スカパー!の国内ドラマチャンネル「ホームドラマチャンネル」で、開局25周年記念ドラマ「お母さんが一緒」が2月18日(日)から放送される。

【写真】橋口亮輔監督と長女・弥生役の江口のりこがドラマ「お母さんが一緒」の取材会を行った

本作は、母親の誕生日に温泉旅行をプレゼントした3姉妹の悲喜こもごもの姿が描かれたブラックユーモアたっぷりの家族の物語。ペヤンヌマキの同名舞台を原作に、「ぐるりのこと。」「恋人たち」の橋口亮輔監督が脚本も担当してドラマ化した。妹たちにコンプレックスを抱く長女・弥生を江口のりこ、仕事も男性関係もルーズな次女・愛美を内田慈、そんな姉たちを冷ややかな目で見ている三女・清美を古川琴音が演じる。そして、清美の彼氏・タカヒロ役をお笑いトリオネルソンズの青山フォール勝ちが務めている。

放送開始を前に取材会が開催され、江口と橋口監督が出席した。

■橋口亮輔「軽快な人間ドラマとしてどう成立させるか、まず考えました」

――本作ではどのようなことを表現したいと思って脚本を書かれましたか?

橋口:役者さんにも「今回は『家族の深いトラウマや誤解が因縁を呼んで』みたいな重い話じゃないので気軽にやってください」って話したんですけど、僕自身が作品との距離感をどうすればいいのか? 自分の作品として軽快な人間ドラマとしてどう成立させるか、まず考えました。

――ペヤンヌマキさんの舞台が原作ということですが。

橋口:はい。ペヤンヌさんの舞台はいくつか見たことがあったんですけど、この作品は見たことがありませんでした。今回、ホームドラマチャンネルさんから提案をいただいて、何か撮ろうということになりました。オリジナルの企画も考えていたんですけど、オリジナルだといろいろ大変だったりするんです。そうしたら松竹ブロードキャスティングの方が「ペヤンヌさんの舞台をそのままドラマ化するのはどうですか?」と言ってきて、この作品を映像で見てみたら面白かったんです。「これなら面白いドラマなるな」って。

とは言え、そのままドラマにするというのも簡単じゃない。テレビドラマもやったことはありますけど、たいてい売れっ子さんが出てますよね。そうするとスケジュールがタイトで、衣装合わせだけやって、あとは現場でリハーサルをして、深夜ドラマだと2日間ぐらいで撮ることが多いので、おのずとできることできないことが見えてくるわけです。それでも役者の方はプロですから、せりふをきちんと覚えてきて、喜怒哀楽を込めて演じる。商品としての作品は出来上がるわけです。でも、今回のドラマもそういう感じでいいのか?って思って。やる限りはしっかりとした作品にしたいなと、できる限りのことをやろうと考えたわけです。

――「お母さんが一緒」という作品に決まったところでキャスティングも考えて?

橋口:そうですね。江口さんとは2008年の「ぐるりのこと。」でご一緒させてもらってますけど、今や超売れっ子ですし、(内田)慈ちゃんだって忙しいし、古川(琴音)さんも若手ナンバーワンだし、ネルソンズの青山君なんて「キング・オブ・コント」の決勝まで行ったグループだからめちゃくちゃ忙しいじゃないですか。それぞれダメ元でオファーしてみたら、奇跡的に皆さん9月のある瞬間が空いていて、しかも二つ返事でOKしてくれたんです。

■江口のりこ「橋口さんの印象として“すごく怖い人”というのがあったんです」

――「ぐるりのこと。」の時の印象は覚えていますか?

橋口:「ぐるりのこと。」では、リリー・フランキーさんと木村多江さんが感情をぶつけ合う15分くらいの長いシーンがあるんですけど、そこで「うるせえよ!」って乗り込んでくる役でオファーさせていただきました。台本を見ると「静かにしてもらえませんか?」という一言が書かれてるんですけど、現場で僕が「風邪をひいてる設定だからマスクをしてみよう」とか、いろいろやりとりをして台本にないことも盛り込んでいったんです。それによって、3人の感情がパーンと弾けるような場面になりました。江口さんの存在がなかったらあのシーンは成立しなかったんじゃないかと今更ながら思います。そういう撮影現場のでしたので、僕の中では“激しい人”という印象でしたね。今回お会いして、「あの時、一言だけだったのによく受けてくれましたね」って言いました(笑)。

江口:「ぐるりのこと。」はオーディションだったんです。

橋口:え!?

江口:今回、橋口さんにお会いして「あの時、よく受けたね」って言われたんですけど、オーディションだったんです(笑)。

橋口:えぇ、そうだっけ?

江口:どこかのアパートの一室で、5人くらい並んでたのかな? 「最近、いら立ったことは?」みたいなテーマを与えられて、私は「掃除機の音がうるさい」っていうのをアパートの上の人だか下の人だかに言いにいくというのを即興でやりました。そしたら監督がすごく笑ってて。私、橋口さんの印象として“すごく怖い人”というのがあったんです。

橋口:本当に?

江口:橋口さんの映画はいろいろ見てましたし、実はトークショーにも行ったこともあるんです。

橋口:全然知らなかった!

江口:神戸だったかな? まだ10代だったと思うんですけど、「こういう映画を撮る人は絶対に怖い人だ」って思っていました(笑)。そういう印象もあって、「ぐるりのこと。」のオーディションを受けにいったら、監督が笑っていてすごく楽しそうにされていたんです。

それでオーディションに受かって、台本を頂いて読んでみたらいら立ってる役だったので、「オーディションでやったことをやればいいんだな」って。でも、実際に現場に行ってみると、皆さんすごく集中されてますし、緊迫感もあったので「自分はここで絶対に邪魔しないようにしよう」ってことだけを考えてました。それで、さっき橋口さんが言っていたように、現場で「風邪をひいてる設定でマスクをしてみよう」とか、いろいろ言われたことをやっていくことに集中していたので、一緒にお芝居を作ったという感覚は全くなくて、“無事に終わった”ってホッとしていただけでした。なので、今回、改めて長い時間かけて一緒に作れたのはうれしかったです。

■橋口亮輔「(ドラマ撮影で)リハーサルって普通はしないみたいなんです」

――撮影していて楽しかったシーンとしんどかったシーンは?

江口:基本的に全部しんどかったですね(笑)。青山さんがいらっしゃる日は監督がご機嫌なので、その日は楽しかったです。

橋口:僕、そんなにいつも不機嫌でした?

江口:不機嫌ってことはないんですけど、基本怖いです(笑)。怒鳴ったりはしないんですけどね。でも今回、何日かリハーサルがあって、それがあったおかげで撮影を乗り切れたところがありました。そのリハーサルがすごく楽しかったんです。リハをしながらいろいろ考えたり、見つけたりすることができたんですけど、たぶん他の共演者のみんなもそうだったと思います。

橋口:リハーサルって普通はしないみたいなんです。僕も先輩の監督とかと話をしている時にリハーサルのことを言ったことがあるんですけど、「え? リハーサルって何?」って驚かれました。「役者さんに役を掴んでもらうために」って説明したんですけど、どの監督さんもリハーサルなんてやったことないって。「やらないんだ!?」って驚いたこともあります(笑)。それで今回、江口さんたちにも聞いてみたんだけど、「そんなのないですよ」って言われて。でも、この前リリーさんや木村さんに会った時、「やっぱりリハーサル、あった方がいいですよね」って言っってくれたので、やって良かったなって思いました。事前にいろんな話もさせてもらえるし、共通の目的を共有することもできますから。さっき江口さんが話したように僕も楽しかったので(笑)。

江口:リハのおかげで役を掴めた感じはしました。台本を読んで、自分なりに「こんな人かな」ってイメージを作っていくことはできるんですけど、リハで監督がそれをやって見せてくれるんです。それがめちゃくちゃ面白くて、「あ、こういう人なんだ!」ってイメージを固めることができました。私の役だけじゃなくて、内田慈ちゃんや古川琴音ちゃんの役も監督がなりきってやってくれるんです。「もうそれでいいじゃないですか」っていうくらい、役のイメージに合ってるんです、それが。

■江口のりこ「家族は面倒だなって思いました(笑)」

――3姉妹それぞれ個性が違っていて面白い3人だと思いましたが、内田さん、古川さんと共演してみて、役を通してでもいいんですが、どんな印象を受けましたか?

江口:私も含めて3人とも監督を信頼して「頑張ろうね!」ってすぐに絆ができていました。2人ともお芝居がすごく好きな人なので、芝居をしていてすごく楽しかったし、芝居以外の時間もくだらない話をしてすごく楽しかったし、あの2人が共演者で良かったって思いました。現場の雰囲気自体がすごくいい感じでしたね。

――このドラマは“家族”がテーマになっていますが、撮影を通して“家族”とはどういうものだと感じましたか?

江口:家族は面倒だなって思いました(笑)。「もういいや」って思っても、戻ってきて「大丈夫?」って感じになっちゃいますし、切り離せないものですからね、家族って。

橋口:まぁでも、このドラマを見て何かしら家族に関して考えたりしてもらえたらいいなとは思います。完成したものを関係者の方に見てもらった時、ドラマ自体の感想よりも先に、皆さんが家族のことを話されたんです。「母親に認知症が始まって」とか「うちも3姉妹で既視感がありました」とか。今回皆さんが家族の話をされるのを聞いて、これはいいことだなと安心しました。共感していただいたということですから。ということで、放送を見てくれる方も、最初に言ったように気楽に見てもらえたらと思っています。

◆取材・文=田中隆信/ヘアメーク(江口):鈴木彩、スタイリスト(江口):清水奈緒美

橋口亮輔監督と長女・弥生役の江口のりこ/※提供写真