―[モラハラ夫の反省文]―


◆「妻の子どもへの態度が酷すぎる」という相談

 こんにちは。DV・モラハラ加害者が、愛と配慮のある関係を作る力を身につけるための学びのコミュニティ「GADHA」を主宰しているえいなかと申します。コミュニティではさまざまな悩みが共有されています。今回は、子育てにおける事例を紹介します。

「パートナーが子どもに対して脅すような叱り方をしているんです。それもまだ就学前の子どもにですよ? 『そんな叱り方は加害なのでやめて欲しい』と伝えたら、今度はこちらにマジ切れしてくるし。一体どうしたら良いのでしょうか」(Rさん)

 ご自身のパートナーとの関係の危機を迎えた際に、パートナーからの勧めでGADHAに参加したRさん。

 最初は自分自身の言動がモラハラだとは露ほども思っていなかったそうですが、GADHAでモラハラ・加害について学ぶ中で、自らの言動がパートナーへの深刻なモラハラ・加害になっていたことに気づき、現在、加害者変容に向けて取り組みを進めています。

 そんな折、パートナーの子どもに対する叱り方が、子どもへのモラハラ・加害になっているのではないかと思い、先のような悩みを持つに至ったとのことでした。

 一見、モラハラとは直接関係のない子育てに関する悩みにも見えますが、今回はこのケースを深堀りしていきます。

 僕がRさんにその時の状況をもう少し詳しく聞いてみると、Rさんは次のように答えてくれました。

「朝、子どもが保育園の準備を前日にしていなかったんです。そうしたら、いきなりパートナーは『どうしてやっていないの?寝るまでに保育園の準備をしておこうって、いつも言っているよね?』と就学前の子どもを責め始めるんです。

 その詰問に対して子どもが返事できなかったり、ぐずって動かなかったりすると、『黙っていたらわからないでしょ?時間になっても準備ができてなかったら、家に置いていくからね!』と子どもを脅してコントロールしようとするんです。実際に子どもを家に置いていける訳もないのに。

 私はそのやり取りを聞いているのがどうしても苦痛で」

◆自分が正しいと信じ込んでいる時こそ、注意すべきである

 Rさんは続けます。

「子どもが忘れたり、できなかったりするのは、ある意味普通ですよね?朝の忙しい最中に子どもを責めたってどうなるものでもないですし。いくら子どもに対して、保育園の準備を前日にするよういつも注意しているからと言ったって、さすがにやり過ぎですよ。パートナーにだって、夜に子どもと一緒に準備をするとか、寝る前に確認するとか他にもやりようはいくらでもあるんですから。

 どうせ子どもに注意するなら、もっと穏やかにしてほしいんです。子どもへの悪影響が心配です……そうした私の希望をパートナーに伝えても全く聞いてもらえません。それどころか、今度はこちらにマジ切れしてくるんです」

 一見すると、Rさんの心配や意見はもっともで、Rさんのパートナーこそが加害者のようにも見えます。しかし、GADHAでは、加害者自身からは見えていない視点があるかもしれない、と想像しながら相手の話を聴きます。

 以前の記事『「自分のほうこそ被害者だ」と主張する人々は話を盛る傾向がある』でも述べたとおり、僕も含め、加害当事者の多くは「相談しながら自己正当化」してしまいがちで、自分の加害性を認識することが非常に苦手です。

 正しいことをしているように見えている時こそ、我々は慎重に考える必要があります。

 そこで僕は、「Rさんのパートナーは、小さい子供が苦手だったり、あるいは人に暴言・暴力などをしても平気な人だったんですか?」と、Rさんにパートナーの人柄について聞いてみました。

 Rさんは、「いえ。子どもと遊ぶのが好きで、ユーモアもあり情に厚い人です。そんなところが好きで一緒になりました」と答えてくれました。

 であれば、そうした美徳を持つRさんのパートナーが、なぜ自分の子どもにきつく当たってしまうのか、そこには何らかの理由があるはずです。

◆そもそも、Rさんは子どもの保育園の準備に関わっているのか

 僕は、Rさんが「保育園の準備」の詳細を知っているか聞きました。

 するとRさんは、「『保育園の準備』は、基本的にお箸やコップ、ループタオルなど保育園で使った物の入れ替えがメインですね。私も時々ですが、送り迎えをすることもあるので何となくはわかります。不定期なものについては大体パートナーがいつもやってくれているので、詳細はよくわかりません」と答えてくれました。

 次に、僕は、Rさん自身が保育園の準備をすることがあるかを聞いてみました。Rさんは次のように答えてくれました。

「私も保育園の準備をすることはあります。でも、私の帰宅は大体子どもが寝た後になることがほとんどなので、毎日子どもと一緒に準備することはできません。それに、保育園の送り迎えをしてくれているのはパートナーなので、パートナーが保育園の準備をするほうが効率的なんです。それに、パートナーの方が早く帰宅するんだから、保育園の準備くらいは何とかできると思うんですよね」

 僕は、「Rさんのパートナーも、Rさんが仕事に専念できるよういつも精一杯努力してくれているわけですから、保育園の準備『くらい』と言うなら、Rさんが代わりにやってもいいのではないかと思うのですが、どうでしょうか?」と重ねて聞いてみました。

 すると、Rさんは、「私だって、仕事が忙しい中、自分にできることはもう最大限やっているので、これ以上はちょっと……。それに、子どもの教育には小さい頃からの習慣が大事だと私は思っているんです。もちろん、パートナーも色々大変だろうとは思いますが、私が仕事で忙しくてできない分は何とか工夫してやってほしいんですよね」とため息交じりに答えてくれました。

 皆さんは、Rさんの受け答えから何を感じられましたか?

 僕は、残念ながら、Rさんには、家庭の状況に対する自分の関与や責任の認識がかなり乏しいのではないかと感じました(『「子煩悩なお父さん」を自称し、子育てを妨害する夫の実態とは』参照)。

 Rさんは「自分にできることはもう最大限やっている」と言いますが、それはRさんのパートナーも同様かもしれない、という視点や配慮が欠けているからです。

◆妻側の目線では夫は「何もしないのに正論を押し付けてくる人」

 Rさんには「Rさんのパートナーも、もうすでに、できることを、一生懸命にやっているのでは?」という視点が抜けてしまっているため、ご自身の大切なパートナーを安易に責めてしまっているのです。

 その結果、Rさんがほれ込んだパートナーの持つ美徳(子どもと遊ぶのが好き、ユーモアもあり、情に厚い)が発揮できない状態を自ら作り出してしまっていると考えられます。

 すなわち、この相談内容は、Rさんのパートナーの視点からは以下のように語り直すこともできそうです。

「彼は、仕事の忙しさを言い訳にして、育児や家事の負担を一方的に私に押し付けてくるんです。私だって同じように仕事をしているのに……彼は『仕事が忙しい』『自分もやれることはやっている』の一点張りなんです。

 じゃあ、あなたがやれなかったことは誰がするの?全部私が責任をもって後始末もやらなきゃいけないの?と言ってやりたいところですが、普段はすれ違いが多く、まともに話をすることもできません。正直、もう彼の当事者意識の希薄さには耐えられません。

 何かあると、二言目には『僕は仕事があって』とか『それは君の役割だろう』とか、すぐに言い訳したり、こちらに責任を押し付けてくるくせに、何かと口だけ出してくるので余計に腹が立つんです! 

 私だって私なりに、仕事と家庭を両立させようと毎日必死なんです。もうこれ以上がんばれないくらい、毎日がんばっています。夕方、仕事を無理やり切り上げて子どもの迎えに行き、そこから夕食の準備や子どものお風呂・寝かしつけなど私には休む暇もありません。子どもの体調不良で早退したり、病院へ連れて行ったりするのもいつも私。

 ヘトヘトに疲れていたら、子どもにさえ優しくできない時だって正直あります。それが良くないと言うことは自分が一番良く分かっています……。

 それなのに、普段の私の努力や気遣いなどは一切お構いなしに、いつも無神経に『子ども相手にキツく叱り過ぎだ』とか正論や自分の考え方とかを一方的に押し付けてくるので、本当に頭に来るんですよね!私は彼の召使いじゃありません!!誰のせいでこんなに疲れてイライラさせられているのか。彼は何にもわかってないんです」

◆見えない部分までパートナーが支えてくれているからこそ

 Rさんは、話しているうちにだんだん青ざめながら言いました。

「私は、ちゃんとパートナーに感謝の気持ちを持っていますよ。『当たり前』とか、『やって当然』とかだなんて思ったことはただの一度もありません。でも、今の内容は妻とケンカする度に言われることとあまりにも同じで、今、衝撃を受けています……」

 では、Rさんはどうしたら良かったのでしょうか?

 今回のケースの場合、対症療法的には、Rさんご自身が、パートナーやお子さんに代わって保育園の準備をすることが考えられます。もしお子さんが起きている時間帯にRさんが帰宅できないのであれば、普段はRさんが帰宅後にご自身で保育園の準備をしておいて、Rさんが休みの日にはお子さんと一緒に準備をすることでも良いと思います。

 ただ、もっと根本的には、以前の記事『不幸や孤独を脱するためには、「愛されること」よりも「愛を受け取る能力」がより重要な理由』で述べたように、Rさん自身が、すでにRさんのパートナーから受け取っているもの、与えられているものに気づき、パートナーに対して具体的に感謝を伝えていくことが必要になると考えられます。

 今、Rさんが仕事に忙しくできているのは、どうしてなのでしょうか?

 Rさんが家事や育児の分担を「自分のできる範囲」で済ませていられるのは、どうしてなのでしょうか?

 それは、Rさんのパートナーが(Rさんから直接見えないところで)家庭のことや、お子さんを常に精一杯ケアしてくれているからに他なりません。

◆「パートナーへの感謝」が口先だけで終わらないようにする方法

 Rさんも、口では「パートナーに感謝の気持ちを持っている」と言っていますが、残念ながら、現状ではその気持ちがパートナーには伝わっていないようです。どうしたらRさんの感謝の気持ちがパートナーに伝わるのかを模索してみることもできるのではないかと僕は思います。

 GADHAにおける「感謝する」の定義は、相手のニーズをケアすることです。例えば「ありがとう」という言葉を発することも、相手が言葉を求めていないならば、それは感謝にはなりません。

・相手が具体的にどんなニーズを持っているか、それをどうケアできるかを、相手の立場に立ち、(自分の価値観や感じ方ではなく)相手の価値観や感じ方で考え、行動すること。
・そして、万一、相手のニーズを読み間違えてしまった時には、(「喜ぶと思ってしてやったのに」と相手に自分の善意を押し付けるのではなく)その事実を素直に認め学び直して、改めて相手が心から喜ぶことをする

 それこそが本当の意味で相手に「感謝する」ことなのであり、あなたとパートナーとの関係を持続可能でくつろげるものにしてくれるのです。(『「相手に多くを与えたのに、離れていってしまう」という人の特徴とは』参照)

 職場同様、ケアすることは、家庭においても必要なのです。

◆思い込みと視点を変えることで争うことが減った

 後日、Rさんは、パートナーへどのように感謝の気持ちを伝えているかを教えてくれました。

「まず、自分にできることとして、パートナーを安易に責めることを止めました。パートナーと子どものやり取りを見ていると、やはり言いたいことはどうしても出てくるのですが、パートナーも自分と同じように『もうこれ以上がんばれないくらいに精一杯やってくれているのだ』という視点を意識することで、少なくともタイミングや伝え方を自分の中でまず考えるようになりました。そのおかげで、子どもの前でパートナーと口論することは少しずつですが減ってきました」

 Rさんは続けます。

「私は、今の状況を変えるにはパートナーを変えるしかないと思っていましたが、それも自分の安易な思い込みだったんですね。視点を変えると、同じ現象を見ていても自分の感じ方が全く違うので、本当に驚いています」

 Rさんは、どこか晴れ晴れとした表情で話してくれました。

◆片方の犠牲が伴う関係は健全ではない

<被害者かもしれないあなたへ>
なんで私ばかりが一方的に監視・指導されなきゃいけないんだろう」と思うことが多いあなたは、モラハラやDVの被害者である可能性があります。
 パートナーシップとは、相互に気遣いあう対等な関係です。どちらかだけが献身的に関わる関係は不健全であったり、ご自身を犠牲にしての関係になってしまっているかもしれません。そのような関係を終了するという選択肢は、誰もがもって良いものだと僕は思います。
 様々な専門機関があるので「モラハラ 被害」「DV 被害」などで検索してみてください。
 まずは、一人で抱え込んだり、限界まで我慢せず、専門家や信頼できる人へ早めに相談されることをおすすめします。

<加害者かもしれないあなたへ>
 あなたのパートナーは、元々子どもを脅したり、手を上げたりするような人でしたか?(おそらくそうではないはずです)
 正論パンチや自己正当化(相手を悪者にする)は気持ちいいかもしれませんが、決して問題解決の役には立ちません。それどころか、パートナーとの関係を不可逆的に破壊し、最後はあなたを孤独にします。
 パートナーが他愛のないことも含めて色々と話してくれるうちに、パートナーの本当の思いに対して真剣に向き合い、一緒に考え、そして自分にできることから取り組みを始めてみてください。
 パートナーがあなたに何も言わなくなったとしたら、それはあなたの思いが伝わったのではなく、あなたとの関係を諦めたからかもしれません。

【えいなか】
DV・モラハラなど、人を傷つけておきながら自分は悪くないと考える「悪意のない加害者」の変容を目指すコミュニティ「GADHA」代表。自身もDV・モラハラ加害を行い、妻と離婚の危機を迎えた経験を持つ。加害者としての自覚を持ってカウンセリングを受け、自身もさまざまな関連知識を学習し、妻との気遣いあえる関係を再構築した。現在はそこで得られた知識を加害者変容理論としてまとめ、多くの加害者に届け、被害者が減ることを目指し活動中。大切な人を大切にする方法は学べる、人は変われると信じています。賛同下さる方は、ぜひGADHAの当事者会やプログラムにご参加ください。ツイッター:えいなか

―[モラハラ夫の反省文]―


「子どもをキツく叱りすぎるパートナー」に辟易していた相談者。しかし、相談者の態度にも問題があり……