人工衛星の観測によって、グリーンランドでは過去30年で2万8707km2もの氷床と氷河が解け、剥き出しになった大地の緑化が進んでいることが明らかになった。
失われた氷はグリーンランドにある氷の総面積の約1.6%。これは日本の関東地方の80%以上の広さに相当する。
こうした変化は、太陽エネルギーの反射率を低下させ、メタンガスの排出源を拡大させるなど、地球温暖化をさらに加速させる要因になると考えられている。
この研究は『Scientific Reports』(2024年2月13日付)に掲載された。
北極圏にあるグリーンランドは世界最大の島だ。210万km2の面積の大半は、氷床と氷河におおわれており、そこに5万7000人ほどが暮らしている。
1970年代以降、グリーンランドの温暖化は、世界平均の2倍のペースで進んでいる。2007~2012年にかけてのグリーンランドの年間平均気温は、1979~2000年より3度も高い。
こうした傾向は、今後もっと加速すると予想されている。なぜなら、地球温暖化で雪や氷が解けると、それがさらに温暖化を加速させるような変化を引き起こすからだ。
人工衛星の高解像度データによれば、氷が消えた主な地域は氷河の辺縁に集中していたが、北部や南西部でも見られたという。
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そうした以前は氷や雪におおわれていた地域では緑化が進んでいる。この30年、植物が生えている土地の面積は8万7475km2増加。この間、緑が2倍以上に広がったということだ。
左は1980年代、右は2010年代のもの。グリーンランドではここ30年間、緑化が進んでいる / image credit:University of Leeds
そうした植物の広がりが目立つのは、グリーンランドの南西部・東部・北東部だ。
中でも最大の増加が見られたのは、南西部のカンゲルルススアーク付近と北東部の孤立した地域だ。
こうした地域には、解けた氷から流れた水によって土砂や泥が運ばれ、湿地や湿原が形成されている。そこへ、こうした環境に適応した植物がよく繁殖しているのだ。
カンゲルルススアーク付近の様子。かつて氷におおわれていた大地には、植物が生い茂っている/Credit: Jonathan Carrivick
氷の消失がさらに温暖化を加速させる可能性
氷の消失は、温暖化をいっそう加速させる可能性があるという。
地表をおおっている雪や氷は、太陽の熱をよく反射してくれる。だから地表は涼しく保たれる。
ところが、氷がなくなり地表が露出すると、今度は太陽の熱を吸収するようになる。だから、それまでよりも温度が上がりやすくなるのだ。
また氷が解けると湖が増える。湖の水も地表と同じように氷より太陽の熱を吸収するので、やはり地表の温度が上がりやすくなる。
さらにグリーンランドでは湿地が4倍近くに増加しているが、ここは強力な温室効果ガスであるメタンガスの排出源だ(永久凍土の封印の弱体化については以前から科学者が警鐘を鳴らしている)。
つまり雪や氷が解け、湿地帯が広がると、太陽の熱が吸収されやすくなるだけでなく、それまでは土に閉じ込められていた温室効果ガスまで排出され、それがさらに温暖化を進める。
グリーンランドでは今、このような温暖化を加速させるようなループが起きているのだ。
グリーンランド北西部のファン氷河/Credit: Mark Smith
またグリーンランドの植物の広がりは、沿岸海域へ向かう土や栄養の流れを大きく変えている。
こうした変化は、とりわけ伝統的な狩猟を行って生きている先住民族の暮らしを破壊する恐れがある。
グリーンランドで解ける氷は、世界の海面上昇をも引き起こす。地球最大の島で起きていることは、私たちの暮らしにもつながっている。
References:Land cover changes across Greenland dominated by a doubling of vegetation in three decades | Scientific Reports / Greenland’s Great Melt: From Ice Age to Shrubland in Three Decades / Greenland's ice sheet is melting and being replaced by vegetation, finds major satellite analysis / written by hiroching / edited by / parumo
追記(2023/02/17)とけるの表記を解けるに統一して再送します。
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