「私の全生涯を通じ、真心を込めて、皆様の信頼に応えられるよう努力します」



1953年6月2日ロンドンウエストミンスター寺院で戴冠式を終えた後、国民にラジオで話しかけました。エリザベス女王、当時25歳にして2児の母。イギリスが「女王の時代」に突入した瞬間です。


◆25歳2児の母が女王となる
英国女王が伝授する70歳からの品格』(KADOKAWA)には、亡きエリザベス女王の人生哲学がギュッと詰まっています。享年96歳にして在位期間70年、英国王室最長であり、英国君主最高齢の、生涯を女王として生きたエリザベス女王の息吹です。



『英国女王が伝授する 70歳からの品格』



著者は英国王室ジャーナリストの多賀幹子さん。女王の名言からファッション、知られざる一面などが貴重な写真とともに綴られた、何とも贅沢な1冊です。



多賀幹子さん



◆女王として生きる
「本当の愛国主義とは、他人の愛国主義を理解することです」


愛国主義についての本質を突いたと称賛される言葉だと、本書には書かれています。愛に満ちあふれたエリザベス女王の人となりを物語るとともに、他者への深い理解が込められていると思いませんか。ひとりひとりが自国への愛を明確にしていけば、自然と他者や他国を敬う気持ちもわいてくるのです。



『英国女王が伝授する 70歳からの品格』より



「君主」としての運命をかせられたのは、エリザベス女王が10歳の頃。当時から利発で聡明だったといいますが、まだあどけない少女にのしかかるプレッシャーは、相当なものだったでしょう。やがて初恋の相手、フィリップ殿下と結ばれます。エリザベス女王が21歳、フィリップ殿下が26歳でした。



恋に落ち、結婚、出産。女性としての幸福と女王としての責務の狭間で、苦しんだこともあるかもしれません。それでも、「私たちは、気を散らせるものがあふれる世の中で、立ち止まり、吟味することを忘れてしまいがちです」と、自身や他者を労わり、時にゆとりを持つ大切さを説いています。


多忙を極めるエリザベス女王の、実感と経験に基づいた含蓄(がんちく)ある一言です。


◆ファッションとたしなみ
エリザベス女王といえば、色彩鮮やかなファッションも注目の的でした。



エリザベス女王の次男、アンドリュー王子が未成年者の性的虐待疑惑で訴えられたり、ヘンリー王子の王室離脱など、スキャンダルも少なくなかった英国王室。しかしエリザベス女王は国民とともにありたいと願い、「信じてもらうためには見てもらわないといけない」と考えたのです。


自らの装いを、人々の視線を集めるための戦略ととらえました。大輪の花が咲いたような赤、オレンジ、黄などを見事に着こなし、色に負けないくらいの笑顔を振りまきます。その結果「国民の3人に一人が女王を見たことがある」というBBCの調査結果まであるほどになりました。



『英国女王が伝授する 70歳からの品格』より



ファッションアイテムに関しては、上質な品を長く持たせていたようです。100%オーダーメイドの黒のシンプルな靴は、お直しを繰り返して履いていたといいます。30万円以上と目されるバッグも、痛めば修理に出すなどして長年愛用していました。こういったきめ細やかな心遣いも、エリザベス女王の魅力なのでしょう。


◆家族を思うが、母親である前に女王
英国王室の歴史で、今もなお私達の記憶に残るのは、ダイアナ妃の事故死ではないでしょうか。


「私は彼女に感銘を受け尊敬していました」とはエリザベス女王の弁ですが、ダイアナ妃は日本での人気も高かったため、イギリスはもちろん日本、そして世界中が悲しみにくれました。


事実、「在位中最大の危機」と言われたダイアナ妃の死。乗り終えたのは、国民に寄り添うエリザベス女王の言葉だったと本書。エリザベス女王ダイアナ妃、お互いを見つめるまなざしには、愛と尊厳が感じられるのです。



『英国女王が伝授する 70歳からの品格』より



エリザベス女王は3男1女に恵まれましたが、4人のうち3人が離婚(2人が再婚)しています。「母親であることは、何よりも大切な仕事です」と、母であることを誇りに思い、子供達への愛もゆるぎなかったに違いありません。


とはいえ、母親である前に女王でした。子供達に十分な愛情を注ぐ時間がなかったと、自分を責めることもあったそうです。


◆「愛を貫くためには、悲しみを避けては通れません」
悩み、自省し、前を向く。この繰り返しの中で、女王という生涯をまっとうしました。


「愛を貫くためには、悲しみを避けては通れません」


個人としての生き方、妻や母としての在り方、英国女王としての振る舞い。この言葉に、エリザベス女王の信念が宿っているように思えてならないのです。



『英国女王が伝授する 70歳からの品格』より



エリザベス女王という、ひとりの女性が生きた証が本書にあります。名言、哲学、そしてファッションの数々。人生の岐路に立った時、ページをめくってみてください。必ずあなたの勇気と助けになるでしょう。


<文/森美樹>


【森美樹】1970年生まれ。少女小説を7冊刊行したのち休筆。2013年、「朝凪」(改題「まばたきがスイッチ」)で第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)を上梓。Twitter:@morimikixxx