日経平均4万円は時間の問題か?

 つい1年前までは、日経平均4万円などという証券関係者がいると、何言ってんだろう? と思っていたものの、この1年で状況は大きく変わり、そんな当たり前のことを言われても…という考え方になってきた。4万円になるかどうかというよりも、それがいつなのか、というところに論点が移ってきているように思える。

 一方で、新NISAが始まってから2ヶ月余りで急速に株価が上げているので、このままいくと調整局面の時にも急激に下げる可能性がある、むしろ上昇スピードをもう少し緩やかに、売り買いしながら上がっていってほしいという評論家も出てきた。場中で新高値となった2月9日金曜日は、2月のバレンタインデー前後まで続く集中的な決算発表のど真ん中だった。

 日経平均は上げて終わったが、プライム市場の株価を見てみると値上がり銘柄566に対して、値下がりはその2倍の1048銘柄。最近よくある傾向だ。日経平均は225社の株価で構成されているが、同じ上がる下がるでも銘柄によって異なる。ファーストリテイリングソフトバンクグループなどの一部の銘柄の値動きの影響が大きい。

 株価はいろんな要因で動いていくが、企業の先行きについて市場参加者がどう捉えているか、その将来価値も織り込んだ生の数字だと考えるのであれば、日経平均が上がった下がったというだけでは、日本経済の実像が見えてこないことがある。多くの企業が値下がりしているのに、日経平均だけ上がっていく。こういう状況が最近はよく見受けられる。

◆出遅れ株に注目が集まる

 日経平均は上がったように見えながら、まだ投資マネーは一部の銘柄に集中しており、今後、それ以外の出遅れ株に対して注目が集まり、それらが日経平均やTOPIXなど株価全体を押し上げる要因になる可能性は十分に考えられると思うのだ。

 今回の決算発表の中で、衝撃的だったのが、高配当銘柄として人気を集め、私も投資をしてきたあおぞら銀行(8304の決算発表翌日のストップ安。その翌日も大きく下げて、2日で3分の1ほど株価を下げた。株価が下がるだけでなく、大幅減配となった。新NISAが始まって人気の銘柄だけにSNSなどでも大きな話題となっていた。

 その理由は、高金利のままで動かないアメリカのの債券投資の評価損と、同じく不振が続く米国商業用不動産関連の融資に対する引当金の積み増しによるものだ。それ以外の業績は決して悪くないことと、今後の米国経済の流れによっては上振れ余地こそあるものの、3000円前後だった株価は2100〜2200円で売買されている。現在の配当利回りは減配もあったので3.5%ほど、決算発表でも将来の増配の可能性を示唆するなどもあり、安値なので私は売らずに買い増しした。それは、減配後の配当利回り3.5%というのが決して悪い数字ではないことと、2月1日発表の資料には、来期は増配を目指すと明記されていたことが理由の一つだ。まあ、あおぞら銀行は減配というが、これから払う配当に関して無配ということでもあるわけだから、無配状態が続く可能性もあることは、明記しておきたい。

◆なぜか下がっている銘柄に投資の妙味あり

 ここで思い出されるのは、やはり新NISAが始まり個人投資家から圧倒的な支持を集めているもうひとつの銘柄、JT(日本たばこ産業 2914)の過去の推移だ。JTは時価総額5000億円以上の銘柄の中では、今でも配当利回り4.8%と一位を維持しており、財務的にも問題がなく、投資家の圧倒的な支持を集めている。しかし、過去にJTは2016年ごろのピークを境に2020年7月末まで長期的に下げ続けた。最安値は1796.5円である。

 業績が特に悪かったわけでも、配当が低かったわけでもない。配当利回りは2019年ごろに7%を超えることもあったし、財務は健全で利益率も高かった。しかし、たばこには将来性がないとか、加熱式たばこへの移行が遅いとか、いま思うと、理解しがたい理由を評論家たちはつけていた。要するになんでここまで下がるのか分からなかったのである。その後、2020年、コロナのど真ん中の未曾有の金融緩和によって大量のマネーが株式市場に流れ込んできたことによって再評価され、株価は4000円目前まで上がってきた。2023年中頃までは6%台だった配当利回りは、5%を下回るところまできているが、それでも買われているのである。この株価上昇の流れの中で、減配ということもあったが、それでも長期的に大きく下げることはなかった。

 株式は上がることもあれば、下がることもある。それも、内部要因、外部要因さまざまな理由が一度トレンドを作ると、売りが売りを招き、買いが買いを呼ぶことも多々ある。

 あおぞら銀行だけでなく、他の日本の大手銀行も米国債券に投資したり、アメリカの商業用不動産に融資しているのだが、今回のあおぞら銀行のように、一気に計上するのではなく、他の利益にまぶして損益などを計上していくから、目立たないだけなのだ。

◆自動車関連銘柄に注目

 この決算時期の前後に、トヨタ自動車の不正問題が次々と明るみに出た。それも主力車に関わることもあり、報道された翌日は大きく下がるのかと思いきやほとんど下がらずにきた。これでトヨタグループは、ダイハツ日野自動車だけでなく、本体も不正をしていたことになる。しかし、株価が下がったのはトヨタグループで日野自動車だけだ。日野自動車はその株式の50%以上をトヨタ自動車が保有する完全子会社だ。不正問題が発覚した後、大きく値を下げ、主力車はライバルのいすゞにシェアを奪われ、無配ではあるものの、単元株100株を5万円以下で買える。同じトヨタグループでありながら、ここまで評価が低いのは、驚くほどだ。 

 自動車関連でいえば、日産自動車7201)にも注目している。ご存知のように2020年まではさまざまなトラブルや事件の渦中にあった。しかし、その後は着実な経営に戻しつつあり、先ごろ発表された第3四半期の営業利益は65%増にも関わらず、決算翌日には一時前日の株価と比べ11%以上も売り込まれ大暴落した。2月9日の終値は、前日から72円30銭下落して553円10銭である。100株が5万5000円ほどで手に入る。去年は9月20日に高値をつけており712円。そこから考えても、20%以上下がっているのだ。

 ここまで下がった理由について、通期販売台数を下方修正したことが影響したと言われる。しかし、売上高、営業利益、経常利益とも伸ばし、PERは5倍、PBRは0.4を下回っている割安株なのだ。さらに1株あたりの配当は15円で、配当利回りは2.7%あるのだが、1株当たり利益は100円を上回っており、配当性向は15%でしかない。他社に比べて非常に低い。つまり、増配余地が驚くほど残されている銘柄でもある。それも、中小型株ではない。ルノーと関係も深く、2030年までには欧州向け自家用車は全てEV車にする方針を出して、クルマ好きに言わせると、自動運転技術など技術力も折り紙付きの日本の自動車メーカーの中では、時代の流れのトップランナーでもある日産自動車なのである。

 それが、繰り返しになるが、決算で営業利益65%増を叩き出したにも関わらず、株価が11%以上も売り込まれた。売上高も大幅に増やし経常利益も42%もアップしているにも関わらずである。決算を丹念に読み込むと、最大の理由は中国の景気失速からの販売台数の落ち込みが最大の要因と思われる。大規模な投資によって未来への挑戦も続けている。しかし、これがキャシュフローの落ち込みになっているので、それが原因なのかもしれない。つまり、トヨタホンダが絶好調なのに比較しても日産がここまで下がっている合理的な理由はなかなか見つけられないのだ。私に言わせれば、売られているから売られるとしか言いようがない。

 自己資本比率は30%台と決して高くはないが、倒産の危機にある会社でもないことを考えると、ここまで下がった株価は中長期的には買われると判断し、私は投資を始めた。経営陣が企業価値を上げるためにも、現在の配当性向15%の配当をせめて25%くらいまであげ、増配すれば状況は一変するのではないかとも思う。実は先に書いた、日産の配当15円も5円増配しての結果なのだ。もしも、25円まで増配することになれば、日産自動車の配当利回りは5%ほどになる。高配当銘柄に注目が集まる今の流れの中で、単元株5万5000円前後という買いやすい株価もあって、その時になって初めて、投資家は、日産のクルマづくりの先進性に気がつくのではないかと思ってる。

※株式投資はご自分の判断と責任に基づいておこなってください。

<文/佐藤治彦 チャート/googleファイナンス

【佐藤治彦】
経済評論家、ジャーナリスト。1961年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、東京大学社会情報研究所教育部修了。JPモルガン、チェースマンハッタン銀行ではデリバティブを担当。その後、企業コンサルタント、放送作家などを経て現職。著書に『つみたてよりも個別株! 新NISAこの10銘柄を買いなさい!』、『年収300万~700万円 普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』、『しあわせとお金の距離について』、『安心・安全・確実な投資の教科書』など多数 twitter:@SatoHaruhiko