北朝鮮金正恩総書記の妹、金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長は15日、日本人拉致問題が解決済みであることを前提とするなら、岸田首相の訪朝も「あり得る」との談話を出した。ただし、「私個人の見解であって、私は公式に朝日関係を評価する立場ではない」としている。

北朝鮮で、このように「個人的見解」を公然と述べる人物は、おそらく金与正氏が初めてだ。いつでも言いたいことを言える、という点では、兄の金正恩氏や父の故金正日総書記、そして祖父の故金日成主席も同様だったろう。

ただ、彼らは「首領」と呼ばれる最高指導者であり、国家と一体とも言える存在である。その発言はイコール、国家の公式見解なのである。

一方、金与正氏は最高指導者でないばかりか、国家を代表できる公式な肩書もない。今回の談話でも「現在までわが国家指導部は朝日関係改善のためのいかなる構想も持っておらず、接触にも何の関心もないと知っている」と述べている。これは、自分は「国家指導部」の外にいることを示すものだ。

そのくせ、言動は誰よりも大胆だ。2020年には韓国の脱北者団体による対北ビラ散布を巡り、南北共同連絡事務所の爆破を主導し、世間を驚愕させた。

 

また韓国の尹錫悦大統領文在寅大統領に対しては、やはり「談話」を通じて遠慮なく毒舌を吐いてきた。

実際のところ、彼女のこうした振舞は国内でも支持を得ていない。旧聞に属する話にはなるが、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は2021年9月、彼女の「談話」連発について北朝鮮の一部の幹部たちから、「目立ちたがりで軽率」との批判が出ていると伝えていた。

両江道のある幹部はRFAに対し、「対外関係の重要な局面に首を突っ込み、毒舌を吐く金与正に対する国民の認識は、肯定的ではない」と説明。

続けて、「幹部たちも、ごく身近な人々が集まった席では、『金与正があちこち首を突っ込んで軽率に振舞わなければよいのに』と語っている。前面に出なくても、仕事は裏方で十分にできる」と語った。

もちろん彼女の談話が、兄の決裁を受けずに出されたものだとは思えない。もしかしたら金与正氏は、敢えて「汚れ役」を買って出ているのかもしれないが、だとすればその底意がむしろ気になる。

金与正氏(青瓦台提供)