こんにちは、シューフィッターこまつです。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。

春に向けてウォーキングを始めようと思った矢先に痛めるのがヒザです。せっかく一駅分歩こう、ジムに通おうとしても、ヒザをやられると元も子ありません。筆者自身、学生時代にやっていたスポーツの後遺症のせいで、左ヒザが変形しているので、ヒザと靴の関係には通暁しています。そこで今回は、ヒザの痛みから抜け出すための靴を紹介しましょう。落とし穴もあるので、ご注意ください。

◆ヒザを壊さないために生まれた靴「HOKA」

以前は「HOKA ONEONE」(ホカ・オネオネ)という名称のせいで「ホカホカ」「ホネホネ」など間違われていましたが、最近はシンプルに「HOKA」に改名されました。ヒザを壊さないために生まれたメーカーなので、気合いの入れ方が違います。それは圧倒的クッションと安定性に顕在化しています。

ナイキなど他メーカーの厚底モデルは「走る」には適していますが、かかとから着地することは考慮されておらず、とにかくスピード重視でかえってヒザに負担がかかります。

HOKA「クリフトン9」はソールが厚いだけでなく、横から見るとゆりかごのように勝手に足が前に出てヒザや足首などの関節に負担をかけないつくりが特徴。整形外科では「ロッカーソール」と呼んでいますが、本来は骨折やリウマチなど関節が動きづらい患者のために考案された形状です。これが効く。

結果的にヒザに負担をかけないので、長距離も問題なく歩けます。結果的にヒザ周りから脚全体の筋肉も鍛えられるので、若返りの靴としても評判が高いです。

◆控え目デザインならニューバランスの最先端シューズ

HOKAはデザインが派手だなぁと感じる方にはニューバランスの最先端シューズ「Fresh Foam Arishi v4 GTX」がお勧め。NBは「996」「574」などのクラシックタイプが話題になりますが、最先端技術の「フレッシュフォーム」シリーズはクッション性・安定性ともにHOKAと遜色ありません。安価なので個人的には「ジェネリックHOKA」といった位置づけ。デザインもシンプルを極め、スーツスタイルにもぎりぎり溶け込みます。

HOKAは原材料費と輸送費アップで年々値上がり幅が大きくなっているので、代替品を探している方は決まりでしょう。個人的に一番感覚が近く、バランスもあきらかにHOKAのクリフトンを意識しているので、目をつぶって試着するとまったくわからないほど。しかも「Arishi V4 GTX」は完全防水のゴアテックス仕様で1万4300円と破格です。耐候性と実用性を求めるなら、絶対的にお勧めです。

また、ゴアテックス製品はメッシュでまったく伸びないのですが、パーツがシンプルで指関節の邪魔をしないので、親指や小指が痛くなる方や、爪が当たって肉に食い込んでしまう方でも方でもストレスなく履けます。

◆買ってはいけない要注意のウォーキングシューズ

「ウォーキングシューズはどうなの?」と思われた方、意外にもウォーキングシューズの技術は進歩が絶望的に遅く、10年以上なにも変わっていないのでお勧めしません。最たる例がリーボックの「DMXシリーズ」。1万5389円と高価でありながら、安定感ゼロ。クッションだけならたしかに優秀ですが、すぐに転びます。

不安定になる理由は、ヒールとつまさきに連動された巨大なエアです。平らな地面に置くとエアが盛り上がっていて、靴を置いただけでぐらぐらします。履いて体重を乗せると平らになるはなるのですが、体重が軽い方や濡れた路面だと一気に滑ります。とくにマンホールの上で転倒したという話は何度も聞くので、ベストセラーといっても手を出さないほうが賢明です。

10数年続くモデルで男女ともにリピーターの多い靴ですが、オイルレザーなので底も意外にはがれやすく、改善する気配はなし。ターゲットがシニア寄りなので、保守的になっているのでしょう。

往々にして「ウォーキングシューズ」専門の靴はデザインも古臭く、惰性で販売している靴が目立ちます。なにより重い。かつ高価な割には修理もできないものがほとんどなので、よほど気に入ったモデルでもなければ買う理由にはなりません。ランニングシューズで十分です。

◆室内でのケアが盲点。裸足は危険

いくらクッションと安定感のある靴を履いていても、家に帰った瞬間に裸足になっては効果が半減します。知らない人が多いのですが、フローリングは思いのほか衝撃を伝えるので、とくにヒザを痛めている方は室内履きが必須です。

スリッパも履かないよりはマシですが、効果も限定的で音もうるさい。そこでフランスのインソールメーカー「シダス」がつくった日本限定モデルの「UTIPPA(ウチッパ)」です。単純にクッションが効くというわけではなく、姿勢を安定させることに特化しています。履けば背筋が自然にしゃきっとして、思わず足元を二度見してしまうほど。ヒザ・腰痛持ちの方ほど即効性があるので「これはいったい何?」と驚くはず。ここがクロックスなんかとはまったく異なる視点です。

足の安定と姿勢は直結します。姿勢が安定すると、当然関節の神経に触れることも激減するので、「わかる人にはわかる」室内履きなのです。部屋の中での作業時間が多い方にも欠かせません。夏用のリカバリサンダルも悪くはないのですが、どちらかというと外を歩くものなので室内で使うとうるさい。ウチッパは完全室内用で、アッパーもマジックテープで開け閉めできるので簡単に調節が利きます。

仕事上どうしても革靴を履く必要がある人は、アシックスやミズノなどのスポーツメーカーが出している「ハイテク革靴」であればヒザへのダメージは最小限ですみます。オフの日は「①ヒザに特化したスニーカー②家のなかでは専用の室内履き」の2方向からケアするとより効果的。病院でせっかく炎症を止めても、歩くことで再発しては意味がありません。最先端技術の靴を履いてヒザをケアしましょう。十分に投資する価値はあると思います。

【シューフィッターこまつ
こまつ(本名・佐藤靖青〈さとうせいしょう〉)。イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。HPは「全国どこでもシューフィッターこまつ」 靴のブログを毎日書いてます。「毎日靴ブログ@こまつ

シダス「ウチッパ」。1万2100円。写真は公式HPより