大事件ばかりがニュースではない。身近で巻起こったニュースを厳選、今回はサラリーマンに関する記事に注目し反響の大きかったトップ10を発表する。第6位の記事はこちら!(集計期間は2023年1月~2023年12月まで。初公開2023年1月27日 記事は取材時の状況)
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 長引く不況の影響で大手企業を中心に「早期退職」や「希望退職」を募るケースが増えてきた。退職金の上乗せなどの優遇策はあれども、そこで手を挙げるべきか……。今回は、実際に早期退職に応じた人たちの「その後」に迫った。

◆同期トップで管理職に

 大塚光男さん(仮名・30代)は、食品メーカーの営業職として活躍し、同期ではいちばん最初に管理職になった。

「自分で言うのもなんですが、社内外からの評価も高く、自他共に認めるエリートでした」

 しかし、業界全体が低迷するなか、大塚さんが務める会社も例外ではなかったという。会社全体の業績は低下し、ここ数年は、管理職の昇給停止や賞与カットが続いていたようだ。

「私は将来を考えて転職を検討していました。そんなときに、早期退職の募集が始まったんです」

 これは“渡りに船”とばかりに応募した大塚さんだったが、その後はバラ色の日々とはいかなかった。

◆会社の看板がなければ通用しない

「早期退職の退職金は1500万円でした。再就職は間にあう年齢でしたし、前職で高く評価してくれていた取引先からのオファーもあり、すんなりと転職に成功しました」

 当初は、会社に見切りをつけて早期退職した自分の決断力と、先見の明を周囲に自慢していたと話す大塚さん。しかし、今までのような営業成績をあげることができなかったそうだ。

「あらためて“会社の看板”が強かったと痛感しました。私は、自己流の営業スタイルに固執していたため、社風に馴染もうとしない姿勢が部内の反発をかっていました」

 社内外で孤立。人間関係を一から築くことがうまくできずに、わずか半年で転職先の会社を退職することになった。

ハローワークに通い続ける日々

「前職を早期退職して、1年経った今でもハローワークに通っています。余談ですが、このことが原因で夫婦仲までもが修復困難な状況になりました」

 早期退職はよく考えてから行動してほしいと、大塚さんは訴える。

「退職後の就職先や、先々のマネープランをしっかり見据えたうえで慎重に判断していれば、ここまで失うものはなかったと思います。年金受給まで退職金だけで食いつなぐことは難しいので、再就職でも前職に勝るとも劣らない年収は必須だと学びました」

◆希望退職者に対する条件が魅力的だった

 前田雄三さん(仮名・60代)は、国際的にも認知度が高く、会社名を聞けば誰でも分かる企業に勤めていた。

「私が50代の頃、社員の平均年齢を上げている40代・50代の社員数を減らすべく、インセンティブつきで希望退職者の募集が開始されました」

 それは退職金の割増、会社による再就職先の斡旋・紹介、決定するまでの待機期間中の給与を全額支給するなど、社員が手をあげたくなるような魅力的な条件だった。 

「当時、次長だった私は、『この先、会社にぶら下がっていても、私の先行きは必ずしも明るくはない。これ以上の出世は見込めないだろう』と考えました。そこで、『これはグッド・タイミングだ』と応募することにしたんです」

 次長の次は、副部長、部長、副本部長本部長、取締役、常務、専務、副社長、社長、副会長、会長……前田さんは「まだまだほど遠い」と感じていたそうだ。

◆退職金でローン返済「肩の荷が下りた」

「確かに私にとっては良い条件でした。割増退職金で自宅の住宅ローンの残債も完済でき、『やった!これでローンの重しがなくなった!肩の荷が下りた!』と有頂天でした」

 再就職先も、勤めていた会社の子会社である人材斡旋会社。役職は管理職に決まったという。前田さんは、決意新たに再就職先へと乗り込んだ。しかし……。

「人材を斡旋する企業にもかかわらず、自ら派遣先の企業を発掘し、その企業が求める適切な人材もまた、自ら探し出さなければならない仕組みになっていました。もちろん、斡旋事業を成立させればインセンティブがもらえることにはなっていますが、実際には容易ではありませんでした」

 前田さんは、転職して1年が経過しても実績は“ゼロ”だったそうだ。

◆最終手段は、中小企業に自らを売り込むこと

 有能な人材を発掘しようと、もともと勤めていた企業に目をつけたという。元上司や同僚、部下を人材候補者として漁ったのだが、うまくいかず徒労したと話す。

「私は、最後の手段をとることにしました。それは、自分自身を売り込むことでした。つまり、とある中小企業から『大企業で活躍してきた人材がほしい』との要望があり、私自身がその企業に再就職することにしたんです」

 すると、その企業からは「まだまだ現役バリバリの人材を獲得できた」と満足してもらえたという。

 そこにも、管理職の立場で入社した前田さんだったが、中小企業の現実を目の当たりにすることとなる。

「書類のコピーを部下にお願いしようと『誰か、コピー取ってくれる?』と室内の誰ともなく叫ぶと、全く返事する者はいません。再度『コピー!』と叫びました。すると、『ここでは、みんな自分でやるんだよ』と上司の一言。私は、『えっ!』とのけ反りました」

 また、「これ、社長に持っていってぇ」と言っても誰も反応してくれなかったようだ。前職が大企業だった前田さんにとっては、この環境に慣れるまで時間がかかったという。「これが中小企業だ」「これが現実だ」と前職との違いを実感しつつも、「徐々に受け入れていった」と前田さん。

 早期退職する場合は、しっかりと先々を考えておくべきだろう。

<取材・文/chimi86>

【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。

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