韓国ドラマや映画が好きな人なら誰でも、脇役の役者に対して「この人、めちゃおもしろい!」「主人公ではないけど、なんか気になる…」「この人、あの作品にも出ていたんだ!」と思った経験があるのではないだろうか。世界的に人気な秀作を作るためには、主役に負けないくらい強烈な存在感を発揮するバイプレイヤーの存在はかけがえない。劇団やインディペンデントシーンで実力を磨き上げてきたベテラン俳優からアイドルグループ出身まで。トップスターほど名前が知られてはいないが、「絶対どこかで見たことある!」となる、注目すべき“名バイプレイヤー”を、韓国コンテンツに造詣が深いライターに挙げてもらった。

【写真を見る】“キモオタ”を完璧に演じたアン・ジェホン、日本語のセリフは本人の案で追加されたという

■「犯罪都市」シリーズの“小悪党”パク・ジファン、実はチャーミングなところも!

「犯罪都市」シリーズに登場するイス組の親分チャン・イスと言えば、多くの韓国映画ファンがピンとくるのではないだろうか。威張る割には全く冴えない小悪党だが、独特な口調のセリフ「내 아임다(俺じゃないです)」が流行語になるなど、シリーズきっての愛されキャラに仕上げたのがパク・ジファンだ。卑劣な敵役からユーモア溢れるおじさんまで演じ分けてきたが、今年はさらに新しい顔を発見した。『ハンサン ―龍の出現―』(22)で演じていたのは、パク・ヘイル演じる李舜臣将軍に仕える船造りの遊撃将ナ・デヨンだった。弱点の多い亀船を改良していくプロフェッショナルな眼差し、海上決戦に登場したシーンで見せた横顔に痺れた。強面ながらNewJeansへの熱いファン心を隠さない飾らない素顔もチャーミング2月23日には『犯罪都市 NO WAY OUT』の日本公開も控えており、さらに主役級の活躍も見せてくれそうだ。

■歳を重ねるほど美しくなるルックスと深みのある演技が見どころなムン・スク

エキゾチックな顔立ちと、姿勢の良さに見惚れてしまうムン・スクは、韓国映画界を代表する古典の名匠イ・マニ監督との愛と別れを経験し、人生の苦みも深みも知る名女優。今年は特に、様々な表情を見せる母親像を見せていた。「無人島のディーバ」では、人気が凋落した歌手ランジュの可愛らしい母親サンヒとして、視聴者の心をほっとさせた。個人的には、今夏話題をさらった女性の壮絶なノワール劇「マスクガール」でのマスクガールことモミの母ヨンヒがすばらしかった。娘との軋轢から孫のミモを愛せなかったが、最後には命を懸けて孫を救い出そうと死闘に身を投じていく。60代後半という年齢で壮絶な格闘シーンに挑む彼女に、演技者としての凄みを見たのだった。グレイヘアを美しくなびかせ堂々と生きるその姿は永遠の憧れで、年齢を重ねることの楽しみを感じさせてくれる。

(ライター・荒井 南)

■“最低男”なはずなのに、憎めない魅力がある!キム・ビョンチョル

「トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜」で白髪の白い服を着ていたパク・チュンホンを覚えているだろうか。唯一の悪役で印象深かった、むしろ思い出してゾッとした経験がある人も多いかと思う。キム・ビョンチョルはどんな役でも強烈なインパクトを残し、作品を盛り上げてきた名バイプレイヤーである。「SKYキャッスル ~上流階級の妻たち~」ではロースクールの教授で、家庭では絶対的な権力を持ち、息子たちへのプレッシャーのかけ方が異常で不快なのだが、後半になるにつれ滑稽に見えて“かわいそう”という感情も。「医者チャ・ジョンスク」では不倫をしながら二重生活を送っていた最低男なのに、なぜか憎みきれない夫をコミカルに演じ、最高に笑わせてくれた。悪役や冷徹な役も多いが、1つの作品でキャラが変わっていくギャップが出せるのはキム・ビョンチョルならでは。善人なのか悪人なのか、はたまた予想もしなかった人物になのか。何者になるのか最後まで気の抜けない役柄で楽しませてくれる。

(ライター・ヨシン)

■善と悪、陽と陰、どんな役でも見事にこなすうえに、歌まで上手いとは!イ・サンイ

現在「マイ・デーモン」で、ヒロインの唯一の味方であり彼女を想う会社社長役で胸キュンさせているイ・サンイ。「海街チャチャチャ」や「ブラッドハウンド」などで人情に厚い善人役のイメージが強い彼ですが、「チェックメイト!〜正義の番人〜」ではパワハラ爆発のクソすぎる御曹司役で、視聴者に憎まれまくりでした。また、「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」のライブ配信者の“超人気マン”では、デリカシーが無く、うさんくささ全開。善と悪、陽と陰、どちらも見事にこなして、近年のドラマでは無くてはならないバイプレーヤーです。この幅広さは「似たような役はやりたくない」というポリシーでの役選び。彼のキャリアスタートはミュージカルで、ドラマにひっぱりだこになった現在でもコンスタントに舞台に立っています。歌唱力もバツグンで、バラエティ番組の企画ユニット“MSG WANNABE”のメンバーとして歌手としても大ヒットを飛ばしました。「好き嫌いなく、面白さや好奇心、挑戦したいと思える作品に出会いたい」と言う彼が次にどんな姿で楽しませてくれるのかワクワクします。

■ラッパー出身俳優かと思いきや、実は演技経歴37年目を迎えるベテラン、ヤン・ドングン

最新出演作「プレイ・プリ」で、娘の音楽活動に理解が無いながらも娘を見守る父親役で物語を引き締めたヤン・ドングンは、HIPHOPアーティスト・YDGとしてK-RAPの重鎮でもあります。ですが、よくある「ミュージシャンがドラマにも出てます」ではなく、子役出身!なので、演技力には定評があり、「禁婚令 ー朝鮮婚姻禁止令ー」では冷徹で策士の兵曹判書役、「LOST 人間失格」では一見無責任だけどいざとなれば心強くどこかつかみどころがないICUでの看護士役、と様々な顔を見せ、出番が少なくても毎回視聴者に強い印象を残す、文字通りの“シーンスティラー”。そして、どんな役でも常に自然。善人役でも悪役でも「実際もこんな人なのでは?」と思わせるナチュラルな演技が魅力です。「この役は、絶対ヤン・ドングンで!」と、キャスティングで強く指名されるのも納得。代わりが効かない唯一無二の圧倒的な存在感に毎回脱帽です。

(ライター・鳥居美保)

■ダサかわいい大学生からカリスマ溢れる軍人まで、作品ごとに印象が変わるキム・ソンギュン

一度見たら絶対に忘れないお顔なのに、作品ごとに異なる印象を残すキム・ソンギュン。彼の代表作「応答せよ1994」と「恋のスケッチ〜応答せよ1988〜」に、親子ほど歳の離れた役で出演しているのが本当にすごい。2023年はドラマ「ムービング」「離婚弁護士シン・ソンハン」「D.P. -脱走兵追跡官-」、映画でも現在韓国で大ヒット中の『12.12:The Day(英題)』と大活躍だった。特に「ムービング」で演じた怪力の持ち主ジェマン役は、特殊能力の扱いについてドラマのテーマを伝える重要な存在。

■「マスクガール」での“キモオタ”役があまりにも強烈すぎた!アン・ジェホン

もうバイプレイヤー枠を超える活躍をしているアン・ジェホンは、「マスクガール」での迫真の演技(と見事な日本語)で、評価がさらに上昇。高校バスケチームを再建する『リバウンド(原題)』のコーチ役は、アン・ジェホンにしか演じることができない深みのある役だった。映画『小公女』(17)のイ・ソムと再共演したドラマ「LTNS」では、セクシャルコメディに挑戦している。

(ライター・平井伊都子)

■「地獄が呼んでいる」での存在感が抜群!映画での活躍も期待されるキム・シンロク

キム・シンロクは、2021年「地獄が呼んでいる」のシングルマザー役、「怪物」の刑事役で注目を集めたが、昨年も「ムービング」「財閥家の末息子〜Reborn Rich〜」「誘拐の日」「刑事ロク 最後の心理戦」と立て続けに出演、いま韓国で最も忙しい俳優の1人だろう。ドラマの出演が多いけれど、そろそろ映画で彼女の演技を観てみたい。

■人気アイドルグループから実力派女優へ大変身!パク・ソジン

これから活躍しそうだと感じているのは、「ボラ!デボラ~恋にはいつでも本気~」で主人公デボラ(ユ・インナ)の親友役を演じたパク・ソジン。アイドルグループGirl’s Dayの一員として活躍したのちに、「ストーブリーグ」や「環魂」に出演、「ボラ!デボラ~恋にはいつでも本気~」での役は自然体で笑いを取れる、稀有な存在感が魅力的だった。

■神々しい美しさ!いま最も注目されている若手女優、コ・ユンジョン&ノ・ユンソ

「ムービング」のコ・ユンジョンは「ロースクール」の法科大学院生の役で既に存在感があった。主演ドラマ「環魂」シーズン2と「ムービング」で、早くもスター俳優の位置に。イ・ジョンジェ監督作『ハント』(22)でも、豪華俳優陣に混じり堂々とした映画デビューを飾っていた。

コ・ユンジョン同様、「私たちのブルース」「イルタ・スキャンダル〜恋-は特訓コースで〜」と『20世紀のキミ』(22)のノ・ユンソ[は、すぐに主演に抜擢されそう。

(ライター・平井伊都子)

■まさかの2票獲得!カメオ出演だけでも存在感満点のイ・サンイ

個人的には、昨年最も株が上がったのはイ・サンイだった。まずはドラマ「イルタ・スキャンダル~恋は特訓コースで~」で突如現れた人気ユーチューバー役。主人公2人のスキャンダルを突撃取材する、サングラスをかけた変な奴なのだが、特別出演のイ・サンイがはじけまくっていて話題になった。Netflixオリジナルドラマ「ブラッドハウンド」ではボクサー役で主演し、アクションに初挑戦。ノリは軽いが義理堅い男を演じきってコリアドラマアワードで優秀演技賞を受賞した。

極めつけは、現在韓国で公開中の映画『シングル・イン・ソウル(原題)』。主人公ヒョンジン(イム・スジョン)が勤める出版社の同僚としてイ・サンイが登場するのだが、空気の読めないキャラクターで、いちいちの言動がおかしい。笑いながら観ていたら、急にまじめに歌う場面があり、さすがミュージカル俳優、うまい!スクリーンの中の出版社同僚たちも、スクリーンの外の観客も、一気にイ・サンイの虜になった。

■900時間の特訓で、CGなしで天才ピアニスト役を演じたパク・ジョンミン

パク・ジョンミンが何でもやれるのは、すでに十分証明済みではあるが、昨年も映画『密輸(原題)』のチャンドリ役で見せてくれた。主演のキム・ヘスも「ジョンミンさんのすべての映画のなかで、チャンドリが最高」と絶賛していた。若き日のチャンドリは何をやってもドジで足手まといな田舎のダサい兄ちゃんだったが、歳月を経て密輸を牛耳って羽振りの良くなったチャンドリは、ぎらぎらしていかにも“成金”の雰囲気が漂う。どすの利いた怖いおじさんに見事に変身していた。

『それだけが、僕の世界』(18)では天才的なピアノの実力を持つ役で、ピアノ初心者のパク・ジョンミンは900時間特訓して代役もCGも使わずに演じた。『サンセット・イン・マイ・ホームタウン』(17)ではラッパー役で主演、『ただ悪より救いたまえ』(20)ではドラァグクイーン!毎度驚かされるが、来年もチャンドリを超える演技を期待したい。

(ライター・成川 彩)

■役柄の振り幅が広すぎる!夫婦そろって最強のバイプレイヤー、チン・ソンギュ

韓国俳優の化けっぷりの上手さといえばいいのか、「えっ!? あの作品に出てた俳優と同じ人?」ということはよくあるが、チン・ソンギュは半端ない。彼がまず注目されたのは『犯罪都市』(17)スキンヘッドの中国人ヤクザだが、『エクストリームジョブ』(19)ではバカが付くほどマイペースな刑事を好演し、笑いのツボをつかんでいた。韓国初のプロファイラーを題材にした「悪の心を読む者たち」では犯罪分析チームの創設者を好演、映画『コンフィデンシャル:国際共助捜査』(22)ではヒョンビン演じる北朝鮮の特殊捜査員を翻弄する犯罪組織のリーダー役で怪演している。キャラクター分析に長けていることで有名で、どんな役でも変幻自在で引く手あまた。ちなみに彼の妻は「シスターズ」や「ムービング」で迫力の味を出していたパク・ボギョン。夫婦そろって最強のバイプレイヤーというところで今後ますますチェックしておきたい。

■リアリティーある演技で作品に命を吹き入れる名優、キム・ソジン

女優のなかでバイプレイヤーとして推したいのは、キム・ソジン!もともと、舞台で活躍してきた人で確かな演技力を持ち、様々な役にリアリティーを与えてきた。映画『ザ・キング』(17)の検事役で一気に知名度アップ。『麻薬王』(18)でソン・ガンホの妻役、『モガディシュ 脱出までの14日間』(21)ではキム・ユンソク演じる大使の妻、『非常宣言』(21)ではチーフCA役など話題でキーパーソン的な役どころを演じてきた。そんな彼女がドラマ「ヴィジランテ」ではジャーナリスト役。髪を真っ赤に染め、スクープのためなら突っ走るというキャラクターに挑んでいる。聡明なイメージに加え、凛とした女性を演じてきた彼女が今後、どんな役を演じて行くのか楽しみにしたい。

(ライター・前田かおり)

■映画、ドラマ、演劇、ミュージカルだけでなく、監督としても活躍中!ホ・ジュンソク

韓国には多くのバイプレイヤーがいるが、最近気になるのはホ・ジュンソク。ミュージカル出身の実力派で、「その年、私たちは」や「シーシュポス: The Myth」など数々の作品に出演し、記憶に残る演技を披露している。そして、2023年冬のクールでは韓国版「愛していると言ってくれ」に出演。主人公チョン・ウソンの親友役で、見事な手話を披露している。

スタイル抜群のイケメンでないからこその“いい渋み”があり、親近感を持てる人柄。「愛していると言ってくれ」では自身の妻も聴覚に障害がある設定だが、ホ・ジュンソクの明るさや気配りで暗さを一切感じさせない。むしろ理想の夫婦像を見せてくれ、「家族っていいな」としみじみ。それもこれも、ホ・ジュンソクの巧みな手話と深みのある声、相手を思いやる温かみのある表情があってのことだろう。

俳優だけでなく監督としても活動するためか、作品内での自分の立ち位置をよく理解しているように見えるのもすごいところ。いい意味で“そこらへんにいそうな人”でありながら、主人公だけでなく、視聴者の心の拠り所となっている。

(ライター・鈴木ちひろ)

韓国コンテンツに造詣が深いライターが、注目すべきバイプレイヤーを紹介!