世直し系YouTuberが問題視されているが、たとえ動画を投稿などしなくても「自分は世直しのためにやっている」と思い込み、誰かに恐怖を与えてしまうケースもあるようだ。そのような状況を経験し、NG行動をとったという若月志保さん(仮名・20代後半)に話を聞いた。

◆休日の楽しい家族ドライブが一変

 ある日の休日、9歳と2歳の子供たちを乗せて山道を運転中だった若月さん。山の中を走るトロッコに子供たちを乗せたいという想いで、数時間かけて目的地へ向かっていたとか。車も少なく走りやすかったが、脇から出てきた軽トラックが異様に遅く、前方を塞いだ。

「その車は、40キロから、場所によっては50キロ制限の山道を30キロ以下のスピードでフラフラしながら運転。さらにスピードが緩むこともあったので、怖かったです。車間距離を大きく空けて走行しながら、どこかで追い抜きたいと考えていました」

 そんなとき、後ろから走ってきた白いバンが若月さんの車に追いついてしまう。さらに追いついてきた白いバンはすぐ後ろに迫っていて、車間距離も近い。若月さんは、「早く走れ」と言われているように感じ、焦ってしまう。

「バックミラーで白いバンを観察していると、少しブレーキを踏んだだけでぶつかりそうなぐらい間近を走っています。山の中には、車の故障時や後方の車に追い抜いてもらうためなどに待避所が設置されていますが、そんなときにかぎってなかなか見当たりません」

◆追い抜きエリアでホッとするも…

 そんな状況にもかかわらず、話しかけてくる子供たち。そんな無邪気な子供たちの笑顔が、ますます焦りに油を注ぎ、「早くこの状況をどうにかしないと、後ろの運転手をイライラさせてしまうかも」と、ハンドルを握る手もじんわりと汗ばんだ。

「そのとき、追い抜き可能なエリアに入ったのです。ホッとしました。ひとまず、法定速度以下で前方を走行中の軽トラックを抜き去り、待避所をみつけて後方を走る白いバンに道を譲ろうと考えたのです。そして、安全を確認しながら軽トラを追い抜きました」

 ところが、前方の車を追い越した瞬間、後ろを走っていたはずの白いバンがものすごいスピードで追い上げてきて、若月さんの前方にスッと横入り。さらに急ブレーキを踏み、進行を妨げたのだ。気づけば、さっき追い抜いた軽トラックが若月さんのすぐ後ろを走っている。

「私は、前方に白いバン、後方に軽トラックに挟まれて走行することになりました。前方の白いバンは、法定速度を少し下回る速度で走り続けます。そして、後ろを走っていた軽トラックが左折していなくなると、10キロほどで右に左に蛇行運転をはじめたのです」

 さらに窓から、全体的にタトゥーが入った腕を出し、「横に寄って止めろ」というような合図を出しながら、前方を塞ぎつつスピードを緩めたのだ。何度か、その合図を無視して走り去ろうと試みるも、妨害されて抜き去ることができない。

「そこで仕方なく、白いバンの後ろに車を停車しました。警察に電話しようかとも考えましたが、電波が届きません。そうこうしていると、白いバンから両腕にタトゥーを施したノースリーブの男性が降りてきました。歩き方からして、怒りのオーラが滲み出ています」

◆両腕タトゥー男と恐怖の対面

 そのため若月さんは子供たちに危害が加わる恐れもあると考え、車から降りることに。そして、「あとの人生は、託すわ。…っていうのは冗談だけど、私が5分しても戻らなかったら、警察に電話して。電波悪いから何回か、かけてみて」と言い残し、車にカギをかける。

「私は勇気を出し、ゆっくりとこちらへ歩いてくるノースリーブタトゥーの元へ歩み寄り、震える声を振り絞って『何でしょうか?』と尋ねました。すると、『何でしょうか、やないわ!何で前の車を追い抜くんや。ワシかて我慢しとるんじゃ!』と怒鳴りつけてきたのです」

 それはものすごい剣幕で、いまにも殴りかかってきそうな雰囲気。若月さんは恐怖を感じながらも、「え?抜いていい白線のところまで我慢してから追い抜いたのに、どうして文句を言われないといけないの?理不尽すぎる」という複雑な思いが込み上げてきたとか。

「でも、何を言っても相手を怒らせるだけだと思いました。そこで、すぐに『すみませんでした』と言って頭を深く下げてみたところ、相手が『うっ…』と言い、少し気まずそうな顔をして少し後ずさったのです。そこで、『今度から気をつけます』と続けてみたのです」

◆何が目的だったの?

 すると車の助手席から女性が顔を出し、「その人、謝ってるんじゃないの?謝っているなら、もういいやん」と諭してくれたのだ。お陰で、男性は「チッ…」と舌打ちし、「道路はみんなのモノだってこと忘れるな!」と怒鳴ると車に乗り込み、去ってはくれた。

「でも、何かされるんじゃないかと怖かったです。向こうは完全に私が無謀な追い抜きをしたように言っていましたが、交通違反もしていません。それなのに、いきなり煽ってきて怒鳴りつけてくるとか、本当に怖すぎます…」

 自分の車まで戻り、電波を探して警察に電話をした若月さんは、「相手は興奮しているので、車から出ると危ない。とにかく窓やドアを開けないようにロックし、電波がつながる場所がないか試して警察へ電話してください」と注意を受けたと話す。

 あおり運転に遭遇したときは車から出ず、すぐに警察へ相談するようにしてほしい。また、たとえ周囲の車に苛立つことがあったとしても、相手を煽ったり怒鳴ったりすれば罪に問われる可能性もある。まずは深呼吸などして怒りを逃し、冷静に行動したいものだ。

<文/山内良子>

【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意

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