いま、世間を騒がせている自民党の「裏金問題」。「パーティー券」をきっかけに勃発した献金がらみの話題はメディアでも盛んに取り上げられていますが、実は医療業界でもそうした「黒いうわさ」があると、医師の秋谷進氏はいいます。今回は、製薬会社と医療機関における“黒いウワサ”について、秋谷氏が解説します。

製薬会社と医療機関の「金銭授受」が絶対NGな理由

前提として、製薬会社と医療機関のあいだで、金銭のやり取りは絶対にあってはなりません。

たとえば、

・製薬会社Aがつくった薬のPR案件を受けたから、医療機関Bでこの薬を使おう

・製薬会社から“ぜひともわが社の薬を使ってほしい”とお金をもらったから、この薬を第一選択薬にしよう

などということは、当然禁止されています。その理由は、主に以下の2つです。

1.利益相反を防止し、診療の「透明性の確保」をするため

「利益相反(COI:Conflict of Interest)」とは、ある行為によって一方が大きな利益を上げるとともに、もう一方への不利益になる行為のことをいいます。

本来、診療行為とは中立の立場で行うものです。しかし、医師も人間ですから、製薬会社から多額の献金をもらえば、どうしてもその企業が扱っている薬を優遇したくなります。

効果や効能ではなく、個人的な利益や感情で薬を処方するようになれば、その薬が患者さんの命を救うためのものではなくなってしまいます。このようなことを繰り返すと「診療の透明性」の確保が難しくなり、本来あるべき診療行為からかけ離れたものになってしまうでしょう。

2.競争を“公正”に行うため

また、製薬会社と医療機関のあいだの不適切な金銭授受は、製薬市場で「公正な競争」を損なう恐れがあります。

たとえば、製薬会社が多額の金銭を用いて大きなグループ病院を抱き込むような戦略をとったとしましょう。すると、極端にその薬だけ処方数が伸びる現象が起きます。

この場合、臨床研究の際には「製薬会社で扱われる薬」を中心にデータが作られますから、“それ以外の薬”とデータ数に格差が生まれてしまいます。これでは、「本当にいい薬だから実績がある」のではなく、「たくさん医療機関にお金をばらまいたから実績がある」ことになります。研究の質も落ち、ひいては医療の発展も妨げられてしまうでしょう。

したがって、薬の未来のためにも「製薬会社と医療機関で金銭的な授受を行ってはいけない」のです。

そのため、各学会で行われるあらゆる研究や発表においては

・臨床研究において医療機関と製薬会社で金銭的な授受は行わない

・行った場合には、どのような金銭的な授受が行われたのかをきちんと研究に携わった人ごとに開示する

という「利益相反(COI)の開示」が原則になっています。

国が定めている「医療用医薬品に関するガイドライン」

しかし、製薬会社にとっては薬が売れるかどうかは会社の業績に大きく関わりますし、そのためには“どんな手でも使って医療機関に売り込みたい”というのが本音です。法的な規制などがなければ、こうした「癒着」はゼロにはならないでしょう。

そこで厚生労働省が2018年に作成したのが、「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」です。

これは、医薬品を医療従事者が適切に使用・判断するために作られたもので、主に

●医薬品の効能・効果や副作用など、科学的および客観的根拠に基づいた正確な情報を提供すること

●不適正使用や誤使用を誘発しないようにすること

の2点が盛り込まれています。また、以下のような行為は禁止となっています。

虚偽の情報提供

製品に関する誤った情報や証拠が不足している情報。科学的根拠がない効能を宣伝することは禁止されています。

誇大広告

製品の効果を実際以上に大きく宣伝する行為。たとえば、副作用のリスクを意図的にすべて言わず説明することは適切ではありません。

不適切な贈与や接待

医師や医療従事者に対し、不当な贈り物や接待を行うことも禁止されています。これは、医師の処方決定に影響を与える可能性があるためです。

不適切な販売促進活動

医療用医薬品の販売を目的とした不適切なマーケティングや宣伝活動は禁止されています。たとえば、医薬品を無条件に推奨するような行為は許されません。

医師への不適切な影響

医薬品の処方を不当に促進するような行為は、医師の独立性を損なうため禁止されています。たとえば、特定の医薬品を使うことに対して金銭的なインセンティブを提供することは適切ではありません。

調査した医師353人のうち“ほぼ全員”が製薬会社から数千万円受け取っている

しかし、このように国をあげてガイドラインが制定されているにもかかわらず、いまも医師と製薬会社のあいだでは多額の金銭授受が行われているのが現状です。

2023年に発表された「2016年から2019年までの日本の耳鼻咽喉科医と製薬会社との財務関係の評価」についての論文によると、「8,190人の耳鼻咽喉科医のうち3,667人(44.8%)は、2016年から2019年のあいだに製薬会社72社から講演、コンサルティング、執筆の対価として総額1,387万3,562ドルを支払われている」とあります。

約半数の医師がコンサルティングなどの名目でお金をもらっているということになりますね。さらに、1,387万3,562ドルというと、日本円に換算すると約20億1,167万円ものお金が動いていることになります。

※ 1ドル=145円で計算。

また、同じ論文のなかで「臨床診療ガイドラインを執筆している耳鼻咽喉科医のほうが、そうでない医師に比べてもらっている金額が著しく高かった」と述べられており、直接販売に影響を与える医師がターゲットになりやすいことがわかっています。

理事会会長は3,000万円以上…「公正な医療」が崩壊している現実

耳鼻科だけではありません。内科学会の理事と製薬会社に関する論文もあります。

これも2023年に発表された「2016年から2020年までの日本の内科学分科会理事と製薬会社とのあいだの金銭的利益相反」に関する論文ですが、15の医師会に所属する理事会メンバー353人のうち、350人(99.2%)が 5年間に製薬会社から1回以上の個人支払いを受けていることがわかっています。99.2%ということは、ほとんど「全員」ですよね。

受け取っていた金額の中央値は5年間で150,849ドル。日本円に換算すると約2,187万円にのぼります。特に、理事会の会長や副会長だった人は中央値225,685ドル(約3,272万円)というから驚きです。

製薬会社から1人3,000万円以上もらって「公正に薬剤を判断できる」という自信はありますか? すぐに首を縦に振れる人は少ないのではないでしょうか。

製薬会社と医療業界の癒着是正が求められる

繰り返しますが、均質な医療が患者全員に等しく行われるためには、こうした「医療機関と製薬会社との金銭的授受」は絶対にあってはなりません。

もしこの世の中に「抜きんでて優れている薬」があったとしても、それは医師との金銭授受によって世に広まるのではなく、公正な臨床試験によって判明すべきです。

製薬業界と医療業界の癒着を是正するためには、第三者による厳正な態度が求められます。

秋谷 進

医師  

(※写真はイメージです/PIXTA)