経済評論家の山崎元氏(※)は、「個人向け国債は変動金利型10年満期を買うべき」「株式の投資信託だけで充分」といいます。それぞれリスクのイメージがありますが、いったいなぜなのでしょうか。『新NISA対応 超改訂版 難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!』より、その理由について対話形式で詳しくみていきましょう。 ※山崎元氏は2024年1月1日に逝去されました。衷心より哀悼の誠を申し上げます。

安心・安全の個人向け国債

【登場人物】 ・山崎先生(山崎 元)……経済評論家東京大学経済学部を卒業後、三菱商事に入社し、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券など、合計13社で金融関係の仕事を経験。

金融業界の“裏の裏”まで熟知し、経済評論家となったあともテレビや雑誌、YouTubeなど多くのメディアで活躍。切れ味の鋭い発言を連発している。お金のことをなんでも知っていて説明もわかりやすいが、ちょっとクセが強い。

大橋(大橋 弘祐)……大手通信会社から、37歳で一念発起し作家・編集者に転職。お金の知識はなく、経済のニュースを聞いてもよくわからない“ド素人”。給料が上がらず税負担が増えるいま、将来に不安を抱え「お金を増やしたい!」と思っている。

大橋:先生、ネット証券に口座を開いたら、どうやって買ったらいいんでしょう。

山崎先生:まず、君が買うのは国が新規に発行する個人向け国債で、個人向け国債には3種類ある。

【個人向け国債の3種類】

・固定金利型3年満期

・固定金利型5年満期

・変動金利型10年満期

大橋:どれを買えばいいんでしたっけ……。

山崎先生:買うのは、満期が10年の「変動金利型10年満期」っていうもの。

大橋:満期が10年っていうことは、10年はおろせないんですか?

山崎先生:おろせないのは最初の1年だけ。それ以降はペナルティを払えばおろせる。

大橋:ペナルティですか……。

山崎先生:ペナルティって言っても、過去1年分の金利だけ。1年目はおろせなくて、2年目からは、もらった金利1年分(過去2回分)を返せってことだから、ペナルティを払ったとしても、実質的に元本割れすることはないの(図表1)。

大橋:なるほど……。

山崎先生:それで、この「変動10年型」は長期金利66%にあわせて変動する。長期金利というのは10年ものの国債の流通利回りのことね。

大橋:??? さっぱりわかりません。

山崎先生:まあ、長期金利は「銀行が金利を決めるときに参考にしているもの」と覚えておけばいいよ。たとえば将来、銀行の金利が5%に上がったとする。そのときに君が買った個人向け国債の金利が0.5%のままだったら、「銀行に預けておけばよかった」って思うでしょう。

※仮に100万円を5%で10年運用すると、約160万円ですが、0.5%で10年運用すると約105万円で、50万円以上の差がついてしまいます。

大橋:たしかにそれは損した気がしますね……。

山崎先生:変動型はそのときの長期金利に連動するから、銀行に預けてるのに比べて、ものすごく損することは少ないの(図表2)。難しかったら「銀行の金利が上がっても、ものすごく損するようなことはない」って覚えておいて。

しかも、長期金利が下がっても「個人向け国債10年変動型満期」は0.05%より下がることがないようにできている。

※個人向け国債10年満期は、長期金利が上がって国債が暴落するようなことが起きても、元本は保証されて、利息もある程度支払われるので、国債暴落に強いというメリットがあります。(個人向けでない国債は暴落すれば、価格が下がります)

「とにかくお金を安全にしておきたい人」は個人向け国債がおすすめ

山崎先生個人向け国債変動金利型10年満期は、全ての金利商品の中で常にベストとは言えないけど、お金を安全に運用したいだけなら極めて無難な金融商品といえる。とにかくお金を安全にしておきたいだけなら、これがいいね。実家の親とかにも教えるといいよ。私の母親も結構持っているよ。

大橋:先生、ありがとうございます。正しいことを知らないって、ものすごく損なことなんですね。

山崎先生:そうだね。この世の中は知らないと損することがたくさんある。その一つの例が個人向け国債だよ。

大橋:今日はいいことを聞きました。一応、家で調べて、それを買おうかと思います。

山崎先生:でも個人向け国債なんてたいして増えないから、そんなのやめて、インデックスファンドを買って、もっと大きなリターンを狙おうよ。君、将来に向けてお金増やしたいんだよね。

大橋:(何か危ない気配になって来たぞ。やっぱり何か売り付けようとしているんじゃないか……)あ、いや……。銀行預金より安全で利回りのいいものが分かったんで、僕は満足です……。

山崎先生:まあ、悪くない心がけだけど、それでお金の心配から解放されることはないんだから、別の方法を考えないと。

大橋:……す、すみません。大切なお金なんで、株式投資のようなギャンブルをして減らしたくないんですよ。

山崎先生:……。それなら仕方がないね。だけど最後に一つだけ、お金を増やす上で、とても大切なことを君に教えてあげようか。

大橋:なんですか、大切なことって。

山崎先生:それはね、お金のことだけリスクを極端に避けるのはバカのやることだよ

大橋:(……。バカ……。初対面でバカ……)山崎さん! いくらなんでも失礼じゃないですか。人にバカなんて。親にも言われてた事はありませんよ。もう帰ります。

まとめ

・「個人向け国債」で買うべきなのは「変動金利型10年満期」

・最初の1年はおろせないが、それ以降は1年分(過去2回分)の金利を払えば換金できる。

・変動10年型は長期金利に連動するので、銀行の金利に比べて大きく損することがない。

多くの人が勘違い?「株式投資」の誤ったイメージ

――いくらなんでもバカって失礼だろう。まったく、なんなんだ。あの人は……。

僕は憤慨しながら家に帰りました。

家に帰り、個人向け国債というものを調べたら、たしかに、財務省のホームページに詳しい説明が書いてあった。金利が今は0.5%、元本保証と書いてある。

安全でメガバンクより金利がいいことはわかった。山崎先生の言ったとおりだ。

いままで、何の疑いもなく、10年以上、メガバンクに預けていたけど、たしかにすぐに使わないお金だったら、個人向け国債にしておいたほうが、よかったのかもしれない。

じゃあ、個人向け国債が、どのくらい増えるのか計算してみよう。

僕はパソコンを立ち上げて、エクセルで複利を計算することにした。すると、いまの金利が続いたとしたら、500万円分を買ったとしても、10年で25万円程度しか増えない。2倍になるには140年もかかる……。

これも山崎さんの言ったとおりだ。

たしか、山崎さんはお金を増やしたいなら、全世界株式のナントカがいいって言っていた。それをやればお金が増えるのだろうか。

いやいや。それは危険だ。株なんて危ないに決まっている。あの人も金融業界の人だ。金融業界の人を信用してはいけないって、あの人自身も言っていたし、それにあの人、人にバカとか平気で言うし……。なんか、妙に軽いときもあるし……。

思い出すと、なんだか腹が立ってきた。

よし。あの人の言うお金の増やし方というものを聞くだけ聞いて、買うかどうかは、そのあとに考えればいい。

それで今度は、山崎さんが何かおかしなことを言ったら、反論できるように、調べておこう。

言われっぱなしでは悔しい。

――数日後

山崎先生:あれ、また来たの……。今日はどうしたの。

大橋:やっぱり、続きを教えていただけますか。

山崎先生:個人向け国債だけじゃ、たいしてお金が増えないことがわかったのかな?

大橋はい。家に帰って調べたら、個人向け国債はちゃんとしたものでした。ただ、エクセルを駆使して計算したら、個人向け国債の金利0.5%だと、僕の大切な貯金500万円が2倍の1,000万になるのは、約140年もかかることがわかりました。残念ながら僕は生きてません……。

山崎先生:個人向け国債でたいして増えないことがわかったなら、わたしがオススメした世界株のインデックスファンドで株式投資をして、5%で運用することを目指せばいいじゃない。

大橋:でも、先生……。世界株のインデックスファンドなんて言われたってなんのことだかわからないし、そもそも、それだって株なんですよね……。

山崎先生:そうだよ。

大橋:先生。株はいやです……。

山崎先生:どうしてそんなに株を嫌がるの?

大橋:だって、減るかもしれないんですよね。それに、先生と違って、経済のこととか詳しくないんですし、経済のニュースを見てもよくわからないです。日中は仕事してるから、株式取引やってる暇がないんですよ。しかも素人がやると、プロにカモにされるってよく聞くし……。

山崎先生:ちなみに君さ、株式投資っていうと、どういうの想像するの?

大橋:投資ですか……。1日中パソコンの前にいなければならない感じです。

山崎先生:あのね、これは投資じゃなくてトレーディングといって、言わば、マニア向けの特殊なゲームなの。ゲームだから取ったり取られたりで、こうやって頑張れば儲かるようになるというものではないしね。

大橋:じゃあ、僕はどうしたらいいんですか。株がいいって言ったじゃないですか!

山崎先生:君の場合、実際にやるのは、これから説明する株式の投資信託だけで充分。それ以外の仮想通貨やFX、金(ゴールド)などの投資は、やらないと覚えておけばいい。これならシンプルだし、普通にやればだいたいの人がうまくいくと思うよ。

大橋:はあ……。

山崎先生:それに投資信託は一度、やり方を決めて投資してしまえば、ずっとほったらかしにしていればいいから、手間がかからない。君みたいに日中に仕事をしている人にも合うの。一日中、画面を見ているのなんて、仕事してたらできないし、ずっとお金のこと考えてるなんて、人生がもったいない。頑張るのは本業だけで十分だよ(図表3)

まとめ

・パソコンの前に座って値動きを見ているようなデートレーダーの投資はマニア向けのゲームと言うべき特殊な世界である。

・株式の投資信託だけをやる。仮想通貨やFXなど、それ以外の金融商品は手を出さない。

山崎 元 経済評論家

大橋 弘祐 作家編集者

(※写真はイメージです/PIXTA)