エステサロンで使うマシンを人に売却したい…。買い手が見つかればそれで安心、と思うかもしれませんが、金額が高額な製品の売買では、万が一故障した場合のリスクも大きいです。売買契約書があるから安心? もしかしたら、その契約書自体が問題を引き起こす可能性もあります。そこで、実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、機器の売買契約について、日吉加奈恵弁護士に解説していただきました。

売買契約書には、売り手に不利な文言が…

エステサロン経営者のkazooさん(50代男性)は、お店を閉店することに決め、使用していた美容液導入機器の買い手を探していました。幸い、買い手が見つかり、kazooさんは安心していました。

後日買い手から売買契約書が送られてきて、内容を確認したところ以下のような文言がありました。

第6条(保証)

本機器が仕様書記載の品質・性能を著しく欠き、または故障が頻発する等、乙の業務に支障あるときは、乙は、甲に対し、本契約を直ちに解除し、すでに支払った代金の返還およびこれによる損害の賠償を請求することができる。

相談者は期限などが定められていないこともあり、こちら(売り手)に不利な内容になっているのではないかと心配しています。

そこで、ココナラ法律相談「法律Q&A」に次の3点について相談しました。

(1)このままの文言だと、売り手はどのような責任を負わなければならないのでしょうか。

(2)修正する場合、どのような文言にしたほうがいいのでしょうか。

修正案としては、例えば…

買い手から提示された契約書の第6条には、kazooさんが売却した機器に不具合があった場合に、kazooさんがどのような責任を負わなくてはならないのかについて定められています。

まず「本機器が仕様書記載の品質・性能を著しく欠き、または故障が頻発する等、乙の業務に支障あるときは」という記載があります。

本機器に不具合があったとして、どのような場合にkazooさんが責任を負うかに関する規定ですが「本機器が仕様書記載の品質・性能を著しく欠き、または故障が頻発する等」は、「乙の業務に支障あるとき」の例を挙げている記載ですので、契約の文言上は、kazooさんは、「乙(買い手)の業務に支障あるとき」には責任を負わなくてはならなくなります。

しかし、この文言では、買い手の業務に支障がありさえすればいいことになってしまうので、例えば買い手から「思っていたより機器が使いづらかったので業務に支障が出ている」として責任追及をする旨の主張や、買い手が機器を壊したにもかかわらず「業務に支障が出ている」としてkazooさんが責任を負うべきだという主張がされてしまうことになりかねません。

そういったトラブルを防ぐために、kazooさんが責任を負うべき場合を限定する必要があります。修正案としては、例えば「本機器が仕様書記載の品質・性能を著しく欠いているときは」などとして、責任を負う可能性がある場合を限定することが考えられます。

また、民法においては、契約不適合責任(売買契約において、商品に品質不良や数量不足などの不備(=契約不適合)があった際に売主が負う責任)を追及する場合、買主が不適合を知ってから1年以内に売主に通知する必要があるとされています(民法第566条)が、本契約書においてはそういった期間の制限もないことから、無期限に責任を負う必要がでてきてしまいます。

この点についても、例えば「本機器の納入後1年以内に乙が契約不適合を発見し、発見後○日以内に甲に通知した場合」には責任を負うといった限定を加えることが考えられます。

次に、後半部分の「乙は、甲に対し、本契約を直ちに解除し、すでに支払った代金の返還およびこれによる損害の賠償を請求することができる。」という記載についてです。民法の規定では、契約不適合があった場合、買主の請求に応じて目的物(本件では、本機器のことです)の修補や代替品の納入などで対応することも予定されていますが、本契約では、直ちに契約を解除して代金を返還するとされています。

本機器に不具合があっても、すぐに修理すれば問題ないといった場合でも、代金全額を返還しなくてはならないこととなってしまうため、「乙は、甲に対し、本機器の修補、代替品の納入をすることができる」としたうえで、「本機器の修補または代替品の納入では足りない場合には、乙が契約を解除することができる」といった定めにすることも考えられます。

さらに、「損害の賠償を請求できる」といった点についても、損害額が青天井とならないよう、一定の限定を加えることができるとよりよいでしょう。

例えば、「甲は、契約不適合により乙に生じた損害のうち、現実に発生し、かつ通常生ずべき損害を賠償する」というように、損害の範囲を通常損害(契約不適合があったことにより、通常生じると考えられる損害)に限定したり、「甲は、契約不適合により乙に生じた損害について、◯円を上限として賠償する」など、上限額を定めることも考えられます。

「民法の規定」が重要

売買契約において、売主からこのように目的物の保証に関する条件を提示されることはよくあります。しかし、実際にどういった効果をもたらすのかをよく確認しないと、あらゆる不具合について無制限に保証しなければならなかったり、契約締結時には予想できなかったような損害が発生し、賠償額が高額になりすぎてしまうといった事態になりかねません。

売主としては、当然、幅広い原因による不具合を幅広く保証してほしいと考えるでしょうから、自身が買主の立場であって、売主が提示した契約書を元に契約を締結する場合には注意する必要がありますし、売主の義務が不相当に過大となっている場合には、契約交渉により妥当な文言に修正することを検討すべきです。

契約書を確認するポイントについては、①契約不適合が生じた場合に、どのような対応が求められているか②責任を負う期間はどの程度か③どういった損害について責任を負うと定められているかといった点を確認するとよいでしょう。

また、相手としても一定の場合には当然売主が責任を負うべきであると考えているでしょうし、実際に、壊れたものを売ってしまった場合など、売主が責任を負うべき場合もあることから、「こちらがなんの責任も負わない」といった形での交渉では、うまくいかない場合が多いです。

そこで、交渉の際に着地点として参考にするとよいのが、民法の規定です。契約不適合に関する責任について、契約書で何も定められていない場合は民法の規定が適用されることとなりますし、民法は、買主または売主の立場にはない、ある意味中立の立場から作られた法律であるといえることから、お互いにどうしても妥協できない点については「民法の規定による」とすることでお互い納得できることもあるでしょう。

すべての点において妥協をせずに契約交渉をすると、相手としても納得できないでしょうから、最低限譲れないポイントを決めて交渉に臨むことも必要です。例えば、「契約不適合の責任を追及できる期間はある程度幅広に認めてもよいけれど、損害の範囲は最低限にしたい」など、どういった点であれば妥協できるかをよく検討したうえで、交渉に臨むようにしましょう。

日吉 加奈恵

弁護士

(※写真はイメージです/PIXTA)