2022年9月に亡くなったジャンリュック・ゴダールが手掛けた最後の作品『ジャンリュック・ゴダール/遺言 奇妙な戦争』(2月23日公開)より、ゴダール監督の肉声入り予告編が解禁。併せて、蓮實重彦ら著名人が本作に寄せたコメントも到着した。

【動画】ゴダール監督の遺作となった『ジャン=リュック・ゴダール/遺言 奇妙な戦争』予告編

 ゴダール自身をして「最高傑作だ」と言わしめた本作は手書きの文字、絵、写真そして映像がコラージュされ、音楽やナレーションが1つになった、彼の芸術の集大成とも言える作品。比類なき独創性とインパクトとともに、その不在をより大きく感じさせる一作となっている。製作は、フランスのメゾン、サンローランが立ち上げた映画会社、サンローランプロダクション。2023年カンヌ国際映画祭クラシック部門でワールドプレミアを迎え、世界の国際映画祭を席巻した。

 映画界から永遠に去る直前まで、ジャンリュック・ゴダールはこの短編映画に手を加え続けた。その手で書き、色を付け、紙や文章をコラージュした。さらに音楽とサウンドトラックの切れ目には、彼自身の老いた、穏やかな、そして激しく震える声を聴くことができる。自身をして「最高傑作だ」と言わしめた作品の全ぼうがついにスクリーンで明かされる。

 本作の撮影、編集を手掛け、ゴダールに一番近いスタッフだったファブリス・アラーニョはこう述懐する。「『イメージの本』(2018)以降、ジャンリュックシャルル・プリニエの『偽旅券』(1937)という多くの章からなる小説の翻案を望んでいました。それぞれの章には、1917年の10月革命から1930年代の間に生きたさまざまな人物の存在が認められます。彼の考えは、そのなかの2人に焦点を当てて物語を発展させることで、そのうちの1人の名はカルロッタでした」。

 このたび、予告編が解禁。製作を担ったサンローランプロダクションに映画の話を持ち掛けた時期からの、本作が生まれた経緯を振り返っている。「サンローランに映画の話を持ちかけた時、この2人を思い出した。ちょうどプリニエが政治と革命という、昔の情熱に回帰したようにだ」「自問したよ。“また映画を作れるだろうか”」というゴダールの肉声が響く中、手書きの文字や絵、写真が映し出されている。

 また、いち早く本編を鑑賞した著名人よりコメントが到着。蓮實重彦(映画評論家)、堀潤之(映画研究者)、菊地成孔音楽家・文筆家・「ラディカルな意志のスタイルズ」主宰)、万田邦敏(映画監督)が名を連ねている。

 蓮實重彦は「死後のゴダールは、存在しない作品の予告編とやらでまたしても見るものを驚かせる。ゴンクール賞受賞作家シャルル・プリニエの『偽旅券』の映画化が叶わず、その詳細なシナリオ構成をキャメラ担当のアラーニョに託し、これは自分の最高傑作だと呟いたというのだから。実際、作中に再現される『アワーミュージック』の一景を目にしただけで、誰もが涙せずにはいられまい」と語っている。

 映画『ジャンリュック・ゴダール/遺言 奇妙な戦争』は、2月23日より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷にて公開。

 著名人コメント全文は以下の通り。

<コメント全文>

■蓮實重彦(映画評論家)

 死後のゴダールは、存在しない作品の予告編とやらでまたしても見るものを驚かせる。ゴンクール賞受賞作家シャルル・プリニエの『偽旅券』の映画化が叶わず、その詳細なシナリオ構成をキャメラ担当のアラーニョに託し、これは自分の最高傑作だと呟いたというのだから。実際、作中に再現される『アワーミュージック』の一景を目にしただけで、誰もが涙せずにはいられまい。

■堀潤之(映画研究者)

 自作『アワーミュージック』(2004)をアップデートしつつ、スペイン内戦からアラブの春に至るあらゆる闘争をごった煮にした本作は、シモーヌ・ヴェイユやハンナ・アーレントに連なる新たな抵抗する女性の人物像「カルロッタ」が生まれようとする現場に我々を立ち会わせてくれる。

菊地成孔音楽家・文筆家・「ラディカルな意志のスタイルズ」主宰)

 21世紀 / 1人ジガ・ベルトフ集団 / 最後のヌーベル・ヴァーグ / 最新作 /
輝き / 20年後の素顔に驚かされる /サンローラン / 遺書 / 市場なきクール /
最短の最高傑作 / これこそがコラージュ / これこそが反資本主義 /

■万田邦敏(映画監督)

 私は思春期に、まるで宇宙人が作ったかのようなゴダール映画に遭遇し、確実に何かを殺され(その代わりに何かを生かされ)、どこかを乗っ取られてしまった。この映画がゴダールの遺言なら、そのすべてを自分の戒めとしようなどと勝手に思い込んでしまうのも、そのために違いない。

映画『ジャン=リュック・ゴダール/遺言 奇妙な戦争』より (C)SAINT LAURENT ‐ VIXENS ‐ L'ATELIER ‐ 2022