進学や就職などをきっかけに入居者が入れ替わりやすい引越しシーズンを目前に、自身が管理するアパートの入居率に不安を抱くオーナーは少なくありません。実は、この「引越しシーズン前の対策」により、空室率に大きな差が出るのです。事例をもとに、空室知らずのアパート経営のために必要な対策についてみていきましょう。

「家賃調整」で明暗を分けたAさんとBさん

AさんとBさんは、エリアやロケーション、建物の構造、間取り、築年数、家賃などの諸条件がほぼ同等の物件をそれぞれ所有しています。どちらも1室6万円の家賃で、全8室のアパートです。

春の引越しシーズンが近づくのを前に、Aさんは自分のアパートの周辺を散策しながら、競合する賃貸物件の状態を自分の目でチェックし始めました。また、近所の不動産屋をいくつか見学し、家賃相場の実態調査を行いました。そこでAさんは、自分のアパートよりも築浅の物件がほとんど変わらない家賃設定になっているのを知り、管理会社と相談して2,000円の家賃引き下げを決断します。

アパートオーナー仲間のBさんはAさんからその話を聞き、「下手に家賃を下げると、引越しシーズンが訪れるたびに家賃を引き下げるはめになるのでは?」と、内心疑問を感じました。そのため、Bさんはそのまま家賃据え置きで引越しシーズンに臨むことにしました。

しかし、フタを開けてみるとどうでしょう。春を迎え、どちらの物件とも4世帯が退去したものの、周辺物件よりも割安な家賃が奏功し、Aさんの物件ではすぐに新たな入居者が見つかりました。これに対し、Bさんの物件はどうしても2部屋埋まらず、秋の入退去シーズンまで半年間にわたって空室が発生してしまったのです。

諸経費などを考慮せず単純計算すると、Aさんは春から秋までの半年間で、入居者が入れ替わった4室から「5万8,000円×4室×6ヵ月=139万2,000円」を得られたことになります。一方、強気の姿勢を取ったBさんは2室しか埋まらず、「6万円×2室×6ヵ月=72万円」にとどまりました。

東京23区内で若い世代に人気のエリアなど、1年を通じて比較的安定した賃貸需要を見込める物件であれば、ここまで大きな差が生じない可能性も考えられます。しかし、そういったエリアはそう多くないのが現実です。春の引越しシーズンに埋まらなかった部屋は、秋まで空室のままになるというパターンが珍しくありません。

オーナーが引っ越しシーズン前に打つべき手は「2つ」

日頃のメンテナンスなどは管理会社に任せていたとしても、引越しシーズンのように空室発生リスクが高まる場面では、アパートオーナー自らも積極的にアクションを起こすことが大切です。とはいえ実際に打つべき手は、

1.家賃調整(周辺相場の情勢を反映)

2.見栄えの改善

この2つだけです。 まず、あちこちの物件で入退去が連続する引越しシーズンは、管理会社にとって極めて忙しい時期です。アパートオーナー自らが相談を持ちかけない限り、管理会社のほうから家賃調整を提案されることは考えがたいでしょう。

Aさんは実際にいくつかの不動産屋を見て回りましたが、いまはインターネット上でも豊富な物件情報をチェックできる時代です。近隣で同じような条件の物件をチェックし、周辺の相場と比較して割高だと感じたら、管理会社に家賃調整の相談を持ちかけましょう。

一方、定期的な掃除や修繕の手配は管理会社が果たすべき役割ですが、内覧希望者が訪れる前に必ず遂行してくれるとは限りません。

しかも、実際に部屋を見る前に目にするのは建物の「外見」です。階段の踊り場に埃が溜まっていたり、退去者が放置した自転車のカゴに空き缶などのゴミが詰め込まれていたりするのを目にすれば、それだけで幻滅される恐れがあります。ましてや、郵便受けなどが壊れたまま修繕されていないと、それが希望者にとって大きな割引材料となってしまう可能性は大です。

引越しシーズンが近づいてきたら、アパートオーナー自らが見栄えのチェックを行い、掃除や修理の必要性とその程度を確認しましょう。そして、管理会社に具体的な指示を行っておけば、円滑で着実に自分のアパートの見映えを改善できます。

ちょっとした対策の有無が空室率に大きく影響

半年間の家賃収入には大きな差が生じたAさんとBさんですが、2人の行動の違いはほんのわずかなもの。退去者が出た部屋の家賃を2,000円下げたAさんに対し、Bさんは据え置いただけです。

しかしながら、収入面で軽視できない差が広がったように、こうした少しの対応の違いが空室率にも大きな影響をおよぼしがちです。アパートオーナーが単独で判断するのは難しいケースも考えられますので、周辺相場などの下調べを済ませたうえで、管理会社に相談を持ちかければ、新たな入居者を獲得しやすい家賃設定などについてアドバイスしてもらえるでしょう。

(※写真はイメージです/PIXTA)