不確実性が高まるなか、未来予測に基づくビジネスがますます困難を極める現在。一方で、世界は地球温暖化や人口問題、エネルギー問題、国際秩序の変容といったさまざまな難題に直面しており、そこには間違いなく未来を拓く「商機」が潜んでいる。本連載では『グローバル メガトレンド10――社会課題にビジネスチャンスを探る105の視点』(岸本義之著/BOW&PARTNERS発行)から、内容の一部を抜粋・再編集。起業や新規事業の創出につながる洞察を得るべく、社会課題の現状を俯瞰・分析する。
第2回目は、地球温暖化対策としての「カーボンニュートラル(脱炭素)」の現状と各国自動車メーカーの対応に焦点を当てる。
<連載ラインアップ>
■第1回 なぜ「未来予測」は当たらないのか? 「メガトレンド」と社会課題の関係
■第2回 日本が連続受賞した「化石賞」とは? 脱炭素社会の実現に向けた世界の動き(本稿)
■第3回 水素、アンモニアは脱炭素の切り札になるか? 経産省も期待する新技術とは?
■第4回 2058年に世界人口は100億人へ、「一足飛び」の成長が期待できる有望市場は?
■第5回 サントリー、JTなどの海外企業の買収で考える「経営のグローバル化」とは?
■第6回 「アメリカ側」vs.「中国側」の先へ・・・世界が向かう「多極化」とは?
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二酸化炭素は減らせるのか
■火力発電への風当たりは強まっている
温室効果ガスを減らすにはどうしたらいいのでしょうか。多くの政府が協調して規制をかけようという動きがあります。
その中で規制をかけやすそうなのが火力発電と見られています。自動車や住居、工業生産などに規制をかけても、企業や個人が全てその規制に従うようになるには相当の年月がかかります。
一方、電力会社の数は比較的限られていますし、もともと政府の規制を受けているので、火力発電への規制は比較的早く効果を表すのではないかと、環境活動家たちは期待しているようです。
化石燃料の中でも石炭火力発電は二酸化炭素の排出量が最も高い(相対的に低いのは天然ガス火力発電)ので、風当たりがかなり強まっています。中国などは石炭火力発電量が多いのですが、日本も石炭火力発電の比率が高くなっているので、批判がかなり強まっています。
2022年の気候変動枠組条約締約国会議(COP27)で、気候行動ネットワークという環境活動家団体が、日本に3年連続の「化石賞」を贈ったというニュースがありました。
その理由は、日本が化石燃料に対する世界最大の公的資金を拠出している国だからということでした。これは日本で2011年の福島第一原発事故以降に原子力発電が停止状態になった分を火力発電で補わざるを得なかったという事情があるからなのですが、環境活動家はそんな事情などは考慮してくれません。
■カーボンニュートラルの表明国が増えている
その日本で、2020年10月、菅義偉首相(当時)が所信表明演説で「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」と述べました。
カーボンニュートラルとは「排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする」ことを意味しています。排出した分と同じ量を「吸収」または「除去」することで差し引きゼロ、つまり「ニュートラル(中立)」を目指すというものです。「吸収」のためには植林などが可能ですし、「除去」のためには二酸化炭素を回収して貯留する「CCS」という技術が注目されています。
2019年の気候変動枠組条約締約国会議(COP25)の時点では、カーボンニュートラルを表明している主要国はEUとカナダのみでしたが、2021年のCOP26までに、日本の他に中国もアメリカも、そしてG20(主要20か国の国際会議)メンバーの全ての国がカーボンニュートラル目標を表明しました。
カーボンニュートラルは、国レベルだけでなく、企業レベルでも目標に掲げているところがあります。二酸化炭素の排出量の多い業界の企業では、「排出権取引」という手法も用いてこの目標の達成を目指そうとしています。これは排出量を削減した企業が、その一部を「排出権」として他社に売却してお金を得るという取引です。
排出量削減が難しい産業の場合は、お金を払って他社から排出量の削減分を買い取って、自社の排出量削減にカウントするのです。ここまでしないと、今の国際世論の高まりにこたえることができなくなってきているということです。
■自動車メーカーは電動化に踏み切る
第2章の輸送・輸送用機器業界のところでも少し述べましたが、自動車メーカーの多くは電気自動車へのシフトを明言しています。
欧州連合(EU)の欧州委員会が、2021年7月に、乗用車や小型商用車の新車によるCO2排出量を2035年までにゼロにするという規制案を発表するなど、ガソリンエンジンに対する規制が強まっていることが背景にあるのですが、ヨーロッパの自動車メーカーの多くは、ガソリンエンジンの新車発売を2035年より早めに終了するという目標を発表しています。
一方、日本では経済産業省が比較的保守的な態度をとってきました。2018年に有識者による自動車新時代戦略会議がまとめた内容によると、2030年には従来のエンジン車(ガソリン車、ディーゼル車)が市場全体の30~50%、残りの50~70%が次世代車という目標でした。
しかし2021年1月、菅義偉首相(当時)が施政方針演説で「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」と述べました。ただし、この場合の電動車にはハイブリッド車が含まれています(一方、欧州委員会の規制案ではハイブリッド車はエンジン車の側に分類されます)。
日本の場合、自動車及び自動車部品メーカーによる雇用が非常に多いため、エンジン車を完全禁止してしまうと、大量の失業者が出てしまうのではないかという危惧があります。日本最大の自動車メーカーであるトヨタも、エンジン車の販売終了の時期などに関しては一切明言していませんし、むしろ電気自動車以外の技術開発に対して熱心な発言をしています。
例えばトヨタは水素を用いた燃料電池車の開発に注力していることをアピールしていますし、経済産業省も水素エネルギーの普及に熱心です。こうした姿勢が影響しているせいか、日本での電気自動車の販売は伸び悩み、そのために給電ステーションの数も伸び悩むという現象が起きています。
トヨタの場合は、電気自動車以外にも、大きな投資をする資金的な余裕があるので、多様な技術に資金を投じているのでしょうが、結果的に日本の電気自動車普及が遅れてしまう可能性があります。
アメリカはどうなっているのかというと、著名な起業家イーロン・マスク氏のテスラが電気自動車専門メーカーとして大躍進をしています。
実は当初に電気自動車の開発で先行していたのは日本メーカーで、2010年に日産はリーフを376万円からという価格で発売し、2015年までに累計で20万台を販売しました。一方テスラは、2008年にロードスターというスポーツカーを98000ドル(当時の為替レートで約1100万円)で発売し、その後の累計で300万台以上の電気自動車を販売しています。
日本メーカーは電気自動車を「エコ」な小型車として販売し、小型の割には高価格なので販売台数が増えませんでしたが、テスラは電気自動車の加速の良さを売りにして「高級スポーツカー」として高価な価格で発売して人気を集め、その後に500万円程度の普及版を投入して一気に販売台数を増やしました。
では中国はどうでしょうか。BYDという会社は1995年に深圳で創業し、中国一の電池メーカーとなったのちに、2003年からは自動車製造を開始し、2017年には電気自動車の販売台数で世界一になりました。この他にも多くの電気自動車メーカーが起業して販売台数を伸ばしています。
この背景には中国政府が電気自動車に多大な補助金を出していることがあります。中国政府としては環境対策を推し進めたいというよりは、自動車産業を一気に育成したいという意図があると思われます。
エンジン車は機構的に複雑で製造が難しいので、日本や欧米のメーカーに追いつくことは困難でしたが、電気自動車であれば、どの国も同じ位置からのスタートですし、機構的に単純なので中国でも製造が容易なのです。
このように、欧州も米国も中国も電気自動車へのシフトが急速に進んでいるという状況なのです。
<連載ラインアップ>
■第1回 なぜ「未来予測」は当たらないのか? 「メガトレンド」と社会課題の関係
■第2回 日本が連続受賞した「化石賞」とは? 脱炭素社会の実現に向けた世界の動き(本稿)
■第3回 水素、アンモニアは脱炭素の切り札になるか? 経産省も期待する新技術とは?
■第4回 2058年に世界人口は100億人へ、「一足飛び」の成長が期待できる有望市場は?
■第5回 サントリー、JTなどの海外企業の買収で考える「経営のグローバル化」とは?
■第6回 「アメリカ側」vs.「中国側」の先へ・・・世界が向かう「多極化」とは?
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