恐怖の仕掛け人がやってきた!ホラー映画でヒットを連発、昨年は『M3GAN/ミーガン』(22)が世界的流行となったブラムハウス・プロダクションズ。その創設者にしてCEOのジェイソン・ブラムが1月、『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』(公開中)のプロモーションのために初来日した。

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そこで、ホラー映画に精通し、ブラムハウス作品の大ファンでもあるアメキャラ系ライターの杉山すぴ豊が、私物の『ハッピー・デス・デイ(17)殺人鬼“ベビーマスク”の仮面を被り、ブラムハウスのロゴTシャツを着てインタビューを敢行。いまやハリウッドを代表するプロデューサーの1人と言っても過言ではないブラムに、なぜ彼の送りだすホラー映画が人々を惹きつけるのか、そして“ジェイソン・ブラム”がいかなる人物なのかを尋ねた。

■「インディーズ映画のエッジを保ちながらも世界中に届けやすいのが、ホラー映画というジャンル」

――ハロー!ミスター・ブラム!

「(“ベビーマスク”の仮面を見て)Oh,my god!」

――お会いできて本当に光栄です。自分のブラムハウス愛をまず伝えたくて(笑)。

「すばらしいですね、ありがとう!」

――ブラムハウス印のホラー映画の勢いは本当にすごいと思います。例えばマーベル・スタジオがヒーロー映画ブームを作り業界を牽引しているように、いまのホラー映画ブームを支えているのはブラムハウスだと思います。ご自身では、なぜブラムハウスの映画がここまで受け入れられているとお考えですか?

「“ブラムハウスの映画”とおっしゃっていただいてうれしいですが、我々は裏方です。ブラムハウスは常々フィルムメーカーの役に立つ製作会社でありたいと思っています。要は才能のある作家にチャンスを与えて、作品を発表するためのツール、プラットフォームであろうということです。だからこそ作家のパッションのある作品を発表できているのだと思います」

――『セッション』(14)や『ブラック・クランズマン』(18)等の非ホラー映画も作られているわけですが、やはりブラムハウス=ホラーというイメージが強い。ホラー映画に力を入れている理由はなんですか?

「怖い話というのは世界中で受け入れやすいからです。僕はいわゆるインディーズ映画が好きです。反体制的でメジャー映画にはない新しさがある。こうしたエッジを保ちながらも世界中に届けやすいのが、ホラー映画というジャンルの特長だからでしょうか」

――ブラムハウスがここまで大きくなり発信力が強くなると、企画の持ち込みも多いのではないでしょうか。『ザ・スイッチ』(20)公開時のインタビューでは、1週間に25〜50本、月に100〜200本の企画に目を通し、その中から年間10本ほどの劇場用映画を作る、と仰っていましたね。

「いまは100人ぐらいのスタッフがいるので、僕一人ですべてに目を通しているわけではありません。ずっと続けていたら心臓発作になってしまいますから(笑)。優秀なスタッフがチョイスし、『これはいい』と上がってきたものを判断しています」

■「僕は“80%ビジネス、20%クリエイティブ”の人間です」

――ブラムさんが企画にGOサインを出される基準はなんでしょうか。

「まずは低予算で作れるか、ということです。予算はクリエイティビティの敵です。これはちょっと矛盾した言い方かもしれませんが、予算が膨らめば膨らむほど挑戦ができなくなるんですよ。例えばメジャースタジオで予算1億ドルの映画を検討する際は、『過去5年に、同じようなテーマで、1億ドルの予算かけてヒットしたものが3本以上あるか』というような決め方をします。石橋を叩いてから渡るようなもので、それは同時に企画選びに冒険をしないことでもあります。ですが低予算であれば、そんなことは気にしなくてもいい。僕は“これまでにない新しさがあるか”、“おもしろいストーリーか”、“怖いか”という点を大事にしています」

――ブラムハウス作品のイキの良さ、強さの秘密がわかったような気がします。ところでホラー映画文化においてプロデューサーの名がここまで立っているのは、僕の記憶ではロジャー・コーマン(筆者註:低予算のホラーやアクション映画を次々と送りだし、B級映画の帝王と呼ばれた。ジャックニコルソンフランシスフォード・コッポラなど多くの才能を見出したことでも知られる)以来ではないかと思います。

「もちろんロジャー・コーマンのことはリスペクトしています。彼も低予算映画で勝負してきましたからね。ただコーマンとブラムハウスには決定的な違いがあるんです。コーマンは新人監督を多く起用しましたが、ブラムハウスではすでに実績のある監督を中心に起用しています。彼らの多くは、才能があるのに少しトレンドから逸れてしまって、作品を作る機会に恵まれていない人々です。

一人例をあげるとしたら、ジェームズ・ワンがそうでした。彼は『ソウ』シリーズでブレイクしたあと、少しスランプ気味でしたが、僕は彼の才能を信じていたので声をかけたんです。そうして生まれたのが『インシディアス』です。先ほどブラムハウスのことを“フィルムメーカーの役に立つ製作会社”と言ったのはこういう理由からです。ただ『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』については、とにかく原作ゲームの作者であるスコット・カーソンの意見を最優先にしたので、彼が推薦した新人のエマ・タミを監督に起用しました」

――ワンの名前が出たところで、彼が率いる製作会社アトミック・モンスターとブラムハウス・プロダクションズの合併も話題です。ビジネスパートナーとなったワンをどういう人間だと思いますか?

「僕は“80%ビジネス、20%クリエイティブ”の人間ですが、ワンは“20%ビジネス、80%クリエイティブ”なんです。お互いに違うから上手くいくし、尊敬しあえるのでしょう。そしてワンほど人を怖がらせることに長けたクリエイターはいませんね」

――『M3GAN/ミーガン』(22)も『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』もいい意味で怖すぎず、ライト・ホラーとして楽しめました。怖すぎない映画を製作しているのは、ホラー映画のすそ野を広げたいという戦略でしょうか。

「実はあまりマーケティングとか、こういうのがいいだろう的なことは考えていません。ただホラー映画においてずっと怖いだけだと麻痺してしまうので、観客がリラックスできる、例えば少し笑えるとかそういう塩梅は大事にしています。だから結果的にライト・ホラーになったのかと思います。あともう一つ大事にしているのが“家族”という要素です。ブラムハウスのホラーでは、家族の物語が重要な要素になっています。一番身近で共感しやすい家族をホラーと絡ませることで物語がぐっとおもしろくなりますよね」

――日々さまざまな企画が持ち込まれることでしょうが、今後日本のクリエイターがブラムハウスで監督をすることも“あり”なんでしょうか?

「もちろんです!最近だと『ゴジラ-1.0』が本当にすばらしかった。あの作品も怖い映画ですよね。先ほど僕が大事にしたいと言った、家族ドラマの要素もきちんとある。山崎貴監督とはお会いしたいと思っています」

――それは楽しみです。楽しみといえば僕はブラムハウスの現在のムービング・ロゴが大好きです。『ハロウィン』のマイケル・マイヤーズから始まり、歴代ブラムハウス作品のキャラが次々と出てきますが、いつかブラムハウスのホラー・キャラが全員共演する、ブラムハウス版『アベンジャーズ』みたいな企画はどうでしょうか?マイケルとミーガンが戦うとか(笑)。

「それはおもしろいですね!ただ、どの作品もブラムハウスだけではなくほかの出資者、権利者もいるので…。調整が大変ですね(笑)」

インタビューを終えて、ブラムさんがいまの映画界におけるホラー映画仕掛け人であると同時に、映画ビジネスについてすばらしいビジョンを持った人だと感じました(そしてナイスガイ!)。とにかくメジャー・スタジオでは出来ない意欲的な作品を作る、そして多くの映画作家にチャンスを与える存在でありたいという言葉が胸にささりました。「予算はクリエイティブの敵」というのも、とても深い意味がある名言ですね。

今後もたくさんのブラムハウス発の映画が封切られます。映画館で震えながらも一つ一つの作品に込められたブラムさんの熱意を感じたいです。

なお『ハッピー・デス・デイ』マスク姿の僕との2ショット写真を、ブラムさんが自身のX(旧ツイッター)にあげてくれました!次お会いする時はミーガンか、『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』のキャラクターたちの扮装にチャレンジしたいと思います。

取材・文/杉山すぴ豊

初来日のジェイソン・ブラムを直撃!/撮影/河内彩