2024年も確定申告シーズン(2/16~3/15)が近づいてきました。「控除証明書も揃い、収入や経費の計算も用意できたので安心」……そう思うのは少し早いかもしれません。確定申告の内容によっては、税務調査の対象となる確率を上げる可能性もあるとか……。そこで本記事では、税務調査の対象とならないために確定申告で注意すべきことについて、税理士事務所エールパートナーの木戸真智子税理士が解説します。

税務署が目を光らせる「悪い確定申告」とは?

今年も確定申告の時期がやってきました。確定申告に向けて、一年分の資料を集めたり、整理したりしている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。  

毎年のことだから大丈夫。自分のようなケースはたいしたことないだろう。――そんなふうに思って、あまりよく考えずに確定申告を済ませている方はいませんか。いま一度、適正な確定申告ができているか、確認しましょう。

個人事業主やフリーランスが税務調査の対象となる確率は、税務調査全体のうち、およそ1%といわれています。確率としては低いから、自分のところには税務調査は来ないだろうと油断していたとしても、しっかり税務署はみています。ランダムに税務調査をしているように見えて、なにかありそうだなと思われるような確定申告をしているところに、しっかり税務調査が来ています。

自分はそんな対象になってしまっていないか、適正な確定申告ができているか、以下のポイントと照らし合わせてみましょう。

1.経費が異常に多い

この時期に1年分のレシートや請求書を整理していると、事業に対する経費なのかプライベートの経費なのか、記憶も定かでなかったり、判別が難しかったり、といったこともあるかと思います。もしくは、面倒になって全部経費にしてしまう……なんてことはないでしょうか。

たとえば、給与所得があって、別に事業所得や不動産所得がある場合、これらの所得が赤字になると損益通算をして、給与から差し引かれていた税金が還付になるというケースもあります。

税金が還付されると確かに嬉しい気持ちにはなるのですが、もし、大きな赤字になってしまっている場合、改めてその収支を見返してみてください。あり得ない収支バランスになってはいないでしょうか。

普通に考えて、事業をする理由は儲けるためですよね。それなのに、毎年、どう見ても大損しているような収支になっているとしたら明らかに不自然です。

たとえば開業したばかり、起業して間もない、など明確な理由があるのであれば、なんの問題もありません。一方で、理由もないのに、もし、そんな収支になってしまっているとしたら「関係ない経費がたくさん入っています。どうぞ税務調査にきてください」といっているようなものです。

そして、そんな申告をしていて、ふとしたときに困ってしまう場面があります。それは融資を受けるときです。不採算の事業をしているような確定申告になっている場合、銀行の融資は当然厳しくなります。

そして、当たり前ですが、経費をごちゃまぜにしてしまうということは、お金の管理もごちゃまぜになってしまっているということなので、個人の資産形成という面においても、マイナス要素となってしまいます。

もし、そんな確定申告になってしまっているとしたら、本当にそれは自分にとってプラスなのか、よく考えてみましょう。お金は手元に残っていますか?

2.前年に比べて経費の起伏が激しい

経費とは売上をあげるためにかかるコストです。つまり、当然売上に連動してかかってくるというのが通常の動きになります。

もちろん、家賃や給与などの固定費は別として考えます。売上は毎年、さほど変動していないのに、経費だけがやたら変動が激しくなっているとしたら、明らかに不自然です。この場合も(1)のケースと同じく、関係ない経費がたくさん入っているのでは?と疑われる可能性があります。

当然、事業内容によっては大きく経費の内容が変動してしまうということもあるでしょう。そういう場合は明確な理由がありますからなんの問題もありません。

しかし、たいして理由もなく、大きな変動がある場合、内容を見比べてみましょう。もしかしたら間違いや関係のないものが混じっているかもしれません。そうして、見比べることで、1年の振り返りにもなり、事業成功のポイントにも気が付けるかもしれません。

3.申告書の記載内容が少ない、もしくは空欄

確定申告というものは、本当に細かく、いろいろなことを記載しなければなりません。自分で確定申告をしている方のなかには、収支計算だけでも大変なのにと、書類の記載をいい加減にしてしまっては、悪目立ちしてしまいます。

しっかり丁寧に記載されている確定申告と省略されてしまっている確定申告。当然、狙われるのは後者です。

4.そもそも無申告

副業などの場合、ちょっとした収入だから申告しなくてもバレないだろう、とほったらかしにはしていないでしょうか。実はその収入、税務署は把握しているかもしれません。

申告をしていないのに、なぜバレるのか? それはズバリ、支払調書です。

会社は個人に支払った業務委託費や家賃などを毎年1月に支払調書を作成しており、それらの合計として「法定調書」という形で税務署に報告しています。

この法定調書という書類はまさに確定申告の漏れをチェックする機能をはたしています。今年(2024年)であれば2023年の1月から12月のあいだに支払ったものに対して、2024年1月に税務署に報告しているので、確定申告の前にすでに税務署に報告されていることになるのです。

当然、無申告であることがわかれば、税務調査の対象となります。  

5.売上が1,000万円ギリギリ

1年間の消費税がかかる売上が1,000万円を超えた場合、その2年度は消費税の課税事業者になります。そもそもインボイス登録していたり、課税事業者を選択していたりする場合は、超えていなくても申告の対象です。もちろん、居住用の賃料収入など消費税がかからない売上である場合には、たとえ1,000万円を超える売上でも消費税の対象にはなりません。

上記のようなケースで1,000万円に少し届かない状態が何年も続いているとしたら、

消費税逃れをしているのでは?

・売上が漏れていないか?

などと疑われてしまう可能性もあります。当然、正しく申告している場合も残念ながら、調査の対象になりうる売上規模となりますので、そのようなケースになっているとしたら、心構えをしておきましょう。

6.現金商売をしている、または貸借対照表に預金の記載がない

飲食店、小売業、建設業など現金商売をしている業種も、税務調査の対象になりやすいといえます。現金商売をしている場合には売上が漏れやすかったり、売上が抜けても、その売上の証拠が残りにくいという点は、税務調査において疑われるポイントとなるのです。

また、青色申告の場合、しっかり事業用の通帳をわけて、貸借対照表に計上していますか? こちらも預金の記載がない場合には、事業用の口座とプライベート用の口座がわかれていない、と判断される確定申告書とみなされるため、調査の対象になりやすいといえます。

そしてもちろん、青色申告をしているということは前提として、プライベート用と別に事業用の口座が存在していて、しっかり帳簿がつけられていることが条件になってきます。必ずわけておきましょう。

7.申告漏れが多い業種に該当している

国税庁では毎年、申告漏れが多い業種ランキングが公表されています。税務調査をする対象は限られているので、選定基準としてはやはり、申告漏れが多い業種が対象になる可能性は高くなります。

もちろん、しっかり正しく確定申告していたとしても、申告漏れが多い業種に該当していたとしたら、調査になりやすいということを念頭に置いておきましょう。

まとめ

前述のとおり、個人事業主やフリーランスが、税務調査に遭う確率は決して高いものではありません。だからこそ、適切な申告でないと税務署から目を付けられると、その確率は大きく上がることになります。

税務調査によってペナルティを負うことにならないよう、確定申告には余裕を持って丁寧に取り組むようにしましょう。

<参考>

国税庁 事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種

https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2018/shotoku_shohi/sanko02_01.htm

木戸 真智子

税理士事務所エールパートナー

税理士/行政書士/ファイナンシャルプランナー

(※写真はイメージです/PIXTA)