俳優の永山瑛太さん(41歳)が、全国公開中の映画『身代わり忠臣蔵』に出演しています。



 本作は、時代劇ヒットメーカー・土橋章宏著の同名小説の実写化で、日本中で愛される時代劇「忠臣蔵」をベースに“身代わり”という斬新なアイデアが加わった、痛快時代劇エンターテイメントです。


 永山さんが演じる大石内蔵助は赤穂藩筆頭家老ですが、史実とは異なり、吉良家に討ち入りに入りたい家臣たちの声に日々頭を悩ませている“腰抜け”という設定。永山さん自身、演じるキャラクターのバランス感覚について、試行錯誤をしたと言います。


 主演のムロツヨシさんとの20年ぶりの共演、事務所独立3年を経た“リーダー”としての想い、そして人気俳優として日々大切にしていることなど、ご本人に聞きました。


◆「どれくらい砕いていいのかな」と試行錯誤



© 2024「身代わり忠臣蔵」製作委員会



――永山瑛太(以下、永山):今回の『身代わり忠臣蔵』は、これまで日本中で愛された時代劇「忠臣蔵」をベースに“身代わり”という斬新なアイデアが加わった、土橋章宏さんの小説の映画化でした。


永山:これまで大先輩方が演じられてきた忠臣蔵ではありますが、今回に関しては史実はあまり意識せずに演じました。土橋さんが作り上げた大石内蔵助は、情けなさなどが相まって、これまでの作品の大石内蔵助と比べて、描かれ方がまったく違うんです。


その上で大石内蔵助は、(主人公・吉良孝証とその兄・吉良上野介を演じる)ムロツヨシ君が、どういう表現をしてくるかに全部ゆだねられている感じなんですよね(笑)。そこが今作の面白さでもあります。


――大石内蔵助は赤穂藩の腰抜け筆頭家老という設定で、幕府からの圧力と吉良家への討ち入りを求める家臣の声に日々頭を悩ませている状態ですよね。


永山:赤穂藩の筆頭家老なので本来、身分としては偉い人ですよね。武士として、時代背景もいろいろとあるとは思うのですが、今回そこをどういったバランスで崩していこうかという部分が、少し難しかったです。時代劇のお芝居の形式みたいなものを、どれくらい砕いていいのかなというのは試行錯誤しました。


◆「現場でムロ君が何をしてくるかわからなかった」



――その指針として、ムロさんの自由自在な演技に依るところも大きかったのでしょうか。


永山:そうですね。それぞれのシーンにおいてシリアスなのか、コメディ要素が入っているのか、なんとなく台本の時点でのイメージはありましたが、現場でムロ君が何をしてくるか分からなかったので(笑)。準備して行っても壊されるだろうなっていう気持ちもありましたが、どこかで揺るがない大石内蔵助としてもいなきゃいけないわけですよね。


一般に主役は基本的に受けで、周りの人が仕掛けるところがあるものですが、今回はその形式が全部取り払われて、かなり自由度の高い台本だったいます。そこがとても難しかったです。



――そのムロさんとは久しぶりの共演でした。思うところもありそうですね。


永山:ムロ君と『サマータイムマシン・ブルース』という映画で出会ってから、20年近く経っているんです。ムロ君とはこれまで違った道を歩いて来たのかもしれないけれど、久しぶりに共演して、その年月の短さと言いますか、刹那的なものを感じましたし、お互いにあっという間にこんなとこまで来てたんだなと。一瞬で駆け抜けてきたのかなと感じました。


あとは、ムロ君のコミカルさが、どこかはかない感じに映っているように感じて、とても素晴らしいなと思いました。役を演じて、感性に触れることを職業にしながら、ここまでやって来たんだなと。


◆家では父親だけど“絶対的な大黒柱”という感じではない



――大石内蔵助は家臣をまとめるリーダー的な存在ですが、ご自身はどういうタイプでしょうか?


永山:僕は俳優部に属しているので、リーダーという感覚にはならないんですよね。家の中では父親ですが、共働きなので僕は絶対的な家の大黒柱という感じでもないです。子どもは子どもでしっかりと意見を持っていて、子どもの意見でいろいろと変わることもあります。ピラミッドみたいな組織の図を考えがちですが、今の世の中はよりフラットで、上も下もなくなってきているんじゃないでしょうか。みんな個で存在しているような気がします。


僕自身、今まで偉い方にあまり出会う機会が少なかったのもあるかもしれません。アルバイトでスーパーの品出しをやっていたときも、店長さんに会ったことはなかったですし。大型スーパーだったので、バイトの面接で「ハイ!」と採用の方に返事しただけで、その方としか会っていません(笑)。


――リーダーと無縁だったということ?


永山:事務所にいたときは、社長がいらっしゃいましたね。


――20年間所属していた事務所を2021年3月に円満退社されて3年ほど経ちます。現在の個人事務所では、リーダー的な存在なのではないでしょうか?


永山:僕は会社を経営しています、という立ち位置ではなく、信頼している方にお任せをしていて、大きく変わったことはそこまでないんです。仕事に集中できる環境であればいいなと頼らせていただいています。


◆流されないようにする、受け入れたくないものは受け流す



――では、日々仕事をする上で大切にしていることはありますか?


永山:切り替えですかね。とあるシーンで、どういうアプローチをしようかと自分が準備していたとしても、監督の演出が違っていたら、そこで気持ちを切り替えないといけない。仕事をしてるともちろん、みんながみんな同じ感覚ではないですから。


なので、流されないようにする、受け入れたくないものはすぐに受け流す。この切り替えのスピードがけっこう大事だなと思います。


――今作のみならず出演作が途切れず続いていてお仕事は順調だと思いますが、その一方でご自身が思う今の課題や、克服したいこと、気にしてることはありますか?


永山:昨日、ちょうどひとつの作品が終わったので、今は次の作品の役のことを考えたりしていますね。そして、家に帰ったら父親に切り替わっています。


課題は、やはり健康でしょうか。体が健康であれば、精神的に思いっ切り崩れたり、周りのことで影響を受けたりするのを減らせる気がするんですよね。ネガティブなニュースなどでいやな気持ちになったりもしますが、基本的には最低限のことを捉えていけばよくて、深掘りしないことも大事だなと思います。


◆時代劇だけど、意外とライトに楽しめる作品



――最後になりますが、今回の『身代わり忠臣蔵』、どのように受け取ってほしいでしょうか?


永山:もともと幅広い層の方々に観てほしいという想いで作られた作品だと思いますし、そこで自分がどういう大石内蔵助をお見せ出来るかを大事にしました。


時代劇作品ではありますが、実際に見てみると意外とライトに楽しめる作品になっていると思います。ムロ君はドラマでも映画でもバラエティでも、いろいろなところで面白いことをやってくださいますが(笑)、今作ではムロ君の1人2役というところがとても面白いのでぜひ楽しんでいただきたいです。


観た後に普段の生活で難しいことを考えなくてもいい、気楽に生きてもいいのではという想いが伝わったらいいですかね。


<取材・文/トキタタカシ 撮影/鈴木大喜>


【トキタタカシ】映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。