牛丼チェーン「吉野家」の大阪市内の店舗で、紅ショウガ入りの容器に自分が使った箸を入れて口に運んだなどとして起訴された男性被告人に対して、大阪地裁は2月15日、執行猶予のない「実刑判決」を言い渡した。問われた罪は威力業務妨害・器物損壊だけでなく、大麻取締法違反もあった。

しかし、一部の報道機関が大麻取締法違反に触れていなかったことや、速報の見出しが「吉野家の紅ショウガ事件、男に実刑判決」などとされたことから、X上で「かなり重い」などの反応が起こり、その後「ミスリードだ」などと一時騒ぎとなった(その後修正)。

この被告人の公判は約9カ月にわたった。大麻を営利目的で栽培し、多量に所持したなどとされた大麻取締法違反の罪についての審理に大半が費やされ、懲役2年4カ月、罰金20万円(求刑:懲役3年6カ月、罰金20万円)の判決となった。その全容をレポートする。(裁判ライター:普通)

●紅ショウガだけではなかった

この事件は、紅ショウガを口に運ぶ様子の動画が拡散され、ニュースとなった。2023年5月11日の初公判は、報道用のカメラ撮影もあるなど社会的な関心の高さがうかがわれた。その際の罪名は器物損壊、威力業務妨害のみであった。

起訴内容は以下の通り。

2022年9月に大阪市内の吉野家において、容器に入った紅ショウガを自分の口に入れることで、709グラム、269円分の紅ショウガを汚損し(器物損壊罪)、動画が拡散されることで、店側に清潔な商品を提供できなくし、消毒対応など通常通りの業務を妨害した(威力業務妨害罪)とされた。

被告人は事実関係を認めた。

検察側の冒頭陳述などによると、被告人が知人を笑わせようと考えたのがきっかけだった。一緒に店に入った知人(威力業務妨害罪による略式命令で罰金30万円)がスマートフォンで撮影。インスタグラムのストーリーにその動画を投稿され、拡散したという。

初公判では、この「紅ショウガ事件」の証拠調べだけがおこなわれ、別の罪について追起訴があるという情報だけが明らかになった。次の公判まで約2カ月、実質的な審理は半年後だった。

時間を要したのは、追起訴された大麻取締法違反事件で被告人の所持量が200グラムを超える多量で、取り調べ等に多大な時間を費やしたためと公判の中で指摘されていた。

●自宅で大麻を栽培「使用目的だった」

追起訴された内容は以下の通り。

被告人は当時同居していた人物らと、自宅で照明器具などで照射しながら、8本の大麻草を営利目的で栽培し、206グラムの大麻を同じく営利目的で所持していたとされる。

被告人は、営利目的での栽培を認めたものの、200グラムの所持については「栽培時に間引いて捨てる予定のものだった」として、営利目的としての所持は否認。検察側は営利目的から単純所持に訴因変更した。

被告人質問では、大麻との関わりは紅ショウガ事件のおよそ2年前からだと述べた。後に栽培の共犯者となる男性とバーで出会い、「お酒を飲むような感じで誘われたのがきっかけ」だったという。

栽培について、種から育てて自分で使いたいと考え、専用の器具を購入し、光を当てたり、肥料を与えたりしたという。いいものが出来たら売るかもしれないとは思っていたものの、基本的には自分たちでの使用目的だったなどと供述した。

●「紅ショウガ事件は飲酒の影響」と供述

紅ショウガ事件については被告人質問で「深夜まで知人(動画撮影者)のバーで飲酒をしており、彼を笑わせたいという思いでおこなった。アルコールの影響で過去にもカバンをなくすなどしたことがあり、事件当時のことも、はっきりとは覚えていない」と供述した。

検察官に店への被害や影響についての考えを問われた際には、「売上に対する影響はあったと思う」などと供述し、店舗が清掃や休業に追い込まれた可能性にも言及した。

判決の量刑理由で高橋里奈裁判官は、大麻事件と合わせ「異種の罪とはいえ服役してから2年半で犯行に及んでおり、規範意識が低く身勝手で悪質」と厳しく断じた。服役中はアルコールの改善プログラムを受けるなどし、自身の問題に向き合うと述べた被告人。裁判官は最後に「しっかり立ち直ってください」と声をかけた。

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