国鉄型185系は、2024年現在も臨時特急として運行されています。43年間に渡る活躍は、国鉄→JRでは最長といえるでしょう。どんな車両なのか、歴史を振り返ります。

117系になっていたかも……

JR東日本が2024年1月に発表した春の臨時列車の運行概要では、すでに定期運用を終えた185系電車が、特急「185(いっぱーご)」「峠の横川ナイトパーク号」「谷川岳もぐら」「谷川岳ループ」としてまだまだ走ることが発表され、再び話題を呼びました。

1981(昭和56)年の国鉄時代に登場した特急形電車が、登場から43年を経ても格下げされずに走り続けていることは驚くべきことです。185系とはどのような車両なのでしょうか。

185系が投入される以前、東海道本線では2扉でボックスシートの急行形153系電車が、急行列車普通列車として走っていました。

1980(昭和55)年、国鉄は153系の急行「伊豆」や普通列車を置き換える新型車両を検討します。153系と同じく、新型車両は「通勤用としても使える」ことが求められました。このためデッキなしの2扉転換式クロスシートを採用することが検討されます。当時、同様の接客設備を備えたキハ66系気動車が、急行「日田」などで運行されており、急行列車としても問題がないと考えられたのです。

しかし、デッキを設けないことでの居住性低下は問題があると考えられるようになり、側扉を特急形の700mmから1000mmに拡大したうえで、デッキを設けることとなりました。

元の構想が実現していたなら、関西の新快速で使われた117系とほぼ同じ電車が、関東では「急行」として走ったことになります。ただそうならなかったためか、急行「伊豆」は特急に格上げされ、185系は特急用となりました。とはいえ急行用として計画された車両ですから、特急形電車で一般的だった浮き床構造や2層固定窓は採用されませんでした。

初運用は普通列車

185系は「アコモデーションの刷新を図る」ことを命題とし、外観は白に緑のストライプという斬新な塗装に。車内は普通車の側壁がコルクモザイク模様、グリーン車が茶色とベージュの革紋模様で、デッキには自動ドアが採用され、ややドライな国鉄特急形とは一線を画した明るい内装となりました。

普通車の座席は転換式クロスシートであり、座席自体が新快速117系と同じ。シートピッチ910mmも同じだったため、登場時から話題を呼びました。グリーン車は国鉄標準の座席で、シートピッチ1160mm。ただ、急行形と同じ座席のため、特急形だからという優位性はありませんでした。なお側窓は開閉式で、横引きカーテンだけだと風でまくれる可能性があるため、巻き上げカーテンが併設されました。

筆者(安藤昌季:乗りものライター)は登場直後の185系に乗車したことがありますが、斬新な内外装と、座り心地のいい転換式クロスシートに感激し、決して既存の特急形より格下だとは思いませんでした。ひとつ、側窓でガタつき音を発することだけは残念でした。現在は改善されています。

185系の初運用は普通列車でした。ただラッシュに対応するには2扉デッキ付きでは乗降に問題があり、普通運用は減ります。153系と併結し、急行「伊豆」として運用されたこともありましたが、急行運用は7か月で終了し、以後は格上げされた特急「踊り子」として使用されます。

伊豆方面に続いて、国鉄は高崎線の急行形165系電車を置き換えるために、耐寒耐雪装備や、横川~軽井沢間の勾配に対応した185系200番台を導入します。高崎方面でも当初は急行「ゆけむり」「草津」「軽井沢」に使われました。これらもほどなくして特急に格上げされます。

回転式リクライニングシートは普通車にも

200番台が導入されたのと同じ1982(昭和57)年、東北新幹線が大宮~盛岡間で、上越新幹線が大宮~新潟間で開業します。この際に上野~大宮間の「新幹線リレー号」用としても200番台は導入され、数を増やします。

1985(昭和60)年に東北・上越新幹線上野駅まで延伸されると、200番台は自由席主体で定期券でも乗車でき、50km以下では急行料金と同額の「新特急」用として広く使われます。これは、伊豆方面で、すでに特急として走っていたため急行にはできなかったことと、「特急を停車させてほしい」という沿線の要望に応えたものでした。

なお、一部の200番台は伊豆方面にも転属し、183系電車で運行されていた「踊り子」を置き換えて、車種を185系に統一しました。

その後、185系は「湘南ライナー」などの通勤ライナーや「シュプール号」などのスキー列車、新幹線と接続する「信州リレー号」「軽井沢リレー号」などでも運用されます。さらにパンタグラフを交換して、中央本線の臨時特急「かいじ」「はまかいじ」でも使われました。

その一方で、接客設備をほかの特急並みに改めるべく改良が行われました。1993(平成5)年よりグリーン車の洋式便所化、1995(平成7)年より3年かけて、200番台の普通車を回転式リクライニングシートに変更しました。200番台リニューアル車は、上毛三山をモチーフとして「黄色/グレー/赤」のブロックパターンとした新塗装となりました。

残る185系1988(平成10)年より、グリーン車がバケットタイプの新座席へ交換され、1999(平成11)年からは普通車も回転式リクライニングシートに交換されました。

晩年は「ムーンライトながら」に抜擢!

そして2010(平成22)年、特急「草津」の誕生から50周年を記念して、1編成が80系電車をモチーフとした湘南色となりました。さらに2012(平成24)年、1編成が157系電車をモチーフとして、国鉄特急色となりました。特急用ではない車両として計画され、側窓も開閉する157系185系は、類似性を認められていたのです。

そのような185系は、2013(平成25)年より廃車が始まります。その一方、東京~大垣間の夜行臨時快速「ムーンライトながら」として運行が始まり、JR東海区間へ大きく乗り入れます。それまでは熱海~三島間のみでした。

しかし翌年には普通列車の運用がなくなり、高崎線系統の特急が651系電車に置き換えられると、185系の廃車が進みました。

2021年、特急「踊り子」が中央本線から転属したE257系電車に置き換えられ、通勤ライナーも廃止のうえ特急「湘南」となったことで、185系の定期運用は消滅しました。その後は各地の臨時特急や団体列車として、走り続けています。

「普通列車」としても運用された特急形185系電車(安藤昌季撮影)。