化学メーカーで勤務を行う傍ら、経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は株式会社ワークマンの業績について紹介したいと思います。

ワークマンは近年、職人向けの作業着店からアウトドア・機能性ウエアを扱うカジュアル店へとシフトしたことで業績が急上昇しました。優れた機能性に加え、圧倒的な安さが消費者の心を掴んだようです。しかし予想通り伸びなかったためか先日、24年3月期の業績を下方修正しました。既存店売上高も前年を下回るようになっており、カジュアル化戦略の難しさが表れています。ワークマンの近年の成功と今後の方針についてまとめてみました。

◆「職人向けの作業着店」として群馬で創業

ワークマン1980年群馬県伊勢崎市で「職人の店 ワークマン」として1号店をオープンしました。82年には株式会社ワークマンとして法人が設立され、FC展開を始めます。職人向けの作業着や道具などを扱う店舗として各地に出店、88年には100店舗を突破。その後も規模拡大が続いて97年に300店舗を達成し、2002年には500店舗を達成し、2017年には800店舗を突破しています。吉幾三が「行こう、みんなでワークマン」と作業着を着て歌うCMのイメージ通り、主に男性の職人を対象とする店でした。

ちなみにワークマンFC店が主体で、24年3月期3Q現在でも店舗の96%がFC店です。本部が出店したい地域でFCオーナーになりたい人を募る形で法人での加盟を認めていません。コンビニFCのように安定を狙うためか夫婦での店舗運営をモデルケースとしています。

◆徐々に“カジュアル路線”にシフト

カルト的な人気を誇った「吉幾三のCM」は2016年に終了し、近年ではカジュアル化路線を進めています。2018年9月にららぽーと立川立飛店でオープンした「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」の成功がきっかけです。ワークマンプラスは従来の職人ではなく一般客を対象とした店舗で、作業着の技術を活かした撥水性などの機能性に優れるアウトドア・スポーツウエアを扱っています。PBブランド「FieldCore」や「Find-Out」の商品も販売、ワークマンの機能性商品がSNSや口コミでも話題となったことで、同社はワークマンプラスの出店を加速させました。

新業態店は女性人気も高かったようで、女性客を取り込むべく2020年8月に新業態「#ワークマン女子」の展開も始めました。こちらもワークマンプラスと同様に、撥水パーカーや防水シューズなど機能性に優れた女性向けウエアを扱っています。職人向けの旧来店よりも収益が著しく高いため、コロナ禍で同社はカジュアル化路線を加速。既存店の転換を進めたため2020年3月期末から23年3月期末にかけて各業態の店舗数は以下のように変化しました。

ワークマン:693店舗→632店舗→559店舗→479店舗
ワークマンプラス:175店舗→272店舗→372店舗→473店舗
#ワークマン女子:0店舗→2店舗→12店舗→26店舗
総店舗数:868店舗→906店舗→944店舗→981店舗


最新の24年3月期3Q時点でワークマン:405店舗、ワークマンプラス:547店舗、#ワークマン女子:44店舗と、合計1,006店舗を展開しています。ちなみに転換が進んでいない旧来のワークマンでも店内はカジュアル化が進んでおり、作業着のほか一般向けの服も多く取り扱っています。

◆人気の理由は「機能性×圧倒的な安さ」

そしてカジュアル化戦略を進める間、業績は著しく伸び、メディアでも頻繁にその様子が取り上げられました。20年3月期から23年3月期の業績は以下の通り推移しています。

【株式会社ワークマン(20年3月期~23年3月期)】
営業総収入:923億円→1,058億円→1,163億円→1,283億円
営業利益:192億円→240億円→268億円→241億円


上記はFC本部の業績ですが、実店舗における商品の総売上高を見てもカジュアル化路線の成功は明らか。同路線を始める前の18年3月期が797億円であるのに対し、23年3月期は1,699億円と2倍以上に膨らんでいます。カジュアル化が成功した主な理由は商品の優れた機能性とその安さにあります。作業着と同じような防寒性や撥水性はもちろんのこと、履きやすく滑らない靴は妊婦さんの間でも話題となりました。ファッション性を重視するアパレル店が多い中、機能性を重視したワークマンが注目を浴びた形です。コロナ禍でのアウトドア人気もある程度影響しているでしょう。

その上でワークマンは圧倒的な安さを実現しています。具体的には税込980円のポロシャツや1,990円のジャケット(MA-1柄)、2,900円のレディース撥水マウンテンパーカーなどがあげられ、相場としては他の店舗の半分以下の価格帯ですカジュアル化を進めたとはいえ機能性を重視するワークマンの商品は他のアパレル店ほど流行性を重視していません。海外の工場に対して10万着単位での大量発注が可能なほか、閑散期に生産させているため、低価格を実現しています。

◆業績を下方修正…アパレル業界に乗り込んだ以上やむを得ないか

ワークマン2030年を目途に1,500店舗体制を目標としています。22年3月期には離れてしまった職人を取り戻そうと「ワークマンプロ」をオープンし、原点通りの店舗を新業態として始めました。

カジュアル化を既定路線とし、1,500店舗の内訳としてはワークマンプラスを900店舗、#ワークマン女子を400店舗まで伸ばし、従来型のワークマンを200店舗まで減少させる方針です。しかし、予想通り展開できていないのか、24年3月期3Qで今期予想を下方修正しました。営業総収入の予想値を1,366億円から1,350億円に変更しています。さらに既存店売上高の落ち込みも問題です。23年3月期の後半から前年割れが目立ち始め、今期は1月までの累計では98.1%。既存店客数も落ち込みつつあり、カジュアル化した店舗が飽きられ始めているようです。

他のアパレル店ほど流行性を問わないとはいえ、一般客をターゲットとする以上、需要の変化には対応し続けなければいけないのは、避けられない問題と言えます。流行に乗れるのか、または先導役になれるのかどうかが、ワークマンの今後を左右することになるでしょう。

<TEXT/山口伸>

【山口伸】
化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_

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