1959年にブロードウェイで初演を迎え、デビー・レイノルズ主演で映画化もされた傑作ロマンティックコメディさよならチャーリー』。シナリオライターチャーリーは数々の女性と浮名を流してきた名うてのプレイボーイ。ところがある日、人妻との逢瀬の現場に旦那が乗り込み、チャーリーは撃ち殺されてしまう。チャーリーの葬式の夜、親友ジョージの前に現れた絶世の美女。それは天罰で女性に生まれ変わったチャーリーだった——。

主人公のチャーリーを演じるのは山本一慶で、見た目は女性、中身は男性という難しい役どころに挑戦。さらにチャーリーと浮気をするラスティ役の大湖せしる、チャーリーの親友ジョージ役の井澤勇貴、ラスティの夫でチャーリーを殺害するアレキサンダー役のルー大柴ら、チャーリーを取り巻くキャストたちとの軽快な掛け合いにも注目だ。公演は2024年2月16日〜25日、池袋・あうるすぽっとで上演。開幕を前に、主演のチャーリーを演じる山本一慶と、ラスティを演じる大湖せしるに本作への想いと意気込みを聞いた。

(左から)大湖せしる、山本一慶

(左から)大湖せしる、山本一慶

■チャーリーと一緒に戸惑ってます(笑)

ーー山本さんは主人公のチャーリーを、大湖さんは彼と浮気をする人妻のラスティを演じます。台本を読んで、役に共感する部分はありましたか? どう演じていこうと考えていますか?

山本チャーリーは38歳の男性で、転生して女性になってしまう。チャーリーとしてはすごく戸惑うと思うけど、まさに僕も今その状態ですね(笑)。戸惑っているというか、僕自身女性になるなんて考えられないというか……。

大湖:ラスティと私は似ているかと言ったらそうではないと思うけど、彼女の揺れ動く気持ちだったり、楽しさ、苦しさ、恋する女性のピュアな部分は、やっぱり共感できる部分はありますね。

山本:僕もチャーリーと一緒に何か気付きを感じていけたらと思っているのだけれど……。チャーリーは全て気付きのスタンスなんですよね。周りから聞いたこと、女性になって経験することで気付かされていくことが多いので、チャーリーとしては発見の連続だったりする。そこで自分自身のしてきたことを俯瞰できるようになっていく。その気付きをお客さんと共に共感できたら、よりわかりやすい作品になる気がします。

大湖:ラスティに関しては、たぶんお客様も“あ、その感情わかる”と、それぞれが感じたり共感できるところがたくさんある気がします。そこを大事に丁寧に、いろいろ見つけつつ、役作りしていけたらと思っていて。ただ心情をもっとセリフではっきり出せたらいいのだけれど、ラスティはそうじゃない。それでいて伝えたいことはたくさんあるので、それをいかに表現していくか。演出の岡本さとるさん、共演者のみなさんといろいろ相談しつつ、演じていけたらと思っています。

山本チャーリーの課題は、男性のメンタルから女性のメンタルに変わったときの境界線をいかに違和感なく表現するか。それができたら素敵だなと思いつつ、やっぱりそこは研究ですね。

大湖:私もラスティを演じていて、“うん、これで行こう!”とはならない気がして。たぶんずっと悩み、考え続けると思う。幕が開いてからもさらに見えてくる彼女の想いがある気がするし、終わりはないかもしれない。千秋楽までずっと突き詰めていけたらという気持ちでいます。

(左から)大湖せしる、山本一慶

(左から)大湖せしる、山本一慶

■異性を演じるのって楽しい!

ーーチャーリーに扮する山本さんのビジュアルが“美しい!”と話題です。

大湖:本当に、すごく可愛い! 一慶君、ビジュアル撮影をするとき角度をいろいろ調整して、女性らしいポイントを探していたと聞きました。

山本:僕自身はあんまり考えてなかったというか、わりと自然体のつもりでいたけれど……。でもこのビジュアル写真、よく見るとお姉ちゃんにちょっと似てるかも(笑)。

大湖:そうなんだ!(笑)。私は男役時代、死ぬほど歩き方を練習していましたね。やっぱり仕草って一番お客様が見ててわかりやすい部分じゃないですか。男性らしさをいろいろ研究しては、風切って歩いてました(笑)。

山本:そういえば、『憂国のモリアーティ』のときも男性役だったけど、いつも風切って歩いてたよね。みんなが真似してた(笑)。

大湖:男性を演じてるときは、普段から風切ってるから(笑)。私も男役が長かったので、他の方が異性を演じるのを見るのはちょっと楽しみ。

山本:やっぱり異性ものをやるのって楽しいよね。

大湖:楽しい、楽しい!

山本:普段男性を演じているときって自分の感性の全てを投影してるけど、女性を演じるときはもうただ単に自分が思う“可愛い女の子”を素直にやろうという気持ちでできるから。

(左から)大湖せしる、山本一慶

(左から)大湖せしる、山本一慶

大湖:あぁ、そうかもしれない。

山本:以前『夏の夜の夢』で演じたハーミアも、僕が好きな女の子のタイプを勝手に投影したりしてた。イメージしたのはラプンツェル。隠し事がなく、楽しいときは楽しい、辛いときは辛いと、喜怒哀楽でコロコロ変わるところが可愛いくて好きだから。異性を演じるのは意外と気楽で、何やってもいいじゃんってなるから面白い。

大湖:力が抜けていいよね。

山本:でも今回はそうはいかない。まず声をどうしようと思って。声帯は女性だけど、中身は男性なワケでしょ。

大湖:確かに。私も男性を演じるとき、声を低くしなきゃって思うけど、そうすると感情のまま喋れないというか、そこで心にブレーキがかかるのが気持ち悪かったりする。そういう意味では女性を演じているときの方が感情のままバッと出せる感覚はあるよね。

山本:今回はあえて男性のままの地声で喋っても面白いかもしれない。むしろあえて太い声で喋ってみたり。ただ喋る内容もだんだん女性的になっていくから、その心情によって変わってくるかもしれないし。そう考えると、声はあまり気にしなくてもいいのかなって思えてきたよ(笑)。

ーーチャーリーは名うてのプレイボーイで、数々の女性と浮名を流します。彼のような男性をどう思いますか?

山本:僕はチャーリーのこと、いいなと思って。男性として憧れます。本能のままというか、あれだけ自分のことが好きで、何の後悔もせずに生きていけるのは羨ましい。

大湖:ダメとわかりつつみんな惹かれてしまうから、たぶんものすごく魅力的なんでしょうね。それでたくさんの女性たちが泣かされてしまう。

山本:まぁ彼も、死んでから過ちに気付いて後悔するけどね。あと、あの死に方は僕は嫌だな(笑)。

大湖:私自身はチャーリーみたいな男性は無理! 絶対にしんどいじゃないですか。

山本:でも会ったときはすごく優しいんだよ。それで女性も安心しちゃうんだよ。

大湖:誰もが好きにならずにいられない魅力があるんですもんね。じゃあ、私もコロッといっちゃうかも——(笑)。

(左から)大湖せしる、山本一慶

(左から)大湖せしる、山本一慶

■4度目のタッグだからわかる、お互いの素顔とは!?

ーーお二人は舞台『ジョーカー・ゲームII』、ミュージカル憂国のモリアーティ」シリーズ、ロンドンコメディ『Run For Your Wife』に続き、4度目の共演となります。

山本:初めましては『ジョーカー・ゲームII』だったけど、あのときはほとんど喋ってなかったよね(笑)。

大湖:あのときは宝塚を退団してまだ2年くらいで、メインキャストに女性が私一人というのも初めてだったから、“怖い、どうしよう!”と思ってバリアをはってました(笑)。

山本:だけどあれから夫婦になり、愛人になり——(笑)。

大湖:一慶君がこんなオープンなキャラだとは最初は全然わからなかった。えぇ、こんな人だったっけ? と思って。

山本:僕も何度も共演してわかったんだけど、せしるさんってパッと見とはキャラが違うよね。一見するとクールな印象だけど、実はビューティーというよりキュートで、内面は意外と乙女だったりする。

大湖:ただボケてるだけってことかも(笑)。

山本:違う、違う! 話をしてても和気藹々でノリノリで、その扉を開いてる感じがすごく可愛い。

大湖:一慶くんはそれこそ『ジョーカー・ゲームII』のクールなイメージがあったけど、実は全然違ってた。私が芝居で悩んでたりすると、“そこはこうだよね”ってさらっと言ってくれたりして。周りのことをよく見てて、聞いてて、気付いて察してくれる。それでいて伝えるのが上手で、それは一慶君が優しいからできることだと思う。

山本:いやぁ、うれしいこと言ってくれますね。これで楽しく稽古ができそうです(笑)。

(左から)大湖せしる、山本一慶

(左から)大湖せしる、山本一慶

ーーチャーリー役、ラスティ役を演じるにあたり、本番までに準備していることはありますか?

山本:脱毛! 髭を薄くしようと思って、今脱毛サロンに通っています。

大湖:え、腕や脚はやらないの?

山本:腕もやってるよ。今4回行ったところだけれど、なかなか5回目が行けなくて。本番のギリギリに行くと腫れちゃうから、今ちょっと焦ってる(笑)。

大湖:私はただひたすらセリフ覚えですね。普通の会話だからこそ余計に関西なまりが出てしまうんです。よく一慶君にイントネーションを聞くんだけど。

山本:僕、自称・イントネーションの神なんです(笑)。

大湖:普通の感情で喋る方がなまるから、普段から標準語で喋ったらいいのかなと思って、昔試してみたことがあるけれど……。

山本:いちおう試したんだ(笑)。

大湖:そうしたら喋らなくなるだけで、ダメでした(笑)。だから普段は関西弁でいいやと開き直って。こういう役のときにちょっと努力しようと思っています。

ーー最後に、ファンにメッセージを御願いします。

山本:ロマンスあり、笑いありのロマンティックコメディです。ポップで見ていて楽しい作品で、それでいて人間ドラマになっていて、お客さんに投げかけるメッセージにすごく深いものがある。心に残って、染みるものがあるから、後で考える余地を与えてくれる。僕も考えさせられること、感じることが多くて、舞台でお客さんに伝えられることがたくさんあるなと考えています。この作品の持っている魅力を、ぜひ劇場で感じていただけたらと思います。

大湖:素晴らしいキャストの方々が集まっているので、もう面白い作品になるしかないと確信しています。ジョークがただのジョークで終わらずに、その奥に何かしらキャラクターの心情が描かれてる。何か考えさせられることがあって、私自身軽いタッチで終わりたくないという想いがあります。きっと演じている私たち自身も日に日に見えてくるものがあると思うので、それをお客様に感じていただけたら。またそれを伝えられるメンバーでもあって、観ないと絶対損します(笑)。ぜひ劇場に来てもらえたらうれしいです!

(左から)大湖せしる、山本一慶

(左から)大湖せしる、山本一慶

取材:小野寺悦子    写真:山副圭吾

(左から)大湖せしる、山本一慶