2022年6月に施行された「AV出演被害防止・救済法」(AV新法)。2024年6月の法の見直しが迫るなか、現役のAV監督であり作家としても活動する二村ヒトシ氏が「AV産業の適正化を考える会」を発足。「業界を崩壊の危機から救いたい」というセクシー女優やスタッフなどの業界関係者たちが、2月9日より全国の9都道府県にて署名活動を開始した。

 初日となる2月9日は、渋谷の駅前で署名活動が行われた。「一度でもAVを見たことがある方は、署名をお願いします!」と、発起人の二村ヒトシ氏や会に協力するAVメーカー・SODクリエイトのスタッフたちが声を張りあげるなか、デビューから13年目を迎えた現役セクシー女優である佐々木咲和さんも、行き交う人たちにオンライン署名のQRコードが入ったティッシュを配りながら懸命に語り掛けていた。

 記者が佐々木咲和さんに声を掛けたところ、活動の最中にもかかわらず、快くインタビューに応じてくれた。

◆どんなに「お仕事ください」と叫んでも限界がある

――佐々木さんは今年でデビュー13年のベテラン女優ですね。まさにAV業界の移り変わりを、その目で見てきたということでしょうか。

「正確に言えば結婚をして4年ほど業界を離れていた時期があったのですが、相手が業界関係者だったため、その間も常に状況は把握していました。復帰をしたのはAV新法が施行される前の2019年ですし、ずっと間近で遍歴を見てきたといっていいと思います」

――今回の署名運動に参加された理由を教えてもらえますか?

「AV新法の施行後、実際に仕事が減っていて厳しい状況です。どんなに『お仕事ください』と言っても、撮ることのできるメーカーも仕事をくれるマネージャーも数が限られているんですよ。そんなところで『仕事クレクレ』なんて言っているよりも、自分からもっと動くべきだなと。だから、今回の署名運動のお話を聞いた時に、ぜひやらせてもらいたいと思ったんです」

◆「来月は仕事がない」が確定しているのはツラい

――AV新法の施行によってもたらされた弊害を具体的に聞かせてください。

「やはり出演するにあたっての熟慮期間が設けられたことが大きいです。出演契約を締結してから撮影まで1ヶ月あけるようになったので、他の女優の代役ができなくなりました。これまでは、1ヶ月前にスケジュールが空いていたとしても、数週間・数日前に事情があってその日撮れなくなった女優の代わりとか、突発的な仕事が入ってくることも多かったんです。でも1ヶ月前の時点で『もう来月は全く仕事がない』って確定してしまうことは、実はかなりメンタルにくるんですよ。本当にキツい。モチベーションが保ちづらい状態になります。

 さらに『撮影から公表するまで4ヶ月あけなければならない』という設定がある以上、売れているかどうかの結果がすぐには出ないので、次の仕事に繋がりづらいんですよ。4ヶ月経ってようやく発売されて、そこからまた別のメーカーに撮ってもらえるかどうかを待てる女優はそんなに多くないと思います。それに、せっかく撮った作品を早くファンの方に見て欲しい、でもSNSで『今日、撮ってきたよ』の報告を兼ねた宣伝もできない。自分が忘れられてしまうような怖さもありますね」

――周囲にはこの法律の影響で廃業をした女優さんもいるのでしょうか?

「いっぱいいます。ただ、私もAV新法がすべて悪いと思っているわけではないんです。新人の女優さんなんかは、出演する・しないをじっくり考える時間があった方がいいでしょうし。でも、私のように長いこと業界で働いている女優については、その辺りを考慮してもらって、期間を短縮できるようになれば、すごくありがたいと思っています」

◆目的はあくまで「AV業界を良くする」の一点

 二村ヒトシ氏は「AV産業の適正化を考える会」の発足理由を「AV新法について、業界の実情に耳を傾けることなく法制化に突き進んだことに対して、業界内の人間として違和感があった」と語る。

 目的はあくまでも「AV業界を良くする」、この一点を達成すること。そのためにも、「法律『AV出演被害防止・救済法』の名称・目的の改正」「熟慮期間の柔軟化」「出演者の地位向上、人権保護のための業界の実態調査の実施」の3つの改定案を提唱し、同会は署名活動を行っていくとか。

 9日の街頭署名では100名、10日(秋葉原)は341名の署名が集まった。これから3月10日まで全国各地で活動が行われる予定だ。ティッシュに記載されたQRコードでの署名を含むオンラインでは、9日に441筆、10日787筆が集まっている。今後は10万筆を目標としているという。

<取材・文・撮影/もちづき千代子>

佐々木咲和さん(左)と二村ヒトシ氏