オーストラリアには恐竜時代から生き延びてきた、”生きる化石”のような巨樹が存在する。その常緑樹はウォレミア(Wollemia)で、「ジュラシックツリー」と呼ばれている。
この古代樹は約9100万年前に繁栄し、200万年前に絶滅したと考えられていたが、1994年、ニューサウスウェールズ州のブルーマンテンズで、国立公園のレンジャーが偶然発見した。
だが生き残りは90本しかなく、まさに絶滅寸前だった。
以来植物の専門家たちは、世紀の発見となった希少な古代樹をどうにか救い、再び繁栄させようと、秘密の場所で植樹するなど全力を尽くしている。
【画像】 200万年前に絶滅したと思われていた古代樹を偶然発見
「ジュラシックツリー」の愛称で知られる「ウォレミア(Wollemia)」は、ナンヨウスギ科の針葉樹で、まだ恐竜が地上を支配していた9100万年前から生き残ってきた古代樹だ。
200万年前に絶滅したものと考えられてきたが、1994年にニューサウスウェールズ州ウォレマイ国立公園の熱帯雨林で公園のレンジャーにより偶然発見された。
残されていたジュラシックツリーは90本にも満たず、ほとんど絶滅寸前だった。
それから30年にわたりニューサウスウェールズ国立公園野生生物局(NPWS)の専門家たちが、この古代樹の保護に取り組んできた。
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ジュラシックツリーの数は、何かあれば絶滅する恐れがあるくらいにまで減っている。そこでNPWSの保全チームは、この木を守るため、3つの秘密の場所に木を植えて育てている。
再び繁栄することを夢見て再生プロジェクトに取り組む専門家たち
2019年に作られた移転地の1つでは、300本以上のジュラシックツリーが戦略的に植えられている。
樹皮の質感が独特なジュラシックツリーは、どれもまだかなり小さく、高さは30cmから2mくらいのものしかない。
ジュラシックツリーの苗木は、1年に1cmも成長しません。成木になるのは、熱帯雨林の樹冠にまで伸び、日光を浴びられるようになってからです
と、研究者のベリン・マッケンジー氏は語る。
ジュラシックツリーは20~40mにも達するので、それまで何十年とかかることになる。
これまで30年に渡りジュラシックツーを育ててきた保全チームでさえ、苗木が成木になるところを目にしていないくらい、その成長はのんびりとしたものだ。
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移転地では、ゆっくりとしか成長しないジュラシックツリーをさまざまな場所に植え、一番育ちやすい条件が調べられている。
だがその場所は秘密で、関係者以外誰も知らない。
またそこに無許可で立ち入れば、生物多様性保全法に基づき、最高5000万円近い罰金や、2年の懲役刑が科されることもある。
1994年に発見されたブルーマウンテンズにあるジュラシックツリーの森/ / image credit:Supplied: Jaime Plaza Van Roon/RBGDT
ジュラシックツリーに迫る意外な危険
それどころか保全チーム自身も、移転地への立ち入りを最小限に抑えている。そこへ行くのはどうしても必要なときだけで、その場合でも厳しく定められた手順に則らねばならない。
木のそばを歩くなら、衣服や靴、道具にいたるまで徹底的に洗浄する。というのも、万が一病気をうつしてしまうと、大変なことになってしまうからだ。
「私たちが抱えている最大のリスクの1つは、人々がそこを訪れることです」と、ニューサウスウェールズ州のペニー・シャープ環境相は語る。
野生のジュラシックツリーが生き残れるかどうかは、病原菌から守れるかにかかっている。
例えば、30年前に発見されたジュラシックツリーの森の一部は、疫病菌(フィトフトラ)に感染していた。
この菌による根腐れ病は治療法がなく、やがて樹木を枯らしてしまう。そしてそれを持ち込んだのが、無断で侵入した訪問者だと考えられるのだ。
「近寄っても特に問題はないと思うかもしれません。ですが、疫病菌は肉眼では見えず、これに感染した土が1g持ち込まれただけで、一巻の終わりなのです」と、マッケンジー氏は話す。
だからこそ保全チームは、人々の立ち入りを過敏なほど警戒している。それは科学者にとって悩ましいジレンマだ。
「いろいろな人が携わり、その意義と科学的重要性を理解してもらうことは、とても大切なことです。ですが、疫病菌が持ち込まれる危険が高く、植物に致命的なダメージを与える恐れがあります」と、NPWSブルー・マウンテンズ支局長デイブ・クウスト氏は話す。
40mもの巨木に成長するには何十年もの時間がかかる / image credit:Supplied: Jaime Plaza Van Roon/RBGDT
山火事や気候変動の危険も
2019年、山火事によって移転先のジュラシックツリーがほぼ全滅するという事件が起きた。
30年前に発見されたジュラシックツリーの多くが無事だったため、最悪の事態は免れたが、一歩間違えれば取り返しのつかないことになっていた可能性だってあった。
私の残りのキャリアを費やしても、ジュラシックツリーを最後まで見届けることはできません。だって私たちが関わるのは、この木にとって一生のうちのほんの短い間だけのことですから
と、NPWSのリサ・メンケ氏は語る。
だから、メンケ氏らは、こうした火災の経験や培われた知識を、ほかのチームに伝えようとしている。
2019年には山火事に見舞われるという苦難に直面した / image credit:Supplied: Jaime Plaza Van Roon/RBGDT
これほどまでに貴重な木だが、意外にもジュラシックツリーの苗木は世界中の植物園に出荷され、お店で買うこともできる。これは人々が大切な野生の木に近づくこと防ぐための工夫だ。
「この木は絶滅寸前のところを発見されました。私たちはその木を守るというまさに貴重なチャンスを与えられたわけです」と、マッケンジー氏は言う。
「それがみんなを突き動かしているのでしょう。それは私たちよりもずっと大きな存在なのです」
追記:(2024/02/15)本文を一部訂正して再送します。
References:Dinosaur Evergreens Thought Extinct for 2Mil Years Discovered by Park Ranger–the Grove is the ‘Find of the Century’ / The Wollemi Pine was long thought extinct. Now experts are trying to regrow the tree in top secret locations - ABC News / written by hiroching / edited by / parumo
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