放課後少年花子くん
放課後少年花子くん』(あいだいろ/スクウェア・エニックス

 マンガを読んでいるとき、ふと「ストーリーでは描かれない登場人物の日常も見てみたい」と思うことがある。ときどき巻頭ページや扉絵で描かれることはあるが、それだけでは主人公や登場人物の素顔に迫れない感じがしているからだ。物語や構成がしっかりしている作品こそ、スピンオフ的な作品が読みたくなるのだ。

 だからこそなのだろう、『放課後少年花子くん』(あいだいろ/スクウェア・エニックス)が発売されたとき歓喜に沸いた。本作はかもめ学園の七不思議“トイレの花子くん”と学園生徒でありオカルト少女の八尋寧々が繰り広げるハートフルコメディ漫画『地縛少年花子くん』のスピンオフ作品。『地縛少年花子くん』自体は2020年1月にアニメが放送されている。コメディの中に少しゾクッとするようなシーンが織り込まれている点や、個性的な登場人物の魅力にハマってしまったファンは多いのではないだろうか。もちろん僕もその一人だ。

 ただ『放課後少年花子くん』にはゾクッとするシーンや学園を脅かす事件などは描かれていない。原作では、踏むと異世界に飛ばされる階段や、告白すると必ず成功する樹木、16時になると現れる謎の書庫、写真にうつりこむ幽霊など、毎回生徒を恐怖させる噂話が現実となっていく。どの話も、ほとんどの学校に昔からあったような噂話。なつかしさを感じる人も多いはずだ。当然、そんな怪奇現象を鎮める「祓い師」も登場。祓い師は花子くんのような学園に存在する七不思議の象徴・7人の「怪異」を祓うことが目的で、原作では敵同士である。

 しかし本作は、怪異も祓い師も、それぞれのストーリー上の立場をいったん忘れて仲良く絡んでいる姿が多く描かれる。原作ファンとしては微笑ましい限りだ。中でも学園の生徒会長であり天才祓い師の源輝と怪異たちが一緒に王様ゲームを楽しむ話は傑作。原作では絶対に見ることができないうえに、普段あまり怯えることがない怪異たちが、王様になった輝に「消滅はなし」や「落ち着いて話し合おう」と泣きながら説得するシーンは可愛くて仕方がない。他にも花子くんが風邪を引いてしまう「怪異風邪」や、呪いの不思議道具が暴走し、花子くんが女の子になってしまう「夏の魔物~地縛少女花子さん」も原作にはない設定満載の話となっているのでおすすめだ。こうした原作にはない話がみられる点がスピンオフの醍醐味と言えるだろう。

 ちなみに『放課後少年花子くん』は2024年に続編の4話が、『地縛少年花子くん』は第2期の制作が決定している。アニメの放送開始までたっぷり時間があるので、ぜひ『地縛少年花子くん』と『放課後少年花子くん』の両方を手に取っていただきたい。これは僕の所感だが原作を1~3巻ほど読めばスピンオフ作品も楽しめるようになっている。ホラーが苦手でこれまで手が出せなかった人にこそおすすめだ。

文=トヤカン

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第2期アニメ放送決定『地縛少年花子くん』。学園の七不思議で有名な幽霊たちと、敵対する祓い師が微笑ましく王様ゲーム!?