアル・エフェクト作業を担当。バットマンマント素材となった形状記憶布のCGIレンダリングなど、デジタルな部分の仕事ぶりもお手のものだ。

意外なところでいえば、1996年の恋愛映画『イングリッシュ・ペイシェント』も忘れてはいけない1作。本作では、戦争中に撃墜されたアルマシー(レイフ・ファインズ)の地図のような火傷を表現する被り物や指を切り落とされたカラヴァッジョ(ウィレム・デフォー)の手などを制作。アカデミー賞9部門に輝いた名作にリアリティをもたらした。

■怖かわいい『フナフ』のアニマトロニクス人形たち

そんなジム・ヘンソン・クリーチャーショップが関わっている最新作が『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』だ。1980年代、機械仕掛けのマスコットキャラクターで人気を博したレストラン「フレディ・ファズベアーズ・ピザ」は、過去に子ども失踪事件が相次ぎ、いまでは廃墟となっていた。そんないわくつきスポットの夜間警備を引き受けた青年マイク(ジョシュ・ハッチャーソン)は、数々の不可解な現象に襲われることに…。

不気味なマスコットに襲われないよう身を守るというホラーゲームを原作とする本作は、“怖かわいい”4体のマスコットの造形や動きが恐怖の要。蝶ネクタイがトレードマークのフレディ、ギターを奏でるボニー、コンビで仲良しのチカ&Mr.カップケーキ、骨格剥き出しのボディがチャームポイントのフォクシーと、それぞれ異なる個性を持つ2m超のキャラクターたちは、CGではなくアニマトロニクスで実際に作られている。

アニマトロニクス制作を手掛けた映画やテレビで育ったから感慨深かった。彼らが生みだすキャラクターには魂が宿っているように見えて、とにかく素晴らしいと思う」と語る監督のエマ・タミをはじめ、製作陣の満場一致でジム・ヘンソン・クリーチャーショップにアニマトロニクス制作を依頼。その期待に応え、あるチームはパーツ制作、別のチームは縫い合わせ作業、とすべて手作業で行い、細部を表現するための緻密なデザインのものまで複数のバージョンを用意。見事な職人技で、すでに人気を確立していたキャラクターの魅力を損なうことなく実体化してみせた。

またフレディ、ボニー、チカは、中に役者が入り、パペット操者との協力で演技をしているが、体の内部が丸見えな構造のフォクシーだけは顔、頭、体、腕、足を別々の人間が操作。1体になんと6人のスタッフが必要だったというから驚きだ。

撮影中もゲーム原作者のスコット・カートンが定期的に現場を訪れてはアドバイスするなど、アニマトロニクスがゲームの世界観と一致しているかを綿密に確認しており、その立ち姿から動きまで抜群の恐怖もゲームさながらとなっている。老舗スタジオによる熟練の技にスポットが当てられた本作の公開を機に、今回紹介したほかの作品もチェックして、ジム・ヘンソン・クリーチャーショップの見事な仕事ぶりを堪能してみてはいかがだろうか?

文/サンクレイオ翼

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