家電量販店の「ヤマダデンキ」などを展開するヤマダホールディングス(以下、ヤマダHD)は、他社とは一線を画す女性活躍推進施策を打っている。こうした取り組みを主導するのは、レジ打ち出身で同社初の女性取締役に就任した小暮めぐ美氏。同氏は過去の失敗を元に、女性が働きやすい環境の構築を目指しているという。どのような考え方で施策を立てているのか小暮氏に話を聞いた。

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シリーズ「女性リーダーが描く新時代」ラインアップ
こんな時代だからこそ躊躇なく、女性登用成功の鍵は「無理やりでもやる」こと
森トラスト・伊達社長が語る、女性役員比率が高まらない「根本的な理由」
マネックス松本氏が断言、日本企業に女性リーダーを増やす単純明快な方法とは

「わきまえない」が最強の武器?SWCC長谷川社長が明かす女性活躍企業のヒミツ
人事院総裁・川本裕子氏に聞く、国家公務員「女性活躍」の現在地
同志社大・植木学長「女性もアンコンシャス・バイアスから解放されるべき」
「仕組み」で管理職へのステップを後押し、イオン流「女性リーダー」の育て方
「予想外の実態」を改善、アフラックの女性活躍推進施策が奏功した大きな理由
■ヤマダの気づきと方向転換、「ある施策」をやめたら女性管理職が増えたワケ(本稿)


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「数値目標ありき」ではうまくいかない

──小暮さんは2018年に取締役人材開発室長に就任し「女性の管理職比率引き上げ」に奔走されました。しかしその取り組みは失敗し、現在は別のアプローチを取ることで結果的に女性が管理職に就任するようになったとのことですが、これまでの経緯を教えてください。

小暮めぐ美氏(以下敬称略) 2018年当時は無理やり女性管理職をつくろうとしたのが失敗でした。現場の販売員を含め、次に管理職になれそうな社員を集め、研修などを実施しました。けれども結果的には「管理職にならされた」と考える女性が多く、早期に管理職から降りたいと申告する方が多く出てしまいました。本人たちに無理をさせてしまったことはもちろん、現場にも迷惑をかけたと思います。

 その時に気づいたのは「女性管理職のロールモデルをつくると女性管理職が次々に誕生する」という理想論は現実的ではない、という事実です。結局、管理職だけに負担がいくような仕事現場では、誰も管理職を目指したがらないと実感したのです。

 そこで「性別に関係なく、誰もが働きやすい職場を整備できれば、自然と女性管理職も生まれるだろう」と発想を転換させました。2021年から本格的に職場環境の改善に着手しました。まずは社員の本音を聞くべく、これまで内部で実施していた従業員満足度調査を外部のプロに依頼することにしました。あがってきた意見で多かったのは「残業が多い」「休みが取りづらい」というもの。長時間労働が常態化する小売業でよくある悩みでした。

 こうした意見を受け、店舗運営のあり方を含めて残業時間削減の方法を検討し、連続休日取得可能な日数も3日から7日へ延長するなど、働き方の抜本的な改革に取り組みました。その結果、残業時間は大幅に減りました。こうした社員の負担を減らす取り組みが奏功し、2019年3月期に129人だった女性管理職は2023年3月期現在、194人まで増えました。

──「女性管理職の比率〇〇%を目指します」というような数字ありきの目標の立て方ではうまくいかない、ということですね。

小暮 会社の数値目標達成のために管理職になることを命じられるのは女性にとっても不幸だと思います。創業者の山田昇もよく「自分の生活が一番大事。その生活をできるだけ充実したものにするために、仕事をしているんだよ」と社員に話しています。当社では社員一人ひとりに自分の生活を大事にして欲しいからこそ、職場環境と働き方の改善に取り組んでいるのです。

 例えばヤマダデンキでは出産・育児期間中の女性にもできるだけ仕事を続けてもらうため、子供が小学校6年生になるまで時短勤務を認めています。他の会社では小学校3年生までしか認めていないところが多いのではないかと思います。男性社員の育休取得にも力を入れていて、2019年3月期に取得者が0.2%だったのが、2023年には12%まで増えました。

「女性の管理職比率」はあくまでも目安でしかないと私は思います。それよりも、社員にとって働きやすい会社をつくることができれば、自然と女性も管理職になっていくのではないでしょうか。

──小暮さんご自身は現場のレジ打ちとしてキャリアをスタートし、ヤマダHDで初の女性取締役まで上り詰めました。キャリアアップしたい、という思いはずっとあったのですか?

小暮 出産を機に、一度退職を考えました。当時は子どもができたら退職するものだ、という空気が当たり前のように存在しましたから。ただ、仕事も面白くなってきたところでしたし、ここで辞めるのはもったいないかなとも思い、仕事を続けることにしました。

 特にキャリアアップしたいと強く思っていたわけではなく、私自身は転がってきたチャンスに対して前向きに取り組んだことが良かったのかなと思います。

 最近の若い社員は性別に関わらず、自分で自分の限界を決めてしまいがちな傾向がありますが、こうした態度が成長の妨げになってしまいます。過剰な完璧主義は自分で自分の首を絞めるだけです。会社で仕事の最終的な責任を負うのは経営陣ですから、若い社員の皆さんはもう少しのびのびとした気持ちで、やりたいと思ったことにチャレンジしてみると良いのではないでしょうか。

──女性管理職の登用に関して悩んでいる人事担当者は多いようです。どんなアドバイスをかけますか。

小暮 社員の本音に向き合うことと、経営層のリーダーシップを引き出すことが重要だと思います。先ほどもお話ししましたが、われわれが職場環境の改善に乗り出した時、最初に活用したのが外部の人材コンサルタントでした。社内の人間が主導してアンケート調査を行うと本音が出てこない可能性が高いものです。改革に必要なシビアな視点を得るためにも、外の目を取り入れるのが健全だと思います。

 アンケート調査はグループ企業の社員全員に対して行っていて、開始当初は回答率92%だったのが現在は98%にまで向上しました。社員の立場からすると、自分が明かした本音に対して、会社が本気になって改善してくれる、という信頼感があれば自ずと回答率が上がっていくものなのでしょう。

 また、女性が活躍できる会社にしていくためには、経営陣の理解が不可欠です。当社では会長の山田が日常的に現場に降りてきて、社員と接しています。当然、女性管理職比率の目標といった具体的な話も、経営層の議論の俎上には上がっています。結局、職場のあり方を大きく変えるには、人事部の孤軍奮闘では困難なのです。

 では、人事部ができることは何か。それは、会社の現実を冷徹に観察し、経営陣に報告すること。そして経営陣に女性リーダー登用がいかに必要かを分かってもらうことでしょう。

 企業社会はこれまで男性中心に動いてきました。長年続いた慣習を一夜にして変えるハードルはとても高いものです。まずは現場を改善し、女性に「管理職になってもいいな」と思ってもらえるような環境をつくることが先決だと思います。

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ヤマダホールディングス 代表取締役兼専務執行役員の小暮めぐ美氏(撮影:酒井俊春)