こんにちは、恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラーの堺屋大地です。


 筆者はLINE公式のチャットサービスにて、年間約1000件のペースで恋愛相談を受けています。また知人経由で対面の相談を受けることも多く、性別・年齢問わずさまざまな方の恋のお悩みをうかがってきました。


 さて、1月22日開催の「第56回ミス日本コンテスト2024」でグランプリを受賞したものの、「週刊文春」で医師の既婚男性と3年にもおよぶ不倫関係を報じられ、「ミス日本」を辞退した椎野カロリーナさん。


 しかし、この問題は彼女にとっては「ミス日本」辞退以上の痛恨の悲劇をはらんでいるように感じます。


◆両親ともにウクライナ人、昨年に帰化したことを報告




 今年の「ミス日本」は“空位”となることが発表されていますが、この一連の騒動でカロリーナさんが訴えていた人種の壁問題などに対する価値観のアップデートが、一歩後退することになりかねないのです。


 両親ともにウクライナ人で、5歳の頃に日本に移り住み、昨年、日本に帰化したことを報告していたカロリーナさん。帰化した女性がグランプリを受賞したのは初でした。


 近年、日本国籍を取得したばかりの彼女が「ミス日本」にふさわしいのかどうかという、“日本人のアイデンティティ”をめぐる議論は、不倫報道が出る前から交わされていましたが、それは織り込み済だったことでしょう。


◆グランプリ受賞前後に彼女が切に訴えていたこと
 なぜならカロリーナさんは、昨年12月に行われた「第56回ミス日本コンテスト2024」開催告知の発表会で、次のようなコメントしていたからです。


「私は外国人に見られますが日本人として育ったため、見た目と心のギャップに悩まされてきました。中身が日本人だと伝えてもなかなか受け入れてもらえないことも多くありました」


現代社会は多様性を受け入れる風潮がありますが、今でもまだ人との違いで悩んでいる方、苦しんでいる方は多くいらっしゃいます」


「私の活動や発信を通して、人との違い、悩みを持つ子どもたちや、私と同じように海外にルーツを持つ方々の励みになりたいと思い、『ミス日本』にエントリーさせていただきました


 また、今年1月のグランプリ受賞時には次のようなコメントも。


「ずっと日本人として生きてきましたが人種の壁があると感じることもありました。今回、日本人として認めていただいたような気がします」


「多様性を認めたり、人を見た目で判断しない社会づくりに貢献したいという気持ちが強くなりました」


 このようにカロリーナさんは見た目で判断されてしまう人種の壁の問題や、多様性が認められる社会づくりに向き合っていきたいというモチベーションを持っていたことが伺えます。


◆「帰化した女性」「不倫した女性」は別問題
 つまりカロリーナさんは、自分が「ミス日本」グランプリを獲ることでこれらの問題の議論が活発になり、日本の価値観のアップデートの一助になればと望んでいたはず。けれど不倫スキャンダルが起こったことで、一歩前進どころか、一歩後退してしまう可能性もあるでしょう。


 というのも、今後「ミス日本」の大会委員は、どんなに素晴らしい“日本人らしさ”のある帰化した女性がいても、今回のカロリーナさんの一連の騒動があったため、その人をグランプリに選出しにくくなるという懸念がおおいにあるからです。


 カロリーナさんが「帰化した女性」であることと、「不倫した女性」であることは完全に別問題であり、彼女が受賞辞退をしたのは後者の要素が理由です。


 しかし、この2つの論点をごっちゃにして語る人が出てくることは想像に難くなく、もしまた帰化した女性をグランプリにしようものなら、「また同じ過ちを繰り返すのか!」と非難の声があがる可能性は否めません。


 そうなると「ミス日本」大会委員は、日本国籍を持っていても海外にルーツのある女性などをグランプリに選びにくくなるという、旧態依然とした“日本人らしさ”のフィルターがかかった状態で選考しなくてはいけなくなるのではないでしょうか。


◆日本のアップデートに水を差すことに…皮肉な状況
 繰り返しますが「帰化した女性」ということと「不倫した女性」ということは、別問題として切り離して考えるべきで、仮にまた帰化した女性が受賞しても“同じ過ち”でもなんでもないのですが、そういったバッシングが飛び交うことが予想されます。


 となると、やはり「ミス日本」の大会委員は、今後しばらくは海外にルーツを持つ女性をグランプリにすることが難しく、少なくてもここから何年かは選出しないでしょう。


 カロリーナさんは人種差別の意識改善やダイバーシティの考え方が社会に浸透していくことを願い、一方の「ミス日本」大会委員は旧来の“日本人らしさ”にとらわれず、新しい価値観を提示しようとしていたはず。


 けれど、一石を投じたつもりが、結果的に日本のアップデートに水を差すことになってしまったという皮肉な状況になっているように感じます。カロリーナさんにしてみれば、それはもうひとつの悲劇とも言えるでしょう。


――不倫スキャンダルで「ミス日本」グランプリ受賞が“なかったこと”になるのは致し方ないかもしれません。ですが、彼女が訴えていたことは“なかったこと”にせず、私たちはその問題提起に真摯に向き合っていくべきなのではないでしょうか。


【堺屋大地】恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。現在は『現代ビジネス』、『smartFLASH』、『文春オンライン』、『集英社オンライン』などにコラムを寄稿。LINE公式サービスにて、カウンセラーとして年間で約1500件の相談を受けている。Twitter(@SakaiyaDaichi)。



ミス日本コンテスト公式「X」より