人口減少が止まらず、このままいくと経済水準が低下し国際社会におけるポジションも危うくなるであろう日本。本記事では『松本大の資本市場立国論』(東洋経済新報社)から、著者の松本大氏が、日本経済を復活させるための即効性のある株価対策として、「配当の損金算入」を認めるべき理由を解説します。

今の日本経済には即効性のある株価対策が必要

株価水準を大きく上げて、経済を活性化したいのであれば、ダイレクトに株価を押し上げられるような施策を考えなければなりません。

別な話にたとえてみましょう。あるメーカーの自動車がものすごく売れているとします。なぜ売れるのでしょうか。

もちろん、その自動車を販売しているディーラーの営業努力も多少はあると思います。しかし、本質的なことを言えば、やはり自動車そのものがよくなければ、誰も買おうとはしません。株式市場もそれと同じことが言えます。

NISAの生涯投資枠を1800万円に引き上げ、制度の恒久化と非課税期間の無期限化を行い、金融経済教育をどれだけ充実させたとしても、投資をするうえで魅力的なものが何もなければ、結局のところ誰も投資しようとはしないでしょう。

あるいは、投資の魅力のある米国株式(S&P500インデックスファンドなど)にお金が流れてしまうかも知れません。

でも、この先、日本の株価が上がるという期待感が高まったらどうでしょうか。株価が上がる期待感が高まれば、放っておいたとしても、大勢の投資家が日本株を買いに来ます。

人口減少が進む日本に残された時間は、それほど長くはありません。何もしなければ、日本の経済水準はどんどん下がり、国際社会における日本のプレゼンスもどんどん後退していきます。そして、それは経済安全保障という観点からも、大きな問題になっていきます。

だからこそ、即効性のある株価対策が必要です。

理想的なことを言うならば、日本企業の生産性を引き上げ、イノベーションが加速するようにし、世界に冠たる技術を磨き上げ、グローバルな競争に勝ち抜き、世界ナンバーワンのシェアを握り、他国の企業の追随を許さないようにすれば、確かに株価は上がります。

でも、それはあくまでも理想論に過ぎません。同じことは米国企業も、韓国企業も、中国企業やインド企業も考えています。それだけに熾烈な競争になるのは間違いありませんし、競争に勝てないかも知れない。

もちろん競争に勝つための努力は必要ですが、その前に、まずは株価を簡単に上げられる方法を実践することが肝心です。

方法はあります。これを実行すれば、株価が確実に上昇するという方法です。しかも、長い時間をかけて2倍になるといった悠長な話ではなく、株価にとってかなり即効性が期待できます。

それは、企業の配当を損金扱いにすることです。配当の損金算入を認めるだけで、株価は確実に上昇するはずです。

「配当の損金算入」を認めれば株価は一気に上がる

現在、配当は損金算入が認められていません。つまり、会社にとって経費扱いにならないのです。なぜなら、株主に対する配当は、税引き後の利益の一部が充てられるからです。

もし、上場企業の配当の損金算入を認めたとしたら、いまの税率だとおおまかに言って1.5倍くらいまで配当を払うことができます。配当利回りが一定と仮定したら、株価はいまの1.5倍になります。

日経平均株価が3万円だとしたら、その1.5倍で4万5000円ですから、これだけで日経平均株価は、30年以上にわたって実現できなかった過去最高値を一気に更新できます。

株価がバブル後最高値を更新したとなったら、これはもう一気に世の中の視界が開けます。将来に対する希望が生まれてきます。

多くの人たちがポジティブな気持ちになったら、株価はその相乗効果によってさらに値上がりするでしょう。2倍、3倍増も決して不可能だとは思いません。しかも、配当の損金算入は、単なるルール変更ですから、それを実現させるうえで大きく仕組みや制度を変える必要はありません。

また上場企業であれば経理担当者がいて、さらに監査法人も入っていますから、このルール変更を行うために新たな組織を立ち上げたり、人員を増やしたりする必要もありません。

財務省が、「今日から配当の損金算入を認めます」と宣言しさえすれば、何のコストもかけずに簡単にできてしまうのです。

過去、さまざまな株価対策が行われました。古くは1992年バブル経済の崩壊で株価が大幅に下落したときです。このとき、政府が立案した総合経済対策の一環として、年金福祉事業団や郵便貯金の資金を原資にして株式を買い、株価の下支えを行いました。

2013年以降は、日本銀行が株式市場における新たな買い手として登場してきました。黒田東彦前日銀総裁のもと「量的・質的金融緩和」が打ち出され、日銀がREIT(不動産投資信託)やETF(上場投資信託)を市場から買い付けることによって、市中に資金供給を行う金融緩和政策が行われたのです。

日銀がETFを買えば、株価は上昇しやすくなります。名目は「金融緩和」ですが、実質的には株価対策の一種とみていいでしょう。

ただ、これらの株価対策にはさまざまな問題があります。というのも、おもに株価が急落したときに行われるため、株価の暴落を回避する効果は期待できますが、市場の実態を反映しない株価形成になる恐れがあります。

その結果、ある程度株価が下げ止まったとしても、取引に参加している投資家を「いまの株価は公的資金の買いで下げ止まっているだけ。まだ下値がある」などと疑心暗鬼にさせてしまい、逆に買いが入りにくくなるのです。

また2013年以降、日銀が行っている量的・質的金融緩和に伴うETF買いも、日銀が自己勘定で大量のリスク商品を持つことが、中央銀行の信頼性を保つうえでいかがなものか、という批判もありました。

でも、配当の損金算入は、過去の株価対策に対して投げつけられたような批判にはつながらないでしょう。

なぜなら、公的資金を注入することなく、あるいは日銀に対する信認を損なうこともなく、税制のルールを少しいじるだけで実現できるからです。そして、それが株価を大きく引き上げることにつながるのです。

※書籍の『松本大の資本市場立国論』は、すべての漢字にルビ(読み仮名)が振ってあります。著者の松本大氏が、専門用語の漢字が多く、経済の本を読むことを敬遠していた人にこそ、この本を手にとって欲しいと思っているためです。ルビを振ることで、意味がわからない言葉や専門用語をスマートフォンの音声検索で調べることもできます。漢字にルビを振るという小さなことで、読者が広がり、日本がよくなることへの願いが込められています。

松本 大

マネックスグループ会長

※本記事は『松本大の資本市場立国論』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

(※写真はイメージです/PIXTA)