「コロナで仕事を失って、人生が大きく変わった」と、人生をリスタートさせた吉田三世さん。


『七転び八起き』(KADOKAWA)は、70歳で始めた着物リメイクが大当たりして、72歳で講師デビューを決めるまで、転んでもただでは起きないアグレッシブな人生論です。
 
◆人生はガチャ、でも回すのは自分



「七転び八起き」(KADOKAWA)吉田三世(著)



40歳を過ぎてから舞台衣装の制作会社を設立した吉田さんですが、もともとご自身でも社交ダンスを楽しんでいました。


「ダンスの先生とフェスティバルで踊りたいけれど、お金がない、だったら自分で作ってみよう」そんなきっかけでドレス作りを開始。やがてプロのダンサーからもオーダーが入って……、という流れで一生モノの仕事になるのですから、驚き以外ありません。


◆採寸はしないで目を頼りにドレス作り



撮影:木村正史 (以下同じ)



「社交ダンスのドレスを作るとき、採寸はせず、自分の目を頼りにする」と吉田さん。


社交ダンスのドレスはとてもきらびやかですが、美しさだけで生地は選べません。激しい動きに耐えうる伸縮性も考慮すべきですよね。なおかつ、ダンサーさんの個性や魅力を引き出すデザインが望ましいです。


数字でカテゴライズされる寸法ではなく、お客様ひとりひとりの体と、体の動きを綿密に目で見てチェック。「お客様に踊ってもらいながら、布をハサミで切っていくこともある」のだとか。吉田さんのドレス愛とダンス愛があふれています。


◆趣味は楽しい、仕事は厳しい
「好きなことを仕事にしてるなんて、幸せですね」そんな風にもささやかれますが、「とんでもない」と吉田さんは思っていました。趣味を逸脱して仕事となると、何事も厳しく、苦しいものです。


トップクラスのダンサーからの難しい要望や大口の注文。ダンサーも一流ですから、妥協は許されません。幾度となく手を加え、納期に怯える日々。心身ともに疲弊して、投げ出したくなったことも一度や二度ではないでしょう。


それでも、ドレスを着たダンサー達が踊る姿を眺めたとき、観客の歓声に包まれたとき、吉田さんは夢のような心地になるのだろそうです。


好きなことをあきらめない、年齢のせいにしない。その思いが根底にあるからこそ、吉田さんのドレスそのものが、輝きを増すのかもしれませんね。


◆日本人ならではのアイデア、漢字ドレス



「みんながビックリする顔を見るのが好き」そんな吉田さんがひらめいたのが、漢字ドレス。ドレスに漢字で「日本」そして「夢」。派手さ優雅さのバランスが絶妙です。


一歩間違えば、斬新すぎて賛否両論の恐れもある。でも、思いきってやってみたらどんな化学反応が起こるだろう。緊張感と高揚感は、いつでもワンセットでやってくるのです。


自分の感覚を信じて、躊躇なく行動してみる。かろやかな生き方は、吉田さんのダンス経験から培われたのでしょうか。背筋を伸ばして堂々と笑う、吉田さんの姿を見ていると、あれこれ悩む時間がもったいなくなってしまうのです。


漢字のアイデアからも想像できるように、吉田さんの心には大和魂が息づいていたのかもしれません。そう、着物との出会いを予期するように。


◆コロナを機に、人生が急展開
やがて世界的パンデミックによって、競技会やパーティーの延期や中止が相次ぎます。当然、ドレスの注文も激減。その頃に出会った古着の着物に、吉田さんはインスピレーションを得ました。


こうして、大ヒットする「着物リメイク」のドレスが誕生するのです。



上質な着物でも、古着となると格段に安くなります。状態はいいのですから、放置していてはもったいない!思い立ったら即行動の吉田さん。


「着物の幅を活かして裁断部分を少なくする」「直線を生かしたデザインで服を仕立てる」など、洋裁の技術と着物の特性を併せ、工夫してリメイクしました。


◆YouTubeでの配信も
さらに「YouTubeで作り方動画を配信」するという徹底ぶり。こうなったらもう、着物リメイク愛は留まることを知りません。書籍出版やNHK講座の講師へと、活躍の場が広がっていくのです。


大胆不敵な印象の吉田さんですが、迷いもあったと言います。やるか、やらないか、二択を迫られたとき、私達はつい安全や安定を選びそうになります。そこをあえてチャレンジしサバイブするのが、人生を豊かにするコツかもしれません。


◆言葉にすれば叶う、それが人生



やりたいことをやりつくして、いつでも人生現役。還暦を過ぎ、70歳を超えてもなお元気。とはいえ、「人生は一筋縄ではいかない」と吉田さんは語ります。年齢を重ねれば体は衰え、できないことも不自由なこともできてきます。


「人の力が必要なときはお願いし、専門知識を持つ人に教えを請うこともある」という謙虚さも大切。年を重ね、人生経験を積み上げても、世の中の更新が止まるわけではありません。素直な心で時流に乗るのも、また人生を悠々泳ぐコツではないでしょうか。


なによりも自分の思いに忠実に、やりたいことを口に出し、実際にやってみるのです。言葉にすると、案外体が動いてしまうもの。


あなたの、今、やりたいことは何ですか。言葉に乗せれば、ほら、叶う日が向うから近づいてくるはず。私達も七転び八起きの人生を、笑顔で生きようじゃありませんか。


<文/森美樹>


【森美樹】1970年生まれ。少女小説を7冊刊行したのち休筆。2013年、「朝凪」(改題「まばたきがスイッチ」)で第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)を上梓。Twitter:@morimikixxx



撮影:木村正史 (以下同じ)