2月9日に『不適切にもほどがある!』(TBS系、毎週金曜22時~)の3話が放送された。


 2024年にタイムスリップした1986年で暮らす中学校の体育教師・小川市郎(阿部サダヲ)が様々な騒動を巻き起こしながら、コンプライアンスという概念がほとんどない昭和と、コンプライアンスに縛られすぎている令和との対比を巧みに映し出す本作。3話ではまさにコンプライアンスに関する議論が繰り広げられた。


◆「ネットニュースにならなければ勝利」というテレビ制作者




 冒頭、市郎と両想いになりつつある犬島渚(仲里依紗)は自身が勤務するテレビ局・EBSテレビ内で、先輩プロデューサー・栗田一也(山本耕史)がてんやわんやになっているところに遭遇。栗田が担当している生放送番組『プレサタ』のMC・堤ケンゴ(山本博)4股交際が発覚したため、栗田は堤の代役を探すことになって困惑していると話す。


 渚は偶然『プレサタ』に舞台告知で出演予定だった八嶋智人八嶋智人)に代打MCを任せることを提案。若干の不安を覚える栗田ではあるが、八嶋をMCに据えることを決める。八嶋はこのお願いを了承。


 やる気を見せながらスタジオ入る八嶋に、栗田は「生放送終了後、メインMCによる不祥事が公になります。番組アシスタントに対するセクハラです。打ち切りか続行か、それは八嶋さん、あなたにかかってる」とことの経緯を話す。続けて、「あなたが先週も先々週も、なんなら1年前からMCだったように振る舞い、それでもSNSがざわつかなければ」「ネットニュースにさえならなければ八嶋さんの勝利です」と“ルール”を説明。


 最高難易度のクエストを提案された八嶋ではあるが「面白い、やりましょう」と納得。SNSを一切燃えさせない生放送という戦いが始まった。


◆「きりたんぽ」はコンプライアンス違反?




 ただ、栗田は異常なほどに炎上に怯えており、VTR中に八嶋が女性出演者を紹介する際に「可愛い~」と言ったことに「先ほどの『可愛い~』の言い方、セクハラです」「伸ばさず歯切れ良く『可愛い!』、これでお願いします」と注意。


 さらには、生放送中に「きりたんぽ」「やしまん」といった“いかがわしい発言”を連発したことを問題視しており、VTR明けに謝罪するよう指摘する。


 その後も「“行方(市)”は八嶋さんが言うと何かヤラしいこと連想しちゃうので、なるべく言わない方向で」など、八嶋の“コンプライアンス違反”に次々と釘を刺していく。さすがに見かねた渚は「いくら何でも気にしすぎ。このままじゃ八嶋さん、何も喋れないです」というが、栗田も「うん、自分でもわかんなくなってる。でも気にしだしたらもう全部気になるんだよ」と天を仰ぐ。


 そして、終盤恒例のミュージカルパートに入ると、栗田や八嶋は「誰が決めるハラスメント」「だからテレビつまらない」「ガイドライン決めてくれ」と歌に乗せながら、コンプライアンスが厳しい現在の風潮を嘆いた。


◆「彼氏」「彼女」ではなく「パートナー」




 栗田がSNSの炎上に怯えて八嶋を言葉狩りしていく様子は、コミカルでありながらもどこか胸がざわついて仕方なかった。実際、コンプライアンスを強く意識しなければいけないのは、テレビ関係者に限らず一般人も例外ではない。


 2月10日産経新聞首都圏と近畿圏にある私立女子中学校・高校を対象に実施したLGBTなどセクシャルマイノリティに関するアンケート結果を発表したが、中には「『女性らしく』『男性ならでは』など性差を強調するような発言には、十分に注意することを教職員に指導している」「将来設計を考える授業で『彼氏』『彼女』という言葉を使わず、『パートナー』と表現する」といった回答が寄せられていた。


 学校現場を対象にしたアンケートではあるが、恐らく一般企業でも同様の教育は徹底されているはず。「女性らしく」「彼氏」と発言すれば、ハラスメント認定される時代になり、言葉・発言の多様性は失われているようにも思う。


 もちろん、こういった主張をポロっと口にすると「マイノリティの人の気持ちは無視するのか!」といったお叱りがそれこそSNSから飛んでくる。栗田のように「何がハラスメントに該当するのか」「コンプライアンスのある程度の定義」など、明確なガイドラインを求める人は多いのではないか。


◆マジョリティの苦悩に寄り添うドラマに期待



画像:TBSテレビ『不適切にもほどがある!』公式サイトより



“ドラマは時代を映す鏡”と言われており、「ガイドラインをどのように設定するのか」という議論を促すようなドラマが制作されれば、今感じている息苦しさを払拭する空気感が醸成されるかもしれない。


 まさに『不適切にもほどがある!』では例のごとく歌に乗せながら市郎が「娘に言わないことは言わない」「娘にしないことはしない」「それが俺たちのガイドライン」と口にしたが、この市郎の提案を受けてガイドラインについて意見を出し合う流れが現在SNSで見られている。


 ここ最近はマイノリティの生き辛さに焦点を当てたドラマが多く放送された甲斐もあり、ある程度ではあるがマイノリティに対する理解は進んだ。今後はマジョリティの悩みや困難にも焦点を当て、双方の歩み寄りを促進する『不適切にもほどがある!』のようなドラマが放送されることに期待したい。


<文/望月悠木>


【望月悠木】フリーライター。主に政治経済社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki



『不適切にもほどがある!』(日比茉鈴公式「X」より)