岐阜駅に降り立つとすぐに目につくのが、北口の階段を下った広場にある、黄金の織田信長像である。信長は天を仰ぐでも下界を見下ろすでもなく、遥か遠方を見据えた、凛とした姿で立っている。気高さよりは威圧感を演出している点で、珍しいモニュメントでもある。

 岐阜に来るのは今回で3度目。過去2回は2018年の岐阜記念競輪「長良川鵜飼カップ」と、コロナ禍の2020年に京都から静岡まで城巡りをした時だった。

 岐阜には斎藤道三と信長が居城とした岐阜城があり、2度とも上った。岐阜城は標高329メートルの金華山の頂きにある山城で、ロープウェイで行く。駅から見るお城は小さな置き物かオモチャのようだが、お城からは眼下に「オーッ!」と声を出したくなる絶景が広がる。信長が見ていた、くねる長良川と岐阜の街並みを一望することができるのだ。

 岐阜競輪場へは、無料のファンバスを利用する。12年ぶりにGI全日本選抜競輪が行われていた。4日間開催の決勝戦がある最終日、2月12日だ。

 暮れのKEIRINグランプリを走ったS級S班は、9人が全員参戦した。しかし、トップ9が意外や3人しか決勝戦で乗れず、大穴が続出する荒れ模様が続いた。4日間48レース中、3連単10万円、20万円、30万円が6レースあり、3万円や4万円のものも多かった。

 こういう流れの時は、絞って買ったらカスリもしないことが多い。そこで基本は、ガチガチの本命サイドに思えるレース以外は、とにかく幅広く買うこと。そう肝に銘じての、岐阜競輪場入りである。

 この日の入場者は6055人。JRA以外のギャンブル場は入っても2000人から3000人というのがザラだ。競馬場のように広くないこともあって、その倍の入場だと歩くのも大変なくらい、場内は混雑する。この日の岐阜競輪がまさにそうだった。

 ホームスタンド1階のゴール前には選手を間近に見たい女性ファンなどが陣取り、2階席は身を乗り出して声援するファンでビッシリ。3階の特観席は売り切れていた。

 ゴール前にはリリコ嬢の姿があった。旅打ちの女ギャンブラーだ。連載や書籍の中でリリコ嬢の話を書いているので、聞かれることがよくある。

「リリコさんて、元純烈の小田井涼平さんが結婚したタレントのLiLiCoのことですか」

 まさかっ。そもそもリリコである。この名前は映画「男はつらいよ」の最強マドンナリリーからつけたもの。リリーは旅回りの歌手だ。で、リリコ嬢は旅打ちのギャンブラー、ということで。

 余談だが現在、私が関わる夕刊紙ではたまたま「男はつらいよ」で寅さんの妹さくらの夫役、博を演じる前田吟さんの半生を連載中なのだが、寅さんとリリーについてもたっぷり話を聞いている。

 あらかじめLINEでリリコ嬢に岐阜入りについて確認すると、3日目、最終目に参戦するとのことだった。本場ではリリコ嬢のごひいきの選手を応援する声が、バンク中に響き渡る。テレビ観戦していても、その声を聴くことができるほどである。

 しかし、テレビでレースを見ていた3日目、彼女の声が聴こえなかった。本当に岐阜入りしているのかな、と思っていたのだが、

「声を出しすぎて。潰れちゃって、声が出ない」

 なるほど、ガラガラだ。全国各地に出かけて応援するので、喉を傷めているという。のど飴を舐めながら、苦しそうだ。バイトしながら全国を股にかけて転戦し、声が潰れるまで選手の名前を叫び続ける。見上げた女ギャンブラーではないか。

 リリコ嬢ごひいきの稲垣裕之が、4Rで走っていた。3着だ。戦果を聞くと、

「3連複(1970円)は獲れた」

 と言う。めでたし。決勝戦の12Rは車券を買ったら発走前に場内を出て、宿舎で選手の出待ちをするという。実に熱心なのだ。

 レース終了後、誘ってご飯でも食べようかと思っていたが、リリコ嬢は人気者で、各地に輪友が散らばっている。今はSNSなどでつながっているし、行く先々で競輪の輪ができるらしい。

 こちらはいつものように、孤独のギャンブルを楽しむことにしよう。

(峯田淳/コラムニスト)

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