「売上を上げてきたのに、利益がほとんど変わらない。」「同じルールの下で同じ商売をしているのに、ものすごく儲かっている会社と倒産していく会社があるのはなぜか?」…このように考える中小企業の経営者やスタートアップの代表は多いでしょう。27才で売上高1億5千万円、自己資本比率15%の電気工事会社を父から引き継ぎ、その後、売上22億円、経常利益2億円、従業員240人の会社にまで成長させた株式会社九昭ホールディングス代表取締役・池上秀一氏の著書『資金繰りの不安がなくなり、自己資本比率が上がる! 付加価値額の教科書』(イースト・プレス)より、池上氏の経験に基づき導き出された経営メソッドを、一部抜粋して紹介します。

経営者がやるべき「社内の環境整備」

ここからは経営者のやるべきこととして「社内の環境整備」についてお伝えしていきます。

付加価値額経営を実践していくためには、経営者1人が理解しているだけではダメで、幹部や一般社員に至るまで全員が1つの目標に向かって進んでいける「ワンチーム」の状態でなければいけません。

九昭ではそのために「社員心得」というクレドカードのようなものを作り、全社員に配布し、常に携帯をさせています。さらに、毎週月曜の朝8時30分から15分間の「朝会」を開催し、社員心得の浸透を行っています。

クレドカードとは「その会社の信条や理念、従業員が心がける行動指針などを簡潔に示した言葉を書いたカード」のことで、有名なのはザ・リッツカールトンの「ゴールドスタンダード」ではないでしょうか?

本稿では、 あなたが作成するものを便宜上「クレドカード」と呼んで先に進めます(「社員心得」はあくまでも九昭での呼び方なので) 。

クレドカードについてはインターネットで検索をするとすぐに出てきますので、このようなものを作成しましょう。とはいえ、すぐに作れるとは限りませんし、何を記載すればいいかも最初はわからないと思います。

私自身、会社の売上が3億円から5億円になるまでの停滞期に社員教育をしようと考え、その過程で社員心得を作りました。

何度もバージョンアップして現在のようになっていますが、最初は自分の好きな言葉をワープロ打ち込み、まとめるところから始めました。

あなたも最初はまとめるところからで構いません。不器用でも構いませんので、社員に浸透させたいあなたの考え方を言葉にしてみましょう。九昭の社員心得を参考にしていただいても構いません。

ただ、その際に外してはいけない5つの項目がありますので解説します。

クレドカードに入れるべき「5つの項目」

クレドカードに入れる項目① 「企業目的」

企業目的には「会社が何のために存在しているか?」を書きます。

会社をピラミッドで考えたときに、その頂点にあるのが企業目的であり、すべての企業活動に対しての目的になります。「仕事をする上での頂点」と言い換えてもいいでしょう。

仕事を通じて会社や従業員たちが社会に対してどのような存在になるのか、また、自分や周囲の人たちがどのような状態になるのか、あなたの考え方を示してみてください。

クレドカードに入れる項目②「経営理念」

経営理念には「自社の強みを活かしてどういう会社にしていきたいかの指標」を書きます。

技術力や営業力や人間力や素材力など、あなたの会社には他社に負けない何かしらの「強み」が存在しています。まずはそれを明確にし、その強みを活かして「何をしていくのか」を考えましょう。

中小・零細企業の多くは、規模や売上高や資金力や知名度では大手企業には勝てません。しかし、それでも卑屈にならずに「大手企業には負けないあなたの会社なりの何か」を見つけて記載してください。

クレドカードに入れる項目③「基本方針」

基本方針には「経営理念を実現するために守るべき約束」を書きます。

私の会社ではこれを5つで表現していますが、3~5個くらいがバランスがいいと思っています。読者によってはたくさん思いつくかもしれません。

しかし、あまり多いと社員が混乱したり、矛盾が生じて詳しい説明が必要になることもありますので注意してください。

クレドカードに入れる項目④ 「社員信条」

社員信条には「自社にふさわしい社員の考え方」を書きます。

誤解を恐れず本音を言えば、中小・零細企業は大手企業に比べて人材の面では不利なところがあります。誰しも安定した大手企業に入りたいものだと思いますが、そこに入れなかった人が第二、第三以降の選択肢として選ばれるのが中小・零細企業の現実だと思います。

それでも、入ってもらえた以上は熱意を持って仕事をしてもらい、大手企業に負けない 会社にするために社員信条が必要です。

それにそもそも人間は個々で育った環境も考え方も違います。そんな本来バラバラな人たちを1つにまとめ、同じベクトルで進んでいくことで会社はチームとして強くなります。そのためにもこの項目が必要です。

クレドカードに入れる項目⑤「ビジョン」

ビジョンには「会社の将来的な夢」を書きます。

社員の立場からすると、会社が将来に何を目指しているのかがわからないと、自分たちがそのために何をすればいいのかがわからなくなります。仕事へのモチベーションが持続しません。ですから、5年先のビジョンを示してください。それがあることで社員たちは何を目指せばいいかがわかり、やるべきことが明確になります。

ビジョンは1つでもいいですし、複数あるならそれでも構いません。「会社の状態」「社員の状態」などの切り口で考えると複数出てくると思います。

これら、最低でも5つの項目を書いたクレドカードを作ることで、会社が1つにまとまるきっかけを生み出すことができます。

(株)九昭ホールディングス代表取締役

池上 秀一

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