これはもはや単なる不倫ドラマなんかじゃない。そう思わせるくらい恐るべき闇の力が秘められているのだとすると、これは……。



『離婚しない男―サレ夫と悪嫁の騙し愛―』4話より© テレビ朝日



 毎週土曜日よる11時30分から放送されている『離婚しない男-去れ夫と悪嫁の騙し愛-』(テレビ朝日)で、最低最悪の不倫男に扮する小池徹平を見てくれ。あの血走った目を!


 イケメン俳優の探求をライフワークとする“イケメンサーチャー”こと、コラムニストの加賀谷健が、本作を“テレビドラマ史上もっとも危険な不倫ドラマ”だとする理由とは?


◆ソファの上下は“異界と現実”
「この家で綾香に会えるなんて……」


 娘・岡谷心寧(磯村アメリ)の子役事務所マネージャーにして最強最悪の不倫相手・司馬マサト小池徹平)がささやく。


「この家」が意味するのは、夫・岡谷渉(伊藤淳史)と暮すマンションの一室であるばかりか、岡谷綾香(篠田麻里子)の身体の中そのもの。なんと淫靡でふしだらなこと。


 白昼堂々、人の家に上がり込んで情事にふける様子は暴虐が過ぎる。しかもこの場をさらに混沌とさせているのは、綾香とマサトが不貞に及ぶソファの下で、親権獲得の証拠をおさえるためにカメラを持った渉が、隠れているから。


 ソファの上と下。異界と現実。ソファ上のふたりはもはや人にあらず……。渉を助っ人する探偵・三砂裕(佐藤大樹)も「君の上にいるのは人じゃない、鬼だ」と言っている。鬼だとするなら、この不倫ドラマには陰陽師が必要か?


◆人間の心をもて遊ぶ悪魔



 単なる邪鬼なら、陰陽師で成敗できるだろう。でも本作の邪悪さはもはや不倫という次元を超えているように思う。ソファ上で綾香に覆いかぶさるマサトは、カッと開いた目で彼女を誘惑し、煽る。


 この目、鬼の目じゃない。西洋の悪鬼、悪魔のそれじゃないか。それも相当上のランクに位置づけられる悪魔。人間の心をもて遊び、本能の深いところをダイレクトに刺激する。


 そのために性愛的な欲望を利用するのは、悪魔の常套手段。なるほど、すると岡谷夫婦は不倫の悪魔に取り憑かれていることになる。ソファの下でふるえる渉は、頼りない神父といった感じか。


◆最低最悪の不倫男の正体



 小池徹平の悪魔的な演技も神がかっている。ほんと、あの目は間違いなく小池の真骨頂を集約したようなものだが、血走る眼球は、『ディアボロス/悪魔の扉』(1997年)で最強の悪魔を演じたアル・パチーノに匹敵するのでは?


 同作のアル・パチーノは、優秀な弁護士であるキアヌ・リーブスをたぶらかして、世界を牛耳ろうとする。最初は言いなりでどんどん出世するキアヌだが、最終的には反旗を翻す。


 それに激怒した悪魔が目を剥く。この血走る狂気と圧倒的な邪気が、本作の小池にも感じられるのだとすると。不倫妻に誘惑の言葉の数々をささやく、最低最悪の不倫男の正体は、悪魔の申し子だったわけか。


◆颯爽と現れる救世主



 うまく撮影に成功したものの、もう身も心もボロボロの渉。そりゃそうだ。なんてったって相手は悪魔とその下僕なのだから。まるで天使のように渉のことをフォローする裕の慰めも効果なし。


 ソファの下から這い出て、歩道橋の上でわざわざ崩折れる。さて困った。このメソメソ神父。これじゃあまたすぐに負けてしまう。そこへ颯爽と現れる救世主が、ただならない雰囲気を醸す弁護士・財田トキ子(水野美紀)。


 証拠映像を見て、よく撮ってきたと渉をほめ、労う。そして親権獲得のための弁護を引き受けると。心強いなんてもんじゃない。見習い神父に代わって闇を祓う心強いエクソシストみたいな?


◆“テレビドラマ史上もっとも危険な不倫ドラマ”である理由



5話より



 そっか、これはただの不倫ドラマではやっぱりなかったのである。ズバリ、エクソシスト不倫ドラマ(!?)だったのだ。


 なんだって物騒な。と、思うかもしれないが、親権獲得が主人公のモチベーションであり、ドラマの核になってることがミソ。


 マサトはたぶんそこまで心寧を子役として売り出そうとは考えていないはず。それを口実に綾香の肉体をただただ貪りたいだけ。彼女との未来ももちろん全然考えちゃいない。このふたりに心寧が取り込まれてしまう!


 そこに待ったをかける渉。図式的には、まさに悪魔に取り憑かれた女優の娘と神父たちとの死闘を描いた、ウィリアムフリードキン監督作『エクソシスト』(1973年)へのオマージュとも言えなくもない。


 自己犠牲を払う伊藤淳史がジェイソン・ミラーで、水野美紀がベテランの闇払い役のマックス・フォン・シドーといったところか。


 間違いなく本作は、テレビドラマ史上もっとも危険な不倫ドラマである。


<文/加賀谷健>


【加賀谷健】音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu